PPAPのハナシの続き


さて、「そもそも商標登録なんてされません」という話をした前回に引き続いて書きます。

というか、登録されなければその後のハナシも無いので「もう書かなくていいかな」と思っちゃってたんですが、書くといった以上書かなきゃ運が逃げる気がしたので。

今回の話は、(100%あり得ないけど)登録された場合であってもピコ太郎側が損害賠償責任を負う事は無いという趣旨のハナシです。
なので、(絶対に登録されないけど)登録されたことを前提にしたハナシになります。

で、いざ書こうと思い立って、「こりゃ痛い」と思った記事に再度アクセスしたんですが、さすがにまずいと思ったのか「痛すぎぃ!」と思った記事は消えていました。

なのでうろ覚えで書きますが、最初の突っ込みドコロはヤッコサンが「勝手に歌ったら権利侵害だ」とのたまっていたというところ。

唄ったら商標権の侵害なんてことはあり得ない

ヤッコサンは「勝手に歌ったら権利侵害」と言ってたという記事がありましたが、絶対にそんなことはありません。

商標権に関して世間に蔓延する大きな誤解の一つは、「商標権は言葉を独占する権利」ということかと。

こんな風に誤解している人が結構多い気がしますが、これが一番の間違いですね。
商標権というのは、「商売の看板を守る権利」です。
つまり、

「商標登録された言葉を使えば何でもかんでも権利侵害になる」のではなく、
「商標登録された言葉を商売の看板として使うと権利侵害になる」のです。

一応、何が「商売の看板」とみなされるかと言えば、法律にはこんな感じで書いてあります。

商標法2条
3  この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一  商品又は商品の包装に標章を付する行為
二  商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
三  役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四  役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
五  役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
六  役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
七  電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八  商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
九  音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為
十  前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為

まぁ、わかんなくてもいいんですが、
ともかく、スーパーやデパートの販促ソングみたいなものなら一考の価値はありますが、普通の楽曲の歌詞が「商売の看板」なんてみなされる可能性はゼロです。
従って、「PPAP」、「ペンパイナポーアポーペン」といった登録商標があったとしても、「PPAP」や「ペンパイナポーアポーペン」といった歌詞を含む楽曲を歌ったところで商標権の侵害にはなりません。

お次に楽曲のタイトル。
これは歌詞に比べると一見して「商売の看板」的なイメージがあるかもしれません。
が、セーフです。
考え方は2つ(だけど自分は実質的にこの2つの考え方に違いは無いと思ってます。)

1つめは、上で引用した「使用」の条件、つまり「商売の看板として使っている」ということに当たらないという判断。
PPAPの騒動に対しては、「レコード」を指定商品とした「UNDER THE SUN」という登録商標があるのに対して、アルバムタイトルが「UNDER THE SUN」というCDが販売されたことに対して権利行使がされた事件が一番参考になるかと。

判決文を引用すると、

本件CDに表示されている被告標章は、専ら本件CDに収録されている全一一曲の集合体すなわち編集著作物である本件アルバムに対して付けられた題号(アルバムタイトル)であると認められ、本件CDの需要者としても、被告標章を、専ら本件CDの内容である複数の収録曲の集合体すなわち編集著作物である本件アルバムについて付けられた題号(アルバムタイトル)であると認識し、有体物である本件CDを製造、販売している主体である被告を表示するのは、アルバムタイトルとは別に本件CDに付されているフォーライフ商標や被告の社名であると認識することは明らかである。よって、本件CDに使用されている被告標章は、編集著作物である本件アルバムに収録されている複数の音楽の集合体を表示するものにすぎず、有体物である本件CDの出所たる製造、発売元を表示するものではなく、自己の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別する標識としての機能を果たしていない態様で使用されているものと認められる。

つまるところ、アルバムのタイトルは「商売の看板」じゃないから商標権によって権利行使される対象じゃないよね、という話です。

もう1つ、商標法にはこんな条文があります。

第二十六条  商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
<略>
二  当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標
三  当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標

ざっくりいうと、「商品やサービスの説明書きには商標権は効かない」という事です。

で、世間の多くの人に「PPAP」として認識された楽曲の商品に「PPAP」と表示するのは説明書きなので効かないでしょ、というハナシ。
これはCD等の音源商品に限らず、関連グッズであっても使えるかと。
例えば、ヤッコサンの商標権の指定商品・指定役務が対応している、つまり形式的には商標権の侵害と言えるようなグッズであっても、「PPAP」がこれだけ有名になった今であれば、ピコ太郎の公式グッズで「PPAP」と表示されているものは、「説明書き」として上記の条文が適用されるのではなかろうかと。

この1つめと2つめの考え方、実質的には同じことだと自分は思っているんですが、まぁいいです。

 

伝家の宝刀、小僧寿し事件

これまでのハナシは、ネット上の他の記事でも指摘されていたことなので、前座的なものです。

「万が一登録された場合」の対応策として一刀両断ズバット解決な伝家の宝刀となる判例があります。それが、小僧寿し事件です。

これはどういう事件かというと、指定商品として「他類に属しない食料品及び加味品」が指定された「小僧」という登録商標があったのですが、その商標権者はあの有名な小僧寿しチェーンではなく、大阪市でおにぎりや持ち帰り寿司の製造販売を行っていた業者。

で、その商標権者が小僧寿しチェーンを商標権侵害で訴えました。

形式的には小僧寿しチェーンが商標権を侵害しているのですが、世の中的にも小僧寿しチェーンの方が有名で、お客さんは小僧寿しチェーンを認識して寿司を買いに行っているわけで、商標権を持っているからと言って大阪の業者が小僧寿しチェーンの上前をはねるのはどう考えてもおかしい。

で、最高裁まで行くんですが当然に商標権侵害は否定されました。
どういう理屈で判断されたかというと、

本件商品の売上げは専ら小僧寿しチェーンの著名性、その宣伝広告や商品の品質、被上告人(小僧寿し側)標章・・・の顧客吸引力等によってもたらされたものであって、被上告人標章・・・の使用はこれに何ら寄与していないのであるから、被上告人の被上告人標章・・・の使用により、上告人(商標権者側)の販売する商品の売上げにつき損害が生じたものと認められないことはもちろん、上告人には本件商標権につき得べかりし利益の喪失による損害も何ら生じていないというべきである。

つまり、小僧寿しチェーンの売り上げは小僧寿しチェーン自身の知名度や広告宣伝活動によってもたらされているものであって、商標権者の商標を使用することによって得られているものではないから、商標権者には小僧寿しチェーンが商標を使用することによって発生した損害は無いし、商標権使用料等の得られるべき利益もない、という判断です。

妥当ですよね。

で、ヤッコサン、
やってることは、PPAPに限らず世の中で有名になった言葉を横から商標登録していることなんですが、この小僧寿し事件に照らしてどうでしょう?
仮に商標登録されたとしてですが(絶対に登録されないけど)、少なくともヤッコサンには何ら損害は発生していないでしょう。
世の中で有名になった言葉を我が物にしようとしているだけなんですから。

というわけで、PPAP騒動は騒ぐだけ時間の無駄なのでもう皆さん忘れましょう。

ヤッコサンに限らず、商標ブローカーってのはちゃんと判断すればどいつもこいつも根拠のないことで金をせびってるクズ共なので(ちゃんんとした)専門家に相談しましょう。

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