巷で騒がれているTPPと著作権侵害の非親告罪化の話。
「コミケがなくなる!」
なんてガヤガヤ騒がれていますが、普通に暮らしていたらなんのこっちゃら意味不明な話だと思いますので、少し書きたいと思います。
そもそもの話として、
不法行為に対して科される代償は、大きく「民事」と「刑事」に分かれます。
「民事」は、不法行為によって被害を受けたり嫌な思いをしたりした人が、裁判所に訴えることにより発生するもので、原則として金銭賠償です。著作権侵害の場合には侵害品の販売をやめさせることができたり、作品を勝手に改変された場合に有効な同一性保持権なんかの著作者人格権の侵害の場合には謝罪広告を掲載させることが可能だったりします。
「刑事」は、その名の通り警察、検察によるものですね。
警察によって捜査され、検察に書類送検され、検察が起訴すれば裁判。判決により懲役や罰金。その過程で逮捕されることもあります。
「非親告罪化」というのは、この刑事の方に絡んでくる制度です。
例えば自分が何か小説なり漫画なりを創作したとして、その作品を他人が勝手に使って世間に公開したとします。
まんまパクリでも、パロディでも、MADでもなんでもいいですが、細かい著作権の内容は置いといて、法的には著作権の侵害になる行為だったとします。
民事訴訟を提起すればお金を取れたり、行為を差し止められたりします。
が、
別に警察に動いてもらって逮捕したり起訴したり懲役を科したり、そんなことまでは望まない、という人もいるでしょう。
親告罪/非親告罪、というのは、そういう時のためにある制度です。
本人が「馬鹿にされた」と思ってもいないのに警察が勝手に「お前、人の事を馬鹿にしただろう!」なんて言って人を逮捕するのはあり得ないですよね。
「親告罪」というのは、「告訴が無ければ公訴を提起できない」とされているもので、被害者の人が告訴しなければ、著作権を侵害した人を著作権侵害で起訴したりはできませんよ、というもの。
これに対して「非親告罪」というのは、被害者がどう思っていようと警察が勝手に捜査して検察が起訴できるというものです。
では、著作権の侵害がこの「非親告罪」になると何が起きるか。
「同人誌?いいじゃん!どんどんやってくれ!エロでもBLでもなんでもOK!」
という懐の深い漫画家さんがいたとします。
これに対してファンがいろいろな同人誌を創作してコミケで売ったとします。
ファン活動が盛り上がって大いに結構、作者もファンも嬉しく、みんなが喜びました!
という時に、面子に拘って存在感を示したい警察が「著作権侵害だ!おとなしくお縄を頂戴しろぃ!」とシャシャッてきます。
その結果、誰も悲しんでなどいなかったのに、警察の面子のために犯罪者にされてしまう不幸な同人作家が生まれました。
コミケで数多く販売されている薄い本、「同人誌」ですが、法的にグレーだと言われているのはここ最近よく知られるようになった話です。
私は同人誌が「著作権侵害」と短絡的に決めつけることには反対なのですが、ここではまぁ置いておくことにします。
そんな同人誌を作っていて、警察が「著作権侵害だ」と判断すれば、原作者が「別にいいよ」と思っていても警察の恣意的な判断により捜査が行われて、同人作家が逮捕されてしまう。
著作権侵害の非親告罪化によりそんなことが起こる、結果的に誰も同人誌を創らなくなりコミケが無くなる、というのが現在の非親告罪化反対の議論です。
確かにそうかもしれません。
なので、今現在の日本の著作権法で単純に非親告罪化のみを行うというのは私も反対です。
これに対して現状どんな議論になっているかというと、
・適用範囲に制限を付けた上で導入する方向となった
・営利目的でない公正な利用などを適用対象外とするなど、限定条件をめぐって最終調整している
・著作物の活用で得た商業的な利益の程度や、オリジナルの著作物の市場価値をどこまで損なったかによって判断する案を検討している
という事が報道されています。
つまり、非親告罪として処理可能な事例を制限して、警察の恣意的な捜査により横暴だと思われる逮捕が起こらないようにしよう、という議論ですな。
ちょっと待て
というのが正直な感想
そもそも、何で著作権侵害が非親告罪化する流れにあるの?
という疑問について
それを説明するために必要なのが、フェアユースという概念です。
フェアユースとは、法律に照らして形式的には侵害でも、実質的に損害を与えたり不当な利益を得たりしていないならセーフ、という考え方です。
著作権侵害が非親告罪であっても警察の恣意的な捜査で云々といのが問題にならない理由は、このフェアユースの制度にあると思います。
つまり、形式的には侵害でもフェアユースの範囲内だからセーフ。そもそも著作権侵害ですらないから警察は恣意的な捜査なんかできませんよ、ということです。
が、日本では非常に中途半端な骨抜きな形で、フェアユース的な、規定がされています。
例えば、
・図書館における複製
・教科書や親権問題での使用や学校での利用
・視聴覚障害者のための複製(点字にする場合等)
等々
非常に限定的に列挙されています。
物事をポジティブリストで限定的に規定する、実に日本らしいまどろっこしいやり方です。
これに対して、米国では包括的な形でフェアユースが規定されているので、非親告罪でも問題ないのです。
私は同人活動の是非を論じる上でも、包括的なフェアユース規定が必要だと常々主張してきました。
同人活動が違法か否か?という短絡的な議論ではなく、包括的なフェアユースを規定した上で、同人誌についてもファン活動の一環だと判断できるものについてはフェアユースとして許されるべき。
他方、原作の各部を抜粋、コピーして総集編を作るような同人誌はファン活動であっても許されるべき範囲を超えているからNG、といった判断が行われるべきであると思います。
そして、著作権侵害が非親告罪化するにあたっては、ファン活動で許されるべき範囲の同人活動を守るために、いよいよ包括的なフェアユースが必要だと思います。
しかし、現在の流れは非親告罪として処理できるか否か、つまり著作権者の告訴がなくても警察による逮捕や検察による起訴が行われる範囲について、部分的にフェアユース「のような規定」を設けようというものです。
この後に及んで、中途半端な規定を更に増やすというのは如何なものか
TPP参加に際しての急拵えで不当な逮捕を防ぐ為、ということなら警察が自重すればいいだけの話で、こんな法律作る意味なんてないと思うので、今回の対応は、将来的にも包括的なフェアユースを規定する意思がないということなのかと勘ぐってしまう次第なのです。
というわけで、今回少し触れたので、次回は「同人誌は違法か否か」について書きたいです。