「夢萌」裁判に見るクリエイターと企業とのバランス

夢萌商店で販売される商品について、キャラクターをデザインしたイラストレーターさんと夢萌の運営側との間で対価の支払いについての行き違いがもとで生じた裁判がありました。

本訴:平成25年(ワ)第28071号
反訴:平成26年(ワ)第17051号

クリエイターが仕事を請ける上で注意するべき教訓がたっぷりと詰まった判例だと感じたので、ちょっと書いてみます。

ざっくりと言うと、
とある絵師さんが夢萌の運営から夢萌で販売する商品のキャラデを依頼されてイラストを描いたが、対価を支払ってもらえず、夢萌を訴えた。
だけど、結局原告も被告も損をする泥仕合で終わった。
ということになります。

こう書くと夢萌の運営が一方的に悪いように聞こえますね。
まぁ、中身を読むと夢萌の運営側には一定の非があると思うのですが、クリエイター側にとっては、「条件面をちゃんと確認せずに安易に仕事を請けてはいけませんよ」という、大事な教訓になる裁判かと思います。
裏を返せば、「企業は、条件面についてちゃんと合意をせずにクリエイターに仕事をさせるのはやめましょう」という教訓でもあります。

アニメ制作会社やアニメーターの方にはこの判決文を寝物語に毎晩でも聞かせたいものです。

ですが、この裁判に基づいて最も言いたいことは、企業には企業の事情があり、クリエイターはクリエイターとしての本分を全うすべきだ!ということです。

要点を整理すると
・絵師さんは、イラスト1点ごとにいくら(10万、5万円)で対価を受け取るつもりでいた
・絵師さんは、イラストの制作にとどまらず、酒の商品のイメージや、ラベルの印刷業者の指定、酒造との打合せへの同席、他の絵師や声優の人選への関与等、単なる絵師としての立場を超えて今回の夢萌の事業に関与していた
・夢萌は絵師さんの立場は単なる下請けのイラストレーターではなく、今回の事業は絵師さんと夢萌との共同プロジェクトであり、絵師さんへの報酬は売り上げの3%だと考えていた(?)
・(当然ながら)両者の間に正式な契約書は存在せず、どのような条件で仕事をするのか明示的に合意されたこともない

裁判になるに際して
・絵師さんは、夢萌が一向に対価を支払わないので、債務不履行による契約解除を通知した
・散々イラストを描いたのに結局一銭も回収できていないので、それに対しての損害賠償を請求した

判決趣旨
・イラスト1点ごとに対価を支払うのが普通だし、絵師さんが夢萌側にした説明でも、その趣旨は客観的に十分伝わっている。だから、夢萌は、ラベルのイラストについては1件10万円として対価を支払うべきであった。でも契約解除したので、その対価はもう受け取れない。
・夢萌が酒を販売したことによって得た利益に対して、不当利得して絵師さんに変換するべきである。ただし、現状では赤字であること等を考慮すると、絵師さんが受け取れる額は、既に販売された分の売り上げの3%にとどまる。

といった感じです。
詳細な時系列のまとめは末尾につけます。
契約解除せずにやれば、ラベル4点分の40万は取れたかもしれないのになぁ、ということも思ったりします。つくづく、冷静さの重要性を感じるところです。

判決文からは、絵師さんと夢萌とが条件面で折り合っていない状態で仕事が進行していってしまっていることがわかります。
そこは決定的にまずいのです

が、

実際そんなもんだよね。

と思うクリエイターの方も多いのではないでしょうか。

で、最終的には思っていたよりも少なめの額で決着、というのが大半だとは思うのですが、今回は一銭も支払われていないというところがぶっ飛んでます。

特にこの事件では、絵師さんは単なる絵師さんとしての立場を超えて事業に関与していたようで、そこが夢萌側が「共同プロジェクトだ」「事業の儲けに応じて報酬を支払う」と主張した一番の原因だと思われます。
単純に考えれば、絵師としてイラストを制作したばかりか、事業の方針にまで関与して動いていたのであれば、イラスト作成の対価に加えてアドバイス料をもらってもいい位だと思うのですが、、、

夢萌側だけを責められたものではありません。

絵師さんはこの事件で挙げられている16点のイラスト(バージョン違いを含めばもっと)の対価が受け取れなかったという損害ですが、夢萌側は商売をするうえで最もリスクの高い、「商品在庫」というリスクを負っています。
結果的に、今回に関しては大半の在庫を販売できずに廃棄していると思われます。もったいない。。。
だからイラストの対価を払わなくてもいい、ということではないので、夢萌の対応には非があるのですが、クリエイター側は企業の商売のやり方に口出しをするのであれば、一緒になって「在庫リスク」というものを意識する必要があるということです。

なので、絵師さんが色々と商売のやり方に口出しをしていたのであれば、夢萌側が「共同プロジェクトだ」「事業が育たないなら儲からない」と言いたい気持ちも理解はできるところです。

「船頭多くして船山に登る」

という言葉があります。
私はこの言葉が大好きです。

つまり、絵師として、「イラスト1点いくら」という形で、「在庫リスク」の外側で仕事をしたいのであれば、「絵を描く」ことに全力投球し、企業のやり方を尊重して事業は任せるべきだ、と思うのです。
逆に、「この企業のやり方はまずいよな」と思うような、尊重できない企業のために自分の貴重な能力は使うべきではないでしょう。
自分に何かやりたい事業や実現したいことがあって事業のやり方に口出しをしたいのであれば、場合によっては企業と一緒になって何らかのリスクを負う必要が出てくると思います。
「この人の意見はぜひ欲しい」となれば、逆にアドバイスについてお金がもらえたりするので非常に難しいですが。

今回、絵師さんは「アドバイスはしたが方針を決めたのはすべて夢萌側だ」と主張していたようです。
結局商売をするのは夢萌なので、絵師さんの意見を採用することについても自身の判断として責任は負うべきで、「絵師さんの意見を反映したからリスクを取れ」というのはちょっと強引です。

が、やはり私はこの判決文をよんで、どうしても絵師さん側の対応にも問題を感じずにはいられないのです。

条件に付いてちゃんと合意せずに仕事を進めてしまったことがまずいとうのは普通過ぎる話で、そうではなく、一番問題だと思うことは、相応のやり取りを経て不信感が募っていたとしても、絵師として「イラストを提供する」という立場を超えて色々と関与してきたにも関わらず、一方的に契約解除を通知して訴訟に踏み切ったことです。

この時点で、この「みみきゅ~る」の事業は死んでしまいました。
絵師さんが描いた絵も、色々と考えて夢萌にアドバイスしてきたことも、夢萌が製造した在庫も、全て無駄になってしまったのです。

悲しいですよね。

夢萌側も通知書の受領を拒否したり、問題のある対応をしているのですが、願わくば「みみきゅ~る」の事業が前向きな方向で進むように問題を解決して欲しかったものです。
絵師さん側か、夢萌側か、どっちかが私に依頼してくれていたら。。。

こういった、クリエイターと企業との悲しい顛末を少しでもなくすために、弁理士として、そして、「創ることの御手伝い」をする株式会社虎夢の代表として、世の中のクリエイティブを守っていきたいと思います。

以下、おまけで時系列をまとめます。

①【H24.12上旬?】絵師さんから夢萌に仕事をさせてくれというアプローチ
判決文には実際のメールの文面が載ってますが要約すると
・夢萌が既に販売していた「うめ物語」が可愛かった、自分も酒のラベルのイラストを描きたい
・自分のサイトのイラストを見て検討して欲しい
といった内容です。

②【H24.12上旬?】夢萌から回答
オリジナルの酒商品を開発中であること、絵師を募集中であること、仕事をする際の最低条件を教えて欲しいことが夢萌から絵師さんに返信されます。

③【H24.12上旬?】絵師さんから夢萌に条件提示
こちらも実際のメールの文面が載ってますが要約すると
・ラベルの紙質などにもこだわり、高級感を出した商品にしたい
・グッズのギャランティは5~10万円で受けている
といった内容です。

④【H24.12/11】絵師さんと夢萌が打合せ
・グッズのイラストを制作する場合、パッケージが10万円、それ以外は最低5万円で受けていること
・販売する酒の名称は「MiMiQueur(みみきゅ~る)」とすること
・キャラクターを5人制作し、夫々異なる味の酒のラベルにすること
・キャラクター5人の酒は順次出していく方が良い
こと等が話し合われたが、契約書の作成、調印には至らなかった

⓹【H24.12/12~】絵師さんがイラストの作成を開始
さっそく、その年末のコミケで配布するチラシのイラストを絵師さんが作成して夢萌にデータを引き渡した他、実際にラベルの制作に取り掛かったようです。

ここが運命の分かれ道ですね。
条件を色々と話したようですが、判決文からは、夢萌側から「じゃあいくら払う」という言質は取れていないように感じます。
それにも関わらず絵師さんは仕事を始めてしまったし、夢萌はその成果物を受け取ってしまった。ここから、運命の糸は狂い始めたのではないでしょうか。

⑥【H25.1月頃】夢萌が「みみきゅ~る」の販売を開始
絵師さんは次々とイラストを作成し、夢萌では
「みみきゅ~る 温州みかん」(H25.2/22)
「みみきゅ~る こい梅」(H25.3/22)
「みみきゅ~る(ぶどう)」(H25.5/31)
「みみきゅ~る こいあんず」(H25.7/2)
が順次販売されたようです。

また、これらの商品の販売促進用イベントのため、絵師さんはラベルのイラストの他
・イベント配付用チラシイラスト
・サイダーラベルイラスト
・せんべいラベルイラスト
・ぶどうタペストリーイラスト
・特典イラスト
・直筆色紙
を作成して夢萌に引き渡したようです。

H24の年末からこのタイミングまで、既に半年以上ですが、なんとこの時点でもまだ夢萌側から絵師さんに対して一切対価が支払われていないという事実に驚愕します。

ちょっと時系列が前後しますが、このように「みみきゅ~る」の商品展開が行われていく過程で、絵師さんと夢萌との間に条件の契約に関するやり取りがなんどが交わされます。

⑦【H25.1月頃】夢萌から絵師さんに契約書案の提示
契約書には、夢萌が絵師さんに対して3%を支払うことが記載されていたようです。
何の3%なのかちょっとわかりませんが、多分売上金額でしょう。
しかし、絵師さんは契約書にはサインしなかったようです。

⑧【H25.4/5】夢萌から絵師さんに対して、共同事業契約の提案
実質的には上記の「3%」契約と同じようなものだと思うのですが、
絵師さんが夢萌にイラストやアイデアを提供し、それに基づいて夢萌が事業を行い、事業が育てば儲かる、事業が育たなければ儲からないという形の契約が提示されたようです。
これについても、絵師さんは「何か特別な契約だったら怖い」ということでサインしていません。

ここにも一つポイントがあります。
絵師さんは夢萌側から提示された契約書案にサインしなかった。
つまり、この時点で絵師さんと夢萌との間で、条件は決定的に折り合っていない。
なのになぜそのままイラストを描き続けてしまったのか。
狂った糸がそのまま紡がれていってしまいます。

⑨【H25.7/25】絵師さんから夢萌に対価の支払いについて問い合わせ
対価が一向に支払われないので絵師さんが夢萌に問合せをします。
すると夢萌は「売上の3%程度では大した金額にならない」と回答します。
これに対して絵師さんは、「作成したイラスト1点あたり5万円にはなるように計算して欲しい」と要望しますが、夢萌は「現状赤字が続いている」等と回答し、「宣伝になるのであれば絵師は無料でイラストを提供することがあるか」等と尋ねたようです。

⑩【H25.8月頃】不信感を抱いた絵師さんが行動を初めて争いが表面化

⑪【H25.9/24】絵師さんが夢萌に対してイラストの対価等についての支払いを求める通知書を送るが、夢萌側は受け取りを拒否

⑫【H25.11/8】絵師さん、夢萌の対応が債務不履行だとしてイラストの著作権譲渡契約を解除する旨の意思表示を訴状で行う

ということで、絵師さんが最初に夢萌にメールを送ってから約1年後に裁判になります。

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