【コンバース戦記】#2-第弐章-開戦、東京地裁の陣

諸々の経緯を経て、我が国ではコンバースが偽物しか買えなくなってしまいました。
というテーマで書いていましたが、もう最後にいつ書いたかも覚えていない、コンバース戦記の続きを書きます。
是非とも、
序章
第壱章
を先に御覧下さい。

で、ロイヤル共和国に宣戦布告した伊藤忠公国ですが、宣戦布告の内容は
1.輸入販売するな!
2.輸入販売に際してロゴを使うな!
3.持ってるモン全部捨てろ
4.ウェブとか広告とかに表示してるロゴを全部消せ
5.合計、約8億円払え
といったところ

これに対し、ロイヤル共和国も逆訴訟で宣戦布告しますが、その内容は
1.そっちこそ偽物売るな
2.「俺らが不正なものを売ってる」って嘘言うな
3.1億円払え
4.米国コンバースシューズの輸出元に圧力加えるな
5.国内の販売店に圧力加えるな
といったところです。

このように、コンバース戦争の戦線は初っ端からかなり拡大していまして、戦線の全てを解説していると非常に長くなります。
ただ、全ての戦線の火種は、ロイヤル共和国の行為が「真正品の並行輸入」に該当するか否かなので、「真正品の並行輸入」に関する戦況に絞って解説をします。

真正品の並行輸入に関しては、序章にて解説した通り商標権侵害の違法性が阻却されるか否か、つまり「確かに商標権侵害の形式的な要件は満たしてるけど、でもセーフだよね」という判断になるか否かの議論です。

これに対して判断するための要件は

(1)商品に付いてる商標が、輸入先の国の商標権者によって付されたものであること。

(2)輸入先の商標権者と、日本国内の商標権者とが同一であるか、若しくは法律的、経済的に同一であるとみなせる関係にあること。

(3)日本国内商標権者が、本国の商品の品質を直接的、間接的に管理できる状態にあり、日本国内の商標権者が保証している品質と本国の商品の品質とに実質的に差異がないこと。

夫々の詳しい解説については序章を御覧下さい。

で、コンバース戦争においては、少なくとも(1)の要件はセーフですね。米国コンバース社の商品を輸入しているのですから。
尚、裁判で伊藤忠公国側は、「横流し品で、正規ルートの商品じゃない!」みたいなことも言ってたようです。裁判所の判断としてはまったく相手にされてませんでしたけど。

(2)の要件について、当然に伊藤忠公国側としては「ワイら、米国コンバース社との間に何の法的関係も資本関係もありゃしまへんで」ということを主張してきます。
これに対して、ロイヤル共和国側は「真正品の並行輸入の趣旨に鑑みれば、新製品の並行輸入の要件として、法律的又は経済的に同一人と同視し得るような関係を要求するべきでない!」と、最高裁判例の枠をも超えた、かなり張り切った主張をしています。


お次、(3)の要件について、伊藤忠公国は割と突っ込みどころのある事を言ってます。要約すると、「うちらの商品、米国コンバースの商品とはまったくの別モンで、何の関係もありゃしまへんで」という趣旨のことです。ちょっと許せないなと思うのは、「コンバース商標を譲り受ける時にはコンバースのブランド力は低迷していたが、うちらの努力によって回復した」という趣旨の事を宣っていることですね。何様だ?

このように双方が攻守を繰り広げた上で、裁判官という神様の判定が下されます。

・伊藤忠公国と米国コンバースとの間には、同一の企業グループを構成している等の密接な関係があるとはいえない
・伊藤忠公国の商品と米国コンバースの商品とは違うから、品質管理の要件も満たされない
従って、真正品の並行輸入とは認められない。

至極真っ当、ゆえに非常に残念な判決となってしまいました。

初戦・東京地裁の陣のエッセンスを整理しますと、
・伊藤忠公国は、自分達の商品、即ち国内のコンバース商品が、米国のコンバース商品とは別物だということを積極的に主張している。
・自分たちの事業により、「コンバース」商標には自分たち伊藤忠公国独自の「グッドウィル」つまり良い評判が蓄積されていると主張している。が、裁判所はその点については一切認めていない(笑)。
日本の「コンバース」商標権によって保護されるのは、世界的に有名な米国の「コンバース」ブランドではなく、あくまでも日本の商標権者である伊藤忠公国の「コンバース」商品であると説明された。そのため、いかに需要者が「コンバース」に基づいて認識するブランドが米国の「コンバース」ブランドであっても、米国の「コンバース」商品の正規品の流通を商標権侵害として阻害することは権利濫用には当たらない

これを思いっきり個人的主観を交えて意訳しますと、
「コンバース」つったら誰だって米国コンバースのブランドの商品だと思うだろうし、実は伊藤忠公国が作ってて、しかも米国コンバースとは全く無関係だなんて誰も知らないだろうけど、今の商標権が伊藤忠公国にある以上、米国コンバースの商品の輸入販売の是非は伊藤忠公国の胸先三寸となっても仕方がない。地裁ではこれが限界だから許して。

ということかと。

この件について、結構な人数に「国内で売ってるコンバースのシューズって、米国のコンバースとは無関係で、伊藤忠公国が勝手に作ってるんだけど、知ってた?」という質問をしてますが、全員から「知らなかった」って返ってきてます。
何が独自のグッドウィルだ。

そして、米国コンバースの商品、少なくとも何らかの関係の下で製造されている商品だと信じてる人にとっては、「それ、騙されてます、偽物ですよ?」って話ですよね。

あれ、商標法の法目的、「需要者の利益」害されてない?
って思うんですけど。

まぁつまり、最高裁判決として「真正品の並行輸入」の要件が明確に規定されていて、その規定に乗っかっていない以上、地裁レベルじゃあどうにもならないってことですね。

地裁レベルでのこの判断は、ロイヤル共和国としてもある程度予測していたのではないでしょうか。最高裁判例に挑もうってんですから、少なくとも地裁では終わるわけがないのです。

というわけで、次回、
【コンバース戦記】#3-第参章-転戦、知財高裁の陣
に御期待下さい!

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