「FRANCK MULLER」と「フランク三浦(※右上の点無し)」
揉めてますな。
知財高裁では「フランク三浦の勝ちぃ~」となったわけですが、最高裁での判断がどうなるのか。その結果は、今後の我が国の「パロディ」の容認について大きな意味を持ってくるのではないかと、もう楽しみで楽しみで仕方ありません。間違っても和解なんてしてくれるなよ。
というわけで最高裁判決を待っている現状ですが、どんな点が争われているのか整理しておきたいと思いましてチョイと書こうと思います。
事の発端は「フランク三浦(※右上の点無し)」の商標登録。
平成24年3月27日 商標登録出願
平成24年7月31日 商標登録査定
平成24年8月24日 設定登録
という流れで商標が登録されます。
3年後
平成27年4月22日に、FRANCK MULLER側から「それはうちの商標のパクリだろう!無効だ!」ということで無効審判が提起されます。
そして、
平成27年9月8日 「フランク三浦(※右上の点無し)」の商標登録は無効!
という審決が特許庁でされます。
昨年、フランク三浦生産中止と言うニュースがありましたが、この無効審決が理由である事は間違いないのではないかと。
http://news.livedoor.com/article/detail/10885459/
で、
平成27年10月16日 「そんな審決おかしい!取り消せ!」ということで「フランク三浦(※右上の点無し)」側から裁判所に審決取り消し訴訟が提起されます。
で、
平成28年4月12日 「そだね~、その審決おかしいね~、やっぱりその商標登録は有効!」ということで「フランク三浦(※右上の点無し)」側の勝訴の判決が下されます。
で、その判断が本当に正しいのか、最高裁で判断されることとなりまして、その判断を待っているのが今の状態。
どうなるんでしょうね~wktk
で、実際にはどんなことが判断の対象となったのかというと、大きく2つ
(1)「FRANCK MULLER」と「フランク三浦(※右上の点無し)」とは、類似しているか?
(2)「フランク三浦(※右上の点無し)」は、「FRANCK MULLER」と混同の恐れがあるか?
というコト。
まず(1)について
商標法上での「類似」っていうのがどのように判断されるのか、という
「外観」
「称呼」
「観念」
の3つの要素で判断することが基本とされています。
「外観」は、その通り、商標の見た目
「称呼」は、商標を声に出して読んだ時の音、音感
「観念」は、その商標から想起されるイメージ
で、特許庁での審判手続きにおいては、
「三浦(※右上の点無し)」って漢字で書いてあれば、サスガに見た目として「FRANCK MULLER」とは違うよね。だから外観は違うね。
でも、声に出して読むと「ミュラー」と「ミウラ」って似てるよね。だから称呼は類似だね。
それに、「FRANCK MULLER」ってかなり有名だし、語感が似てる以上、「フランク三浦(※右上の点無し)」って言葉からは「FRANCK MULLER」が思い浮かんじゃうから、観念も類似ってことになるよね。
そうするとやっぱり「FRANCK MULLER」と「フランク三浦(※右上の点無し)」は類似だよね。
という判断でした。
次に(2)について、
これは(1)の「類似だ」という判断の上で、「時計に使えばそりゃ混同の恐れがあるでしょうよ」と判断されました。
知財高裁での審決取り消し訴訟ではその判断がひっくり返されたわけですが、ざっくりとした趣旨は、
さすがに「FRANCK MULLER」と「フランク三浦(※右上の点無し)」を間違える人はいないよ。だから類似じゃないし、混同の恐れもない。
というもの。
具体的には、特許庁では類似するとされた「観念」の部分について、
思い浮かぶから類似ってもんじゃないよね。「FRANCK MULLER」からイメージされるものと、「フランク三浦(※右上の点無し)」からイメージされるものとはやっぱり違うよね。
ということで「観念」は類似しないとされました。
で、「称呼」は類似するけど、全体としては類似しないって事になるね。
と判断されました。
また、「混同の恐れ」については、
商標法4条1項15号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものではあるものの、飽くまで同号に該当する商標の登録を許さないことにより、上記の目的を達するものであって、ただ乗りと評価されるような商標の登録を一般的に禁止する根拠となるものではない。
と説明されました。
つまり、商標のただ乗りや希釈化を防ぐのは、それ自体が目的ではなくて、商標の自他商品識別機能を保護すること、その先にある事業者の業務上の信用や需要者の利益を保護することが目的なのであって、その目的に反しないなら、ただ乗りや希釈化があっても登録される。
という判断が示されたわけです。
平たく言えば
本家本元とちゃんと区別できるなら、ただ乗りOK!
という判決。
そう、なんですかねぇ。。。
ともあれ、この判決については是非とも最高裁の判断が欲しい。
そして、この判決に対する最高裁の判断が、我が国の「パロディ」に対する大きな判断の1つになるのではないかと。
但し、この裁判はあくまでも「フランク三浦(※右上の点無し)」についての「商標登録の有効性」を争う裁判であって、「フランク三浦(※右上の点無し)」が「FRANCK MULLER」の商標権を侵害しているか否かを争っている裁判ではないという事は気を付けなければいけません。
とはいえ、商標登録さえあれば、他の商標権の侵害になるという事は気にせずに使う事が出来ますので、結果的に「フランク三浦(※右上の点無し)」の商標登録が有効だとの判断が確定すれば、「FRANCK MULLER」の商標権を侵害するという事にはならないという判断になります。
逆に、商標権が無効だと判断されれば、それは「類似している」という判断がされたという事になるので、「フランク三浦(※右上の点無し)」は「FRANCK MULLER」の商標権を侵害している可能性が高く、「フランク三浦(※右上の点無し)」は「FRANCK MULLER」の許諾無くして商売を続けることは難しくなるでしょう。
最高裁は果たして
「フランク三浦(※右上の点無し)」と「FRANCK MULLER」とが「類似している」と判断するのか!?
特に、知財高裁でひっくり返された点である「観念」について、「フランク三浦(※右上の点無し)」を見ると「FRANCK MULLER」が思い浮かぶから観念が類似していると判断するのか!?
それとも「FRANCK MULLER」からイメージされるものと、「フランク三浦(※右上の点無し)」からイメージされるものとは違うので、観念は類似していないと判断するのか!?
そして、「FRANCK MULLER」を明らかに意識して、ただ乗りしている「フランク三浦(※右上の点無し)」は、「FRANCK MULLER」と混同の恐れがあると判断されるのか!?
それとも、明らかに別モンだと分かるから混同の恐れは無いと判断されるのか!?
まさに、日本における商標面での「パロディ」について、最高裁の判断が下される、超重要判決となることは間違いないwktk
ところでこの判決文、
「化物語の阿良々木君がしてる腕時計は~」みたいな知恵袋の内容が引用されていたりして、なかなか愉快な判決文です。
御興味のある方は是非一度読んでみたらよろしいかと。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/835/085835_hanrei.pdf
<以下、私見>
「パロディ」の是非、同人誌の是非にも関連する重要なテーマです。
なのでパロディ容認の方向の判決を歓迎する部分もあるのです。
が、
パロディが商標登録しちゃダメだろ、、、
と思います。
フリーライド、パロディ、そういったものに対して厳しくし過ぎると、表現規制だったり、モノヅクリの抑制につながってしまいます。
だからある程度は許されるべきだと思うし、知的財産に関する法律はそれを意識した構成になっているのも事実。
でも、フリーライドする側、パロディをやる側は、その対象に対する敬意を忘れてはいけないと思うんですよ。
パロディとして世の中に出したものについて商標登録したりするのは、明らかに元ネタ(ここでは「FRANCK MULLER」)に対する礼儀を失していませんかね。
まぁ、そういった心情は日本的なものなので外資系には通用しないのは事実で、外資系と権利関係のやり取りするときには態度を変えるのはそうなんですが。
それにしても敬意を払わなくてもいいってことではありません。
商標登録されれば、他から文句を言われることなく使えるのはそうなので、「フランク三浦(※右上の点無し)」を商標登録して安心したかったという気持ちはわからないでもありません。
でもそれによって「FRANCK MULLER」を怒らせて藪蛇になったなんて、笑い話ですかね。
そう考えると次に問題になるのは、商標の登録査定をした審査官ですな。
登録査定が来た時点での「フランク三浦(※右上の点無し)」の気持ちは手に取るようにわかります。
「登録査定キタコレ FRANCK MULLERに文句言われずに安心してやれるぞ!」
と思ったのは目に見えています。
それに対してFRANCK MULLERから無効審判を請求されて無効審決がされた時の気持ちもまた手に取るようにわかりますな。
「特許庁がOKって言ったから安心して使ってたのに、ふ ざ け ん な ! ! !」
と思ったでしょう。
というか、「フランク三浦(※右上の点無し)」の商標登録出願があった時点で、こういった問題に発展するかもしれないという事は割と容易に想像できたと思うんですが。
審査官は登録査定出して、審判官はあっさり無効審決だして、
もうちょっと考えらんなかったんすかねぇ。
まぁともかく、パロディやるなら、元ネタへの敬意は最大限に払いましょう。
対象をバカにするようなパロディは見てても不愉快で面白くないですし、やめときましょう。
“我が国における「パロディ」の指針が示される(?)フランク三浦の事件” への1件のフィードバック