大阪パテントセミナーでした話と、時間切れでできなかった話

10/8(土)に、日本弁理士会近畿支部に呼んで頂きまして、パテントセミナー【応用編】という事で登壇させて頂きました。

3連休初日というタイミングにも関わらず、170名以上という多くの方に来て頂きました。
ぶっちゃけた話、そんなに集まると思ってなかったんで当日人数聞いてかなり緊張したんですが。。。

で、テーマはリンク先にもある通り

著作権の相談は著作権のみでは成らず
~企業活動にブレーキをかけないため、法域を横断したリスク分析を~

という事で喋らせて頂きました。
休憩時間含めて2時間半という時間を頂いていたのですが、時間切れで出来なかった話もありました。
用意した内容は主に
【理念】【判例】【事例】です。

【判例】や【事例】は事実として最低限価値のある話だと思いますが、【理念】は場合によっては戯言ですので、時間の関係上カットするとなるとどうしても【理念】をカットすることになります。
全カットしたわけではないですが、後から考えると、「あの理念を伝えなかったら【事例】の部分も真意が伝わってないかも。。。」と思ったので、この場で補足しておこうかと思いまして、どうせなら全体的にどんなことをしゃべったかもまとめておこうかと思います。

全体構成は
1.はじめに ~「考え方」を売ること~
2.拠り所となる知識
著作権法
不正競争防止法
パブリシティ権
一般不法行為
3.事例の紹介
という感じです。

1.はじめに ~「考え方」を売ること~
ここでは、広告や商品の企画に対して「これって権利的にOKですか?NGですか?」という確認や相談が来た時に、「なんとなく怖いからNG」という風に、安易にNG回答をしていませんか?という話をしました。
他社、他人の権利を侵害するような企業活動を行えば企業に損害が発生し得ることは当然ですが、企業の個性を殺すようなNG対応もまた企業に損害を与えることになり兼ねませんよ、よいうお話。
逆に、権利的、法律的にセーフだったとしても炎上案件となれば損害発生することも然り。
「模範解答」等ない中で、「知的財産」の専門家としてやるべきことは、条文、判例に即した杓子定規なアドバイスだけなのでしょうか?
という話をしました。

2.拠り所となる知識
条文、判例を超えた判断をするにしても、まずは条文、判例を知らない事にはそれも不可能。
ということで、相談に対応する際に意識することの多い判例をピックアップして紹介しました。

【著作権法】
・釣りゲーム事件「知財高裁 平成 24年(ネ)第 10027号」
「アイデア」と「表現」の境界、「ありふれた表現」について

・野球カードゲーム事件「知財高裁 平成26年(ネ)第10004号」
「創作性」の認められる範囲、「本質的特徴が同一」となる翻案の範囲

・ときメモアダルトアニメ事件「東京地裁 平成10年(ワ)第15575号」
キャラクターの本質的特徴

・ポパイ事件
キャラクターと著作物、連載作品の著作権期間

・交通スローガン事件「東京高裁 平成13年(ネ)第3427号」
キャッチフレーズの著作物性

・美術品鑑定書事件「知財高裁 平成22年(ネ)第10052号事件」
著作物の引用について

・宇宙戦艦ヤマト事件「東京地裁 平成11年(ワ)第20820号」
・マクロス事件①「東京高裁 平成15年(ネ)第1107号」
「映画の著作物」の著作者、「映画製作者」

・マクロス事件②「東京高裁 平成14年(ネ)第1911号」
「映画製作者」であるアニメーション制作会社とアニメに関するデザイン等の著作権の貴族

【不正競争防止法】
・マクロス事件③「知財高裁 平成17年(ネ)第10013号」
アニメーション作品の著作者と、不正競争防止法の「商品等表示」との関係

・ティアリングサーガ事件「東京高裁 平成14年(ネ)第6311号」
ゲーム内容の著作物性、ゲームタイトルと不正競争防止法の「商品等表示」

・まくだけダイエット事件「東京地裁 平成25年(ワ)第28859号」
コンセプトが同一、もしくは類似する書籍の知的財産

・西松屋店舗デザイン事件「大阪地裁 平成21年(ワ)第6755号」
店舗デザインの「商品等表示」

・ふなっしー偽グッズ事件
商品等表示?誤認表示?

【パブリシティ権】
・競馬ゲーム事件(最高裁 平成13(受)866、867号)
・ピンクレディ事件(最高裁 平成21(受)2056号)

【一般不法行為】
・翼システム事件(東京地裁 平成8年(ワ)第10047号)

3.事例の紹介
実際に受けた相談事例を6件ほどピックアップして抽象化し、それに対して自分が何を考え、どう回答したかを紹介しました。
詳細は割愛しますが、相談を受けた際、
・まずは「面白い」と思うか否かを最初に考えるということ
・「面白い」と思うなら、結論としてはゴーサインを出したいということ
・判例上、条文上はセーフである可能性が高いことでも何がリスクとなるのかを分析し、その分析に応じてどのような対応をとるべきかという事を検討する事
・セーフだとしても、面白くなければリスクをおかす意味もなく、本当にやるべきなのか否かを議論する事
といった話をしました。

ここまでが、時間内で喋れたことです。

4.ここから未公開

で、ここまでの内容を受けて最後に喋ろうと思ってた事があったのですが、タイムアップでした。
では、どんな事をしゃべろうと思っていたかというと、

クライアントの事、好きですか?

という事です。

好きだろうが嫌いだろうが、プロとして最大限の仕事をする
それは正論だとは思います。
が、嫌いなクライアントに対して、最大限に親身になった対応ができるでしょうか。
人間は、少なくとも私はそれ程器用ではありません。
嫌いな相手の仕事なんてそもそも請けませんが、仮に受けざるを得ない場合、極度に安全策に偏った対応、つまり「安易なNG回答」を連発するでしょう。
その結果、そのクライアントが大きなビジネスチャンスを逃そうが知ったこっちゃありません。「リスクはリスク」という杓子定規な対応に終始します。
そういう仕事をしている「知財の専門家」が多いのではないかと、世の知財屋に対し、ともすれば喧嘩を売るような事を喋ろうと思っていたわけです。

では、好きなクライアントにリスクを負わせて平気なのか?
という問題があります。
これについての考え方を最後に語ろうと思っていたのですが、その真意は2つ
・クライアントとの信頼関係
・クライアントと心中する覚悟
です。

まず、【クライアントとの信頼関係】について
これは、「そのクライアントに主体性があるか」に基づいて考えています。
弁理士が助言したとは言え、その助言に基づいて知財案件に対して主体的に考え、決断をしているかということです。
「わからないから専門家に判断してほしい」その気持ちはもっともですが、その判断の責任までも押し付けるというのはどうなのでしょう。
もし責任を負うことまで含めて判断しろというのであれば、責任に見合った費用を請求しなければいけません。
タイムチャージ数万円で請け負えるような仕事ではないでしょう。
そして責任を負わなければいけないのなら、極度に安全策に偏った判断になることもうなずけます。

片や、責任を負う必要がないからと言って中途半端な仕事、判断をしていいはずがありません。自らの考えをしっかり伝えつつも、客観的な事実、決断の際に考慮しなければいけない事実はしっかりと伝えなければいけないですし、その情報は最大限広く集めなければいけません。
無責任に「やっちゃえやっちゃえ」なんて言っていいはずがありません。

知財に関しての相談、判断は、つまりは「経営に関する意思決定」です。
安易なNG回答をしていいはずもないし、「どんな人間か」を知らない相手に相談するようなことでもないと思います。

次に、【クライアントと心中する覚悟】について
これは何も、自分がしたアドバイスに基づいたクライアントの対応で問題が発生した場合に、「破産を覚悟しろ」とは言わないまでも、「土下座する位の覚悟があるか?」という事です。

「好きだ、何とか力になりたい」「面白い、何とか実行させてあげたい」
そう思って色々と考えてアドバイスした事について問題が起こった。
その問題が、当事者に対する自分の土下座で収まるのであれば安いものでしょう。
少なくとも私は(まだ経験はありませんが)土下座を覚悟しています。それくらい、クライアントの事が好きです。

その他、セーフだとしてもストップをかける際の理念、覚悟として、
・僭越でも、「ダサいことをさせたくない」と思うくらいクライアントに想い入れがあるか、という事
・「私が顧問をやっている以上、そんなダサいことはさせません」と言えるか、顧問という立場を与えられていても、その立場に固執せず、常に立場を賭けて発言できるかという事
といった事を喋ろうと思っていた次第です。

やっぱ、カットした部分は暑苦しいですねw
自分の一番根っこの部分までは喋り切れませんでしたが、それでも今までやらせて頂いた口演の中で最も楽しい時間でした。
「考え方を売る」という事がそのまま体現できていた時間だと思います。

感謝

(_ _)

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