各種のOSS(Open Source Software)ライセンスに関して、記事を分けてそれぞれ書いていきたいと思います。
まずはApacheライセンス(Ver2)から。
なぜこれから始めるかと言うと、個人的にこのライセンスが一番バランスがとれているのではないかと感じているからです。
OSSライセンスというのは当然ながらOSSを使用する場合の条件が記述されたものですが、その根底は「OSSに対する考え方」です。
つまり、Apacheライセンスの考え方が個人的に一番好きです。
Apacheライセンスのあらまし
・寛容型ライセンスであり、Apacheライセンスで提供されるOSSを改変して新たな成果物を作成した場合、その改変部分に関しては異なるライセンス条件を適用する事が出来る。
・ライセンスの条件は、
「ライセンス文の提供」
「変更を行った場合、変更箇所の告知」
「ソース形式の成果物を頒布する場合、そのソース形式の成果物に含まれている著作権、特許、商標、および帰属についての告知」
「成果物に“NOTICE”に相当するテキストファイルが含まれる場合、そこに含まれている帰属告知のコピーの提供」
・ライセンスに従う事により、複製、派生成果物の作成、公への表示、公での実行、サブライセンス、頒布が許される。
・上記許諾は無期限・世界規模・非独占的・使用料無料・取り消し不能である。
・特許権の不行使に関する条項がある。(今回詳述)
・寛容型ライセンスではあるが、コントリビューターに対して修正版を提出し採用された場合には、その修正版のライセンスは本ライセンスに従う。
こんな感じ。
寛容型ライセンスながらも特許権の不行使に関する条項があるところがポイントかと思います。
Apacheライセンスと特許の関係
では、肝心の特許に関する条項の参考訳を見てみます。
本ライセンスの条項に従って、各コントリビューターはあなたに対し、成果物を作成したり、使用したり、販売したり、販売用に提供したり、インポートしたり、その他の方法で移転したりする、無期限で世界規模で非独占的で使用料無料で取り消し不能な(この項で明記したものは除く)特許ライセンスを付与します。ただし、このようなライセンスは、コントリビューターによってライセンス可能な特許申請のうち、当該コントリビューターのコントリビューションを単独または該当する成果物と組み合わせて用いることで必然的に侵害されるものにのみ適用されます。あなたが誰かに対し、交差請求や反訴を含めて、成果物あるいは成果物に組み込まれたコントリビューションが直接または間接的な特許侵害に当たるとして特許訴訟を起こした場合、本ライセンスに基づいてあなたに付与された特許ライセンスは、そうした訴訟が正式に起こされた時点で終了するものとします。
https://ja.osdn.net/projects/opensource/wiki/licenses/Apache_License_2.0
この条項は大きく分けて次の2つの内容によって構成されています。
1.コントリビューター(ApacheライセンスのOSSを提供している者、著作権者)による特許ライセンス(使用権)の付与。
2.利用者による特許権行使の禁止。
Apacheライセンスによる特許使用権の付与
これは平たく言うと、ApacheライセンスによってOSSを提供する場合、そのコントリビューターは、そのOSSの利用によって侵害となる特許に関して使用権を付与しますという事です。
例えば、技術的要素a1、a2、a3、a4の4つによって成立している特許権Aがあるとします。
そして、その特許権者αさんが、a1~a4を含むOSS(A)をApacheライセンスによって提供しているとします。
そうすると、他人がそのOSS(A)を使用する場合には、必然的に特許権Aの侵害になってしまいますが、そのOSS(A)はApacheライセンスによって提供されているため、αさんはOSS(A)の利用者に対して特許権Aの使用権を付与し、権利行使をしません。
これにより、OSS(A)の利用者であるβさんは、ライセンサーであるαさんからの特許権Aの権利行使を気にすることなく、安心してOSS(A)を利用することができるということです。
Apacheライセンス利用者による特許権に基づく訴訟提起の禁止
これは、OSS(A)の利用者に対して課されている制限で、厳密に言えば「禁止」ではなくて上述の特許ライセンスを失う条件です。
例えば、OSS(A)の利用者βさんがOSS(A)を利用し、技術的要素a1~a4に加えて、a5を含むソフトウェア(B)を成果物として作成すると共に、技術的要素a1~a5によって構成される特許権Bを取得したとします。
βさんは Apacheライセンスによって提供されているOSS(A)の利用者ですので、ソフトウェア(B)は必ずしもApacheライセンスのOSSとして提供される必要はありません。技術的要素a5の部分に関しては、βさんが独自のライセンスを適用することが可能です。
そして、βさんは特許権Bの権利者ですので、技術的要素a1~a5を業務として実施する者に対して特許権Bに基づき権利行使をすることができます。
しかし、Apacheライセンスによって提供されているOSS(A)を利用し、特許権Aの使用権をApacheライセンスに従って受けているβさんには、OSS(A)を利用して作成した成果物により権利侵害となる特許権の行使に関してApacheライセンスによる制限が課されており、その権利行使(訴訟提起)を行った場合、αさんから付与されている使用権が取り消されてしまいます。
その結果、βさんはαさんから特許権Aに基づく権利行使を受けてしまう可能性が発生するという事になります。
自分は別に「ソフトウェア特許反対派」 というわけではないですが、ソフトウェア無しではもはや世の中が回らなくなってしまっている現代において、ソフトウェアに関する特許は運用を間違うと知財制度の目的に著しく反する事態を招いてしまうと感じています。
各種の判例を見ていても、
「しょ~もねぇ訴訟だなぁ。。。」
と思う事もしばしば。
そんな中で、このApacheライセンスの考え方は一定の合理性が表現されているのではないでしょうか。
Apacheライセンスにも存在するリスク
さて、Apacheライセンスの理念的なモノを説明した上で、「じゃあ、ApacheライセンスのOSSを使うなら特許権の権利行使を受ける事は無くて安心なんだね!」という誤解を避けるために、ApacheライセンスのOSSにおける (主に特許権に関する) リスクを説明しておこうかと思います。
「権利行使」が完全に排除されるわけではない。
上述した通り、Apacheライセンスで提供されるOSSに対応する特許権に基づく訴訟を提起した場合に発生する事象は、Apacheライセンスに基づいて付与されている特許使用権の消失です。
つまり、図2のβさんが「特許権Aの使用権を失ってもいい」と思っていれば、特許権に基づく訴訟提起を行う可能性は十分にあるという事です。
例えば、βさんがαさんと仲良しで、αさんがβさんに対して、「特許権Bで誰かに訴訟提起しても、特許権Aであなたを訴えたりしないよ」と約束していればどうでしょう?
βさんとしてはApacheライセンスに基づく特許権Aの使用権を失ったとしてもαさんから特許権Aに基づいて訴えられたりしないという確信があるので、特許権Bに基づいて第三者に対し訴訟提起を躊躇う理由が無くなります。
また、特許使用権を失う事とされている条件はあくまでも「訴訟提起」であり、「権利行使」すべてが対象となっているわけではありません。したがって、訴訟は提起されないまでも、「コレうちの特許だからお金払ってくんない?」と言われる可能性は捨てきれないという事です。
まぁ、訴訟提起されないという保証があれば交渉は強気にはできますが。
第三者による権利行使の可能性がある
上述の通り、ApacheライセンスのOSSを利用する限り、そのコントリビューターから特許権の権利行使を受けることはありません。
が、それはあくまでも上の図1で示したように、コントリビューターαさんが特許権Aの特許権者であった場合。
αさんとは無関係な他社が特許権Aを取得していた場合、その特許権者からの権利行使に関してはApacheライセンスの関知するところではなく、権利行使を受けてしまう事となります。
例えば図3におけるαさんと特許権Aの特許権者が裏でつながっていたら・・・
当初はαさんが特許権Aを取得したのに、その後αさんが第三者に特許権を売却していたら・・・
このような事態はApacheライセンスの理念に反するものですので訴訟においてはある程度の戦術は立てられるのかもしれませんが、「訴訟を避ける」という目的は完全に果たされなくなってしまいます。
また、αさんが特許権Aの特許権者であったとしても完全に安心はできません。
OSS利用者βさんが、OSS(A)を改変して技術的要素a5を追加し、上述したOSS(B)として実施していたとします。
その場合において、技術的要素a1~a5を構成要件とする特許権Bをαさんとは別の第三者が取得していた場合、やはりその特許権者からの権利行使に関してはApacheライセンスの関知するところではなく、権利行使を受けてしまう事となります。
このように、ApacheライセンスのOSSだからと言って特許権の権利行使が絶対に無いとは言い切れないのが怖いところ。
むしろ、このようなApacheライセンスの安心感が逆にパテントトロールに利用されるような気さえしてしまいますが、、、
という事で長くなったので本稿はここまで。
続く記事で、ApacheライセンスのOSSを利用する場合における特許権の行使についてもう少し検討してみます。
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