さて、OSSに関して諸々と検討したいという事でApacheライセンスと特許の関係に始まり、OSSライセンスと著作権の関係について検討してみましたが、OSSと言えばやはりGPL系。特に、GPL(v3)の特許条項が気になっているところです。
ということで、GPL(v3)の11条に記載されている特許条項を見つつApacheライセンスと比較していきたいのですが、その前にGPLについてザックリ見ておきます。
GPLは互恵型と呼ばれるOSSライセンスの代表的なもので、伝搬効果があるところが大きなポイントです。
つまり、GPLの元で許諾されたプログラムAをそのまま再頒布する場合にプログラムAのソースコードを公開することは当然として、そのプログラムAを改変したプログラムBを頒布する場合や、他のプログラムCにプログラムAを組み込んで頒布する場合に、プログラムBやプログラムCのソースコードを公開することが原則として求められます。
つまりGPLライセンスによって効力を発しているプログラムAのソースコードの公開条項がプログラムBやプログラムCにも「伝搬」する点が特徴です。
この「伝搬」についても、伝搬する場合/しない場合で語りだすととても長くなるのですが、その辺の事はとりあえずはネット上の他の記事にお任せするとします。
GPLは複数のバージョンがありまして、今回取り上げるGPL(v3)にはApache(v2)と同様に特許に関する条項が含まれます。
そして、GPL(v3)はApache(v2)との併存性を認めています。
どういうことかと言うと、上述したようにプログラムCにプログラムAを組み込んだ場合において、プログラムCがApache(v2)の元で利用許諾されているとします。
そうすると、プログラムAが組み込まれたプログラムCは、上記の「伝搬効果」により、GPL(v3)の元で利用許諾される必要があります。
ここで、プログラムCはApache(v2)の元で利用許諾されているので、前の記事で書いた通り、特許権の不行使に関する条項を守る必要があります。
GPLライセンスでは、v3に限らず派生物の頒布に際して新たな条件を課してはならないという条項があるのですが、併存性が認められているという事は、このApache(v2)における特許条項は、GPL(v3)に対して新たな条件には当たらないという事になります。
他方、プログラムAが特許条項を含まないGPL(v2)の元で公開されているとしたらどうでしょう?
その場合、プログラムCはGPL(v2)の元で利用許諾されることになるのですが、プログラムCがApache(v2)の元で利用許諾されているため、特許条項の条件が課されます。つまり、プログラムCはGPL(v2)及びApache(v2)の両方を満たす条件で公開される必要があるのですが、GPLには「派生物の公開に際して新たな条件を課してはならない 」という原則があるため、GPL(v2)には存在しない特許条項を課すことができません。結果として、この場合にプログラムCを公開・頒布することはできない事になります。
というわけで、是非ともGPL(v3)の特許条項をApache(v2)の特許条項と比較してみたいと思います。
まずは、どんくさくGPL(v3)の該当部分を読んでいきます。
ネット上には様々な和訳が存在していますが、理解のために自分の言葉で訳してみます。
と、いうのも、GPL(v3)の特許条項の訳例を読んでもどうもピンとこない部分があるのです。
まずは10条の第3パラグラフから
<第3パラグラフ>
You may not impose any further restrictions on the exercise of the rights granted or affirmed under this License. For example, you may not impose a license fee, royalty, or other charge for exercise of rights granted under this License, and you may not initiate litigation (including a cross-claim or counterclaim in a lawsuit) alleging that any patent claim is infringed by making, using, selling, offering for sale, or importing the Program or any portion of it.
あなたは、本ライセンス下で許可され又は確認された権利の行使について如何なる追加的な要求も課してはならない。例えば、あなたは本ライセンス下で許可された権利の行使に対してライセンス料、ロイヤリティ、その他の金銭を要求してはならず、本プログラム又はその一部の作成、使用、販売、販売の申し出または輸入が如何なる特許請求の範囲の侵害である事を主張する訴訟(交差請求や反訴を含む)も提起してはならない。
これは、Apacheライセンスよりも強い拘束ですね。
Apacheライセンスの場合、OSS利用者が特許権を行使した場合には、Apacheの元で自動的に許諾されていた特許ライセンスを失うという規定ですが、GPL(v3)においては、「行使してはならない」という形になっています。つまり、これを破った場合、そのデメリットは特許ライセンスを失う事にとどまらず、「OSSライセンス違反」となり、コントリビューターが特許権を有する場合における特許権侵害だけでなく、著作権侵害にもなるという事です。
続いて、特許をメインとして記述されている11条です。
<第1パラグラフ>
A “contributor” is a copyright holder who authorizes use under this License of the Program or a work on which the Program is based. The work thus licensed is called the contributor’s “contributor version”.
「コントリビューター」とは、「プログラム」又は「プログラム」を元にした成果物の利用を本ライセンスに基づいて許可した著作権者である。従って、ライセンスされたその成果物は、コントリビューターによる「コントリビューターバージョン」と呼ばれる。
単なる定義ですね。
<第2パラグラフ>
A contributor’s “essential patent claims” are all patent claims owned or controlled by the contributor, whether already acquired or hereafter acquired, that would be infringed by some manner, permitted by this License, of making, using, or selling its contributor version, but do not include claims that would be infringed only as a consequence of further modification of the contributor version. For purposes of this definition, “control” includes the right to grant patent sublicenses in a manner consistent with the requirements of this License.
あるコントリビューターの“essential patent claims”(本質的特許請求項、とでも訳すのでしょうか。訳例では「必須パテントクレーム」等と訳されています。)とは、コントリビューターによって所有され又は支配されている全ての特許請求項であり、それには既に獲得され又は将来獲得されるものを含み、そのコントリビューターバージョンの作成、利用または販売等の本ライセンスによって許可されている何らかの方法で侵害され得るものである。しかし、コントリビューターバージョンを改変した結果の場合にのみ侵害される請求項は含まない。この定義の目的のため、「支配」には、本ライセンスにおける必須条件と整合する方法でサブライセンスする権利を含む。
今回の焦点の1つがこの下線部分です。
「コントリビューターバージョンを改変した結果の場合にのみ侵害される請求項は含まない」と書いてあります。
Apacheライセンスに関する記事にて、コントリビューションを改変した場合について散々書いてきました。
そして、GPL(v3)はApache(v2)と併存すると言われています。色々と考えて書いた記事の内容との差異について、それを後々に検証していきたいと思います。
ライセンス文に戻ります。
<第3パラグラフ>
Each contributor grants you a non-exclusive, worldwide, royalty-free patent license under the contributor’s essential patent claims, to make, use, sell, offer for sale, import and otherwise run, modify and propagate the contents of its contributor version.
各コントリビューターは、コントリビューターの“essential patent claims”に関して、コントリビューターバージョンの内容を作成し、使用し、販売し、販売の申し出をし、取り込み(輸入?インポート)、その他実行、改変および普及するための特許ライセンスを付与する。この特許ライセンスは非独占的、世界的、無償である。
これについてはApacheライセンスにおける記述のうち、「・・・ただし、このようなライセンスは、コントリビューターによってライセンス可能な特許申請のうち、当該コントリビューターのコントリビューションを単独または該当する成果物と組み合わせて用いることで必然的に侵害されるものにのみ適用されます。・・・」の部分(打消し線によって特定されるものを除く)に該当するかと思います。
第2パラグラフにおいて、“essential patent claims”が定義されました。そして、既に下線で示した通り、「しかし、コントリビューターバージョンを改変した結果の場合にのみ侵害される請求項は含まない。」とされている事も確認しました。
つまり、Apache(v2)においてライセンスされるものとして併記されている「コントリビューションを該当する成果物と組み合わせて用いる事で必然的に侵害されるもの」は、GPL(v3)自動的にライセンスされる特許には含まれないということです。これは大きな違いではないでしょうか。
ただし、10条の第3パラグラフにおいて、「・・・本プログラム又はその一部の作成、使用、販売、販売の申し出または輸入が如何なる特許請求の範囲の侵害である事を主張する訴訟(交差請求や反訴を含む)も提起してはならない。・・・」と規定されているので、これも合わせるとむしろApacheライセンスよりも厳しい結果になると言えます。
<第4パラグラフ>
In the following three paragraphs, a “patent license” is any express agreement or commitment, however denominated, not to enforce a patent (such as an express permission to practice a patent or covenant not to sue for patent infringement). To “grant” such a patent license to a party means to make such an agreement or commitment not to enforce a patent against the party.
以下の3段落にて、「特許ライセンス」は、ある特許の権利行使をしないという明示的合意か約束を意味する(例えば、ある特許の実施に対する明示的許可や、特許侵害で訴えないという契約等)。そのような特許ライセンスを当事者に許可することは、その当事者に対して特許権行使をしないというような合意や約束をすることを意味する
単なる定義です。
<第5パラグラフ>
If you convey a covered work, knowingly relying on a patent license, and the Corresponding Source of the work is not available for anyone to copy, free of charge and under the terms of this License, through a publicly available network server or other readily accessible means, then you must either (1) cause the Corresponding Source to be so available, or (2) arrange to deprive yourself of the benefit of the patent license for this particular work, or (3) arrange, in a manner consistent with the requirements of this License, to extend the patent license to downstream recipients. “Knowingly relying” means you have actual knowledge that, but for the patent license, your conveying the covered work in a country, or your recipient’s use of the covered work in a country, would infringe one or more identifiable patents in that country that you have reason to believe are valid.
もし、あなたが、保護された作品について、それがある特許ライセンスに依存しており、その作品の対応ソースが、このライセンス条項に基づいて無料で且つ公に利用可能なネットワークサーバーや他のアクセス可能な方法を介して誰にもコピー不可である事を知って、その保護された作品を頒布する場合、以下の(1)~(3)のいずれかを行う必要がある。
(1)対応ソースを利用可能にする
(2)この特定の作業に対する特許ライセンスの恩恵を自分から奪うように手配する
(3)このライセンスの要求と一致する方法で、下流の受益者へもその特許ライセンスを拡張するように手配する
「依存している事を知って」とは、ある国における保護された作品の頒布か、ある国におけるあなたの受信者による保護された作品の使用が、特許ライセンス無しでは、 その国において1もしくは複数の特定可能な特許の侵害となり、且つその特許が有効であるとあなたが信じる理由があることを意味する。
これはApacheライセンスにはなく、GPL(v3)を特徴づける厳しい規定と言える条項で、その趣旨は「自分の特許権の権利行使を放棄するだけでなく、既に知っている他人の特許権に対しても相応の責任をもってGPL(v3)のOSS活動に参加せよ」というものです。
<第6パラグラフ>
If, pursuant to or in connection with a single transaction or arrangement, you convey, or propagate by procuring conveyance of, a covered work, and grant a patent license to some of the parties receiving the covered work authorizing them to use, propagate, modify or convey a specific copy of the covered work, then the patent license you grant is automatically extended to all recipients of the covered work and works based on it.
もし、単体の取引や協定に従い若しくは関連して、あなたが保護された作品を頒布し、若しくは”procuring conveyance of”によって伝搬を行うと共に、保護された作品を受け取る一部の当事者に対して、保護された作品の特定の複製の利用、伝搬、改変または頒布を許可する特許ライセンスを許諾する場合、あなたが許諾する特許ライセンスは、保護された作品やそれを元にした作品の全ての受領者に自動的に拡大される。
GPL(v3)で許諾されたコントリビューションを利用して頒布を行う者が下流側の特定の者に対して、頒布物に関して自信が有する特許ライセンスを付与する場合、その特許ライセンスは他の下流側の者にも拡張される規定です。
ここで、「特許ライセンス」の対象となっている特許は上記の“essential patent claims”と明記されていないのがポイントで、「・・・to use, propagate, modify or convey a specific copy of the covered work,・・・」 という形でライセンスを受ける者の行為によって特定されているのがポイントかと思います。
正直、この条項において“essential patent claims”以外にまで及ぶのかは明確ではない気がします。また、この条項自体の法的な有効性は微妙な気もしますが、少なくともGPL(v3)の思想、理念は、GPV(v3)に関わるOSSがとにかく自由に利用可能であるという事です。
<第7パラグラフ>
A patent license is “discriminatory” if it does not include within the scope of its coverage, prohibits the exercise of, or is conditioned on the non-exercise of one or more of the rights that are specifically granted under this License. You may not convey a covered work if you are a party to an arrangement with a third party that is in the business of distributing software, under which you make payment to the third party based on the extent of your activity of conveying the work, and under which the third party grants, to any of the parties who would receive the covered work from you, a discriminatory patent license (a) in connection with copies of the covered work conveyed by you (or copies made from those copies), or (b) primarily for and in connection with specific products or compilations that contain the covered work, unless you entered into that arrangement, or that patent license was granted, prior to 28 March 2007.
ある特許ライセンスにおいて、「本ライセンス(GPLv3)において許諾されている一つ又はそれ以上の権利」が
・適用範囲に含まれていない
・行使を禁止されている
・不行使を条件とされている
のいずれかの場合、その特許ライセンスは「差別的」である。
あなたは以下の場合、保護された作品(成果物?)を頒布してはならない。
・あなたが第三者(ソフトウェアの提供を業として行う者)との取り決めの当事者であること
・その取り決めにおいてあなたがその第三者に対して作品を頒布する活動の範囲に基づいて金銭を支払っていること
・その第三者は保護された作品を受け取るいずれの当事者に対しても、以下の(a)(b)いずれかの対象に対して差別的な特許ライセンスを認めている場合
(a)あなたによって頒布された保護された作品の複製(またはその複製に基づき作成された複製)に関連しているもの
(b)保護された作品を含む特定の製品または編集物(conpilations)を主な対象としおよびそれに関連しているもの
ただし、あなたが2007/3/28以前にその取り決めまたは特許ライセンスの許諾がなされたのであればこの限りではない。
これも読みにくい条項ですが、自身が有する特許だけでなく、コントリビューションとは無関係な特許権者からライセンスを受けている場合を規定する条項です。
第6パラグラフにて、差別的な特許ライセンスを下流側に付与することは禁止されてますが、コントリビューションとは無関係な特許権者から特許ライセンスを受けると共に、その特許権者が差別的なライセンス条件を付していたら第6パラグラフの趣旨が没却されてしまいます。それを防止するための規定です。
この規定は、どうやらGPL(v3)誕生のきっかけにもなった事件に関係しているようです。具体的には、この規定に関するような差別的な特許を用いて、特定の主体のみがGPLによって許諾されたプログラムの頒布を独占できてしまうような事態がかつて発生したということのようです。
<第8パラグラフ>
Nothing in this License shall be construed as excluding or limiting any implied license or other defenses to infringement that may otherwise be available to you under applicable patent law.
本ライセンス上のいずれも、いかなる黙示的ライセンス若しくはその他の侵害に対する防御であって準拠する特許法下でさもなくば認められ得るものを除外し限定するように解釈されない。
「本来ある自由を阻害することはない」という趣旨の規定です。
ということで、特許に関係する(と思う)条項を読んでいくだけでも一苦労。GPL(v3)がどれだけめんどくさいかがよくわかります。
なのでApache(v2)との比較は次回に。