鬼滅柄パチモングッズは否だが、集英社の商標登録出願は悪手だと思う。

この商標登録出願が話題になりました。
秋葉のパーツ通りを歩いてみて下さい。
この柄のグッズがそこかしこで売っているのが見れるかと。
中には、「鬼」なんて書いてあるものも。
どう考えても『鬼滅の刃』パチモングッズですね。

このパチモングッズのキモは、決して「鬼滅」とは書いていないところ。
ドンキのパーティーコーナーに行くと~風衣装がわんさか売ってる、あれと同じ手法です。

仮に鬼滅の刃の権利者(あえて「集英社」とは言いません)が

「パチモンだ!権利侵害だ!」

と主張したとしても、

「単なるチェック柄に「鬼」って書いただけですかが何か?」

と言って逃げる。
そういう手法です。

これを防ぎ、

「この柄はうちの登録商標だ!権利侵害だ!」

と言うために商標登録出願したという流れかと思います。
それは理解できるんですが、どうにも筋が悪いんじゃないのかなというオハナシ。

柄の商標(色彩のみからなる商標)とは?

屋号、商品名、ブランド名等の言葉やイラストも含むマーク、さらには立体的な形状のみではなく、色彩のみ、つまりカラーパターンも2015年から商標として認められるようになりました。

有名なところでは、セブンイレブンのカラーパターンなんかがそうです。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2015-030037/92ADD4AEF128A85B27468D7628B7701E2D3FDF555E844AC5E92987DC1A602871/40/ja

なお、本件に関連して伊勢丹の紙袋のカラーパターンを引き合いに出してる人がいますが、あれは”ISETAN”って入ってるんで色彩のみからなる商標ではないですね。ご愁傷様。

この他、特許庁のデータベースで「色彩のみからなる商標」をチェックしただけで検索するとヒットするのは2020/7/21現在で68件。
うち、登録までいっているのは8件。
他にはUCCのコーヒーの柄とかがあります。
ということで、「色彩のみからなる商標」の登録がそう簡単ではないことがわかるかと思います。

商標の識別力とは?

色彩のみからなる商標の登録が難しい理由は、簡単に言えば「単なる色でしかないから」なのですが、商標法的に言えば「識別力がないから」ということになります。

「識別力」とは、「商売の看板として見分けがつく事」です。
前渋がちょいちょいと話題に上げるのは、「普通の言葉」を商標登録出願するケース。
これは商標ブローカーの手口としてよく使われる手法ですが、商標法上の識別力の判断はほかにもありまして、

第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
(略)
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標

こんな感じの規定があります。
単なるカラーパターンを見て、「ああ、これってあのお店だよね」とか「これってあの商品だよね」と思い浮かぶことはそうそうないでしょうから、
「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」
として登録が拒絶されるのが大前提です。

これに対して、上記のセブンイレブンのカラーパターンやUCCコーヒーのカラーパターンなら、「このカラーパターンはあのお店だよね、あの商品だよね」と思いつく人が多い。
そんな場合には、

2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

この規定により登録が許されます。

つまり、「色彩のみからなる商標」が登録を受けるためには、多くの人が「ああ、これってあのお店のあの商品だよね」と思いつくまで、人々に認知されなければいけないという事です。

さてはて、鬼滅柄は登録を受けられるのでしょうか?

「この柄は鬼滅だよね」だけでは無理。

ここで重要なのは「何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識」という条文の言葉のうち、「何人か」という部分です。

これだけの人気を博した『鬼滅の刃』ですから、あの柄を見て「鬼滅柄だ!」と思う人は多いでしょう。
が、それは果たして「集英社の鬼滅の刃の柄だ!」ということを意味するでしょうか?
単に作品が有名なだけで、商標登録出願人である集英社の商標として、あの柄が有名になったということではない。
私見としてはそう思います。

マクロス事件が参考になるかも

ここで、一つ参考になりそうな判例があります。

マクロス不競法事件(東京高裁平成17(ネ)10013)

この事件は、別の事件でマクロス第1作目の「映画製作者」であり著作権を取得したと認められたタツノコプロが、「第1作目の映画製作者は俺らなんだから、俺らの許可なく“マクロス”って言葉を使って続編作るのは不正競争防止法違反だ!」(私見&意訳)と言って訴えを起こした事件です。

「不正競争防止法」とは言いながら、実質的には商標権のような規定です。

第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

この不正競争防止法の規定は、言ってみれば商標登録されていないけど有名になった表示についての救済規定のようなものでもあります。

「マクロス」という作品タイトルが知名度を得ている。
そして自分たちはその第1作目の「映画製作者」として認められた。
ならば、「マクロス」という言葉が自分たちの商品等表示として認められてもいいんじゃないか?
と考えたというところでしょうか。

しかしこれは完全に退けられます。

「マクロス」という本件表示は,本件テレビアニメ,本件劇場版アニメ等により,映画を特定する題名の一部として社会一般に広く知られるようになったことは認められるものの,それ以上に,本件証拠によっても本件表示が事業者たる控訴人(タツノコプロ)の商品又は営業を表示するものとして周知ないし著名になったとまで認めることができず,本件表示は控訴人の商品等表示に該当しないというべきであるから,被控訴人らが「超時空要塞マクロスⅡ」,「マクロスプラス」等の題名の映画を製作・販売する行為が不正競争防止法2条1項1号・2号に該当するとする控訴人の主張は失当である。

「マクロス」は作品としては有名だけど、「マクロス」って言葉がタツノコプロの商品やサービスを指すものとして有名になってるわけではないよ。
という判断です。

さて、鬼滅柄は「作品としての知名度」だけでなく、「集英社の商品、役務を示すものとして需要者が認識できる」とまで言えるのか?
マクロス事件からもわかるとおり、この判断は作品の知名度とは別です。

登録されたものや拒絶が確定したものから厳しさを知る。(2020/7/22追記)

と諸々と述べてみても色彩商標の登録の厳しさについていまいち具体的なイメージが湧きませんね。

既に登録されているものの審査経過から何かわかるかなと思って見てみると、

トンボの消しゴム(青白黒)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2015-029914/8BB25799D7BDE6FDB5F3547D0DF0693028610D9FE6C7FFE5B02BC855AEAFE170/40/ja

この登録は
16類 消しゴム
なんですが、出願時は
16類 文房具類
でした。

つまり、トンボ鉛筆が青白黒の色彩で有名になっているのは文房具類全般ではなく、消しゴムだけだよ。ということですね。
非常に分かり易い。

セブンイレブン(橙白緑赤)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2015-030037/92ADD4AEF128A85B27468D7628B7701E2D3FDF555E844AC5E92987DC1A602871/40/ja

この登録は、審査の過程でかなりの役務が削られています。
35類の小売りに関する役務で登録されていますが、審査により削られたものは以下の通り。

衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,二輪自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自転車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,家具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,建具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,畳類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,葬祭用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,農耕用品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,花及び木の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,燃料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,写真機械器具及び写真材料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,建築材料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,宝玉及びその模造品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,愛玩動物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,印鑑の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

ざっと見てみると、たしかにセブンイレブンで売ってるところは見たことないかなぁと思うものばかり。慎重に審査されていることがわかります。
ただ、

衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

これなんかはコンビニだったら当てはまる気もするんですが、社会的な影響を重視したというところでしょうか。

UCCコーヒー(茶白赤)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2015-047686/DE2161F372B5373BC7B0E696D436211388F01B1F6325D9BCC72F8FF8B0BB3E9F/40/ja

出願時は

  第29類   コーヒー入り乳飲料,乳飲料,乳製品
  第30類   コーヒー,ミルクコーヒー,缶入りコーヒー飲料,紙容器入りのコーヒー飲料

登録時は

第29類 缶入りのコーヒー入り乳飲料
第30類 缶入りミルクコーヒー飲料

これ非常に面白い。
多くの人が「UCCコーヒーならあの色」って思うのは缶だけ!
っていう事です。

JCBカード(赤青緑グラデ)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2015-045125/8136CEDAD28698D45C914D4DC81BE91F936E9605D20FB72F0ECF3754B661FA8F/40/ja

この出願、2015/5/13の出願で、拒絶査定の後に審判請求されて現在は審判継続中です。
で、現在は36類の決済関係の役務なんですが、分割で拒絶が確定しているものもあります。

35類 広告、キャンペーン、クレジットカード事務関係
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2016-115749/530CBB03958C4DA23D45AFD801008C8656E0D1DE7751131F4EA695730F9370A5/40/ja

9類 ICチップ、ICカード、プログラム、決済端末関係
16類 印刷物関係
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2016-115750/C99C4FA4A480DFDF499D00BBEDDF942F4CF36761E5301EFF1737159C207DE20A/40/ja

これらの分割については審判請求せずに諦めたという理由もありますが、拒絶が確定しています。

とまぁこんな感じで、色彩商標の登録の厳しさがなんとなく見えてくるんじゃないでようか。
集英社+鬼滅柄ではちょっと厳しいんじゃないでしょうかね。

単なる時間稼ぎ?

個人的には、鬼滅柄の商標登録出願は「集英社の商品、役務を示すものとして需要者が認識できる」とまでは言えないと思うので、登録は認められないと思います。

が、集英社的にはそれでいいのかもしれません。

例えば、自分が注目している「色彩のみからなる商標」の出願の一つが、Kawasakiのバイクの燃料タンクの色の出願です。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2015-030696/936FFD2E789A39E2BD3DEF9F1C4CA1D938E26D44473E7244A89EB0AE583A48B4/40/ja

Kawasakiのバイクの燃料タンク、黄緑、なるほど!

と思ったものです。
ですが、この出願はいまだ登録されていません。
出願日は、、、
なんと2015/4/1
つまり5年以上も「審査中」の状態が続いているのです。
2015年からようやく採用された新しい形の商標ですから、特許庁としても慎重に対応しているという事でしょう。

言い換えれば、出願から5年以上、「出願中」の状態を維持できる可能性があるとも言えます。
集英社が狙っているのはその状態なのでしょうか。

ただ、商標というのは登録されなければ権利ではありませんから、「出願中」の状態で、

うちの商標だ!勝手に使うな!

なんてことは言えませんし、「出願中」を声高に謳って暗にプレッシャーをかけるのはヤクザのやり口。
まともな企業のすることとは思えません。

鬼って書いとけばよかったのでは?

個人的には、あのチェック柄に「鬼」って書いてある商標を出願したらどうかなって思ったりもします。
パターンとして
・黒の部分に書く
・緑の部分に書く
・黒緑にまたがって書く
とか色んなパターンを想定しなきゃいけなかったりするとは思いますが、類似範囲としてある程度は守れる気が。

そうすると、商標の審査としては「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」には当たらないって事で登録をもう少し現実的に進められるかもしれません。

伊勢丹の紙袋の出願がカラーパターンだけでなく「ISETAN」の文字入りになっているのを見ても、一定の効果が期待できるのはないかと。まぁ、「鬼」と「ISETAN」では識別力に雲泥の差がありますが。。。

他方、あのチェック柄に「鬼」と書かれている商標を登録するというのは、パチモングッズとして禁止する範囲としてもバランスがいいのではないかなと個人的には思います。

パチモン業者側にどれほど悪意があったとしても、あのチェック柄を使ったからと言って「パチモンだ!権利侵害だ!」と騒ぐのはやはり横暴な気がします。
対して、あのチェック柄に「鬼」の字入りであれば、「やってんなコイツ」という批判はあって然りではないかと。

こんな風に、知財としての戦略を練った上で、具体的な出願や声明などの戦術を選択するのが知財の楽しいところです。

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