キャラクターは著作物ではない、という言葉を都合よく解釈するな。 の巻

※アイキャッチ画像の意味については後ほど。

同人誌違法アップロード事件、とでも呼べばいいでしょうか。
令和2(ネ)10018知財高裁判決原審:平成30(ワ)39343東京地裁
この判決以降、「キャラクターは著作物じゃない!」「同人誌は法的にセーフ!」という勝手な解釈の言葉がそこかしこで聞かれるようになりました。

かなり都合よく解釈された素人の言説が目立つ中、専門家が書いたものは間違ってはいないながらもイマイチ痒いところに手が届いていないと感じたので自分なりの文章にしておこうかと思った次第。

先に、判決の主題とは異なる部分で言いたいことを言っておくと、、、
前渋個人としては、
二次創作物であろうがなんだろうが著作物を違法アップロードする者が悪であるのは当然であり本件の被告に擁護されるべき余地は微塵も感じません。
が、同人誌が違法であるか否かという主語のデカすぎる不毛な議論はさておき、二次創作物の同人誌を違法アップロードされたと言って権利行使、特に損害賠償請求を行う者が同人文化を愛しているとは思えません。

目次
1.事案の概要
2.地裁の判断
3.高裁の判断
4.キャラクターの著作物を検討する上での区分け
5.キャラクター「デザイン」の著作権の源泉とは?
6.キャラクター「デザイン」の著作権侵害が争われた判例
7.最後に

1.事案の概要

事案の概要は至極単純で、
・Aさん(原告)が、原作アリの二次創作同人誌を創作する(BLモノ)
・Bさん(被告)が、Aさんの同人誌を違法アップロードする
・AさんがBさんを訴える
※実際にはBさん側に相続による主体の変更があったりとかしますけど主題には関係ないので丸っとBさんってことで。

2.地裁の判断

地裁での判断としては、
・同人誌漫画は法上の「美術の著作物」に該当する(二次著作物であろうがなかろうが、独自の創作性を発揮する限り著作物)。
・著作物としての同人誌の著作権者は原告である。
・被告は違法アップロードをしている
・違法な二次的著作物であるため、損害賠償請求は信義則違反又は権利の濫用であるとの原告の主張に対して、違法な二次的著作物であると認めるに足りる証拠はない(提出されていない)

というところで、本訴訟の最大の争点となった

「同人誌はそもそもパクリなんだから他人に対して権利行使なんておこがましい真似すんじゃねぇ」

という点は、被告側の「パクリ」という点の主張立証が不十分ということで地裁ではさほど大きくは争われていません。

そして舞台は高裁に移ります。

3.高裁の判断

高裁では、「同人誌のくせに権利行使なんかするな」という点について判断されます。
・AさんのBL同人誌がそれぞれの原作に依拠したものである事(二次創作物であること)は認定。
・「キャラクターの複製」であると言うためには、キャラクターを特定するだけでは不十分であり、原著作物の漫画等においてそのキャラクターが描かれているコマ等、複製対象の著作物を明確に特定しなければならない。
・本件において複製が発生しているとすれば、それはキャラクターの容姿や服装等の基本的設定に関する部分である。
・シリーズもののアニメや漫画等は、キャラ設定や世界観を同じくする新たな筋書きが話数ごとに追加されていくのであって、新たに追加される話数は先行する話数の二次著作物と言える。
・二次著作物において生じる著作権は、原著作物に付加された新たな創作の部分であり、シリーズもののアニメや漫画等においては、ある話数に特定のキャラクターが登場していたとしても先行する話数にも同キャラクターが登場しているのであればその話数の登場シーンではそのキャラクターの容姿や服装等の基本的設定に関する著作権は生じない。
・従って、キャラクターの容貌や服装に関する基本的設定に関する著作権侵害を問うためには、そのキャラクターの基本的設定が定まった回及びシーンを特定する必要があり、被告の主張立証は不十分である。

ということが判断されました。

わかりますかね?

自分で描いた絵ならなんでもやりたい放題なんだ!やった~!
なんて勝手に読んではしゃいでる人、日本語できないんですか?

なお、「エロパロなんだから権利行使すんな」という主張もありますが、お察しということで割愛。

4.キャラクターの著作物を検討する上での区分け

「キャラクターは著作物ではない」という言葉に関しては人それぞれ受ける印象が違うので解説が必要になるのですが、少なくとも「キャラクター」という言葉について大きく2つの意味を考えなければいけないと思っています。
それは、キャラクターの「概念」と「デザイン」です。

1つめは「概念」
・赤がトレードマーク
・3倍速い
・独立蜂起した軍のエースパイロットにして実は独立運動の祖の息子
といった、キャラクターの背景設定に関する部分。
これは、キャラクターの「概念」であって、「表現」されたものではないので、著作権の対象にはなりません。
これはもう大昔に判決としても確定したものであり、今回の判決で何か動きがあったことではありません。

2つめが「デザイン」
これは「表現」されたものなので著作権の対象です。

が、その「対象」が問題。
あくまでも著作権は「表現」されたモノに生じるので、キャラクターの「デザイン」という普遍的な権利が発生するわけではありません。

5.キャラクター「デザイン」の著作権の源泉とは?

では、キャラクターの「デザイン」はどのように守られるのか?

それこそが今回の判決で示されたところであり最も注目すべき点なのですが、目を見張るような新しい法理が登場したのかと言えば、そういうわけでもありません。
これまでの著作権法に関する判例をつないでいけば当然に辿り着く結論が明確に判決として示されたというだけです。

なぜなら、3年以上前に私がアニメ業界の権利構造、そして本来あるべきクリエイターの権利をまとめた資料にまったく同じことが書いてあるのですから!
アイキャッチはその資料の表紙です。

権利者は誰だ?~アニメ”制”作の著作権法~ 2017前渋正治

ここで私は、キャラデの権利は「デザイン」として普遍的なものが発生するのではなく、キャラクターの設定画として初めて描かれ、世の中に提示され、そのキャラの作画の際にはアニメーターが参考にするモノ、つまりキャラ表が源泉になると指摘しました。

対して、本判決で示されたことは

・・・原著作物のシーンと本件各漫画のシーンとでは,主人公等の容姿や服装などといった基本的設定に関わる部分以外に共通ないし類似する部分はほとんど見られず・・・基本的設定に関わる部分については,それが,基本的設定を定めた回のシーンであるのかどうかは明らかではなく,結局,著作権侵害の主張立証としては不十分であるといわざるを得ない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=89748

つまり、キャラの容姿や服装等の「デザイン」、判決文中で言うところの「基本的設定」に関わる部分について権利侵害を主張するのであれば、それが定まった回のシーンを特定しろと言っています。

で、キャラクターのデザインが初めて世に提示されることによりキャラデが定まったとして著作権が発生するのであれば、大半の場合、それはアニメの作中にキャラクターが初登場したことによってではないでしょう。
漫画の場合にはそういう場合もあるのかもしれませんし、アニメでもサブキャラの場合にはそうかもしれませんが、アニメの主要キャラの場合には放送される前にキャラの設定画などが世の中に公表されます。また、アニメ制作の現場において各カットの作画を担当するアニメーターさんはキャラクターデザインを担当する方が描いたキャラ表(大半は世の中に出るキャラの設定画を含む)を参考に作画を行うわけで、まさに各カットのキャラクターの部分はキャラ表の二次著作物と言えるわけです。

つまり、キャラデの著作権侵害を主張する際の権利の源泉となる対象の「著作物」は、アニメの場合には大半においてそのキャラのキャラ表になるはずです。
被告側がこの辺をちゃんと理解して的確に主張を展開していたら、結果がどうなっていたのか非常に興味深いところです。

ところで、この事からも分かる通り、アニメというのは著作権法でいうところの二次著作物の塊、二次著作物や共同著作物が何重にも何重にも重なってできている著作物のミルクレープです。
そんな権利の構造を順を追って解き明かして説明したのが私が2017年に作った資料「権利者は誰だ?~アニメ”制”作の著作権法~」です。

6.キャラクター「デザイン」の著作権侵害が争われた判例

で、

そのようにキャラクターの「デザイン」についての権利の対象を明確に特定して主張したとして、直ちに権利侵害が認められるかというとそうではありません。
所詮はようやくスタート地点といったところ。
そのスタート地点に立って初めて、具体的な権利侵害の有無を判断する段階に入るわけです。

BL同人誌の場合、キャラの絵は原作とは似ても似つかないキラキラ系になっていることが多いので、その点ではやはり侵害品だということが認められる可能性は低いのかもしれません。
また、キャラの服装は同一なのかもしれませんが、その辺になるとアパレルデザインの著作物性にも通じるこれまた面倒な議論になっていきます。

で、その辺の具体的な判断がされたキャラデの著作権侵害に関する判例を一つ上げるとすれば、どきまぎイマジネーション事件(平成10(ワ)15575東京地裁)かなと思います。

簡単に言うと、ときメモのエロ同人ビデオが勝手に制作されたのでコナミが訴えて勝った事件です。
その事件では以下のように判示されています。

本件藤崎の図柄は、僅かに尖った顎及び大きな黒い瞳(瞳の下方部分に赤色のアクセントを施している。)を持ち、前髪が短く、後髪が背中にかかるほど長く、赤い髪を黄色いヘアバンドで留め、衿と胸当てに白い線が入り、黄色のリボンを結び、水色の制服を着た女子高校生として、共通して描かれている。本件藤崎の図柄には、その顔、髪型の描き方において、独自の個性を発揮した共通の特徴が認められ、創作性を肯定することができる。

本件ビデオには、女子高校生が登場し、そのパッケージには、右女子高校生の図柄が大きく描かれている。右図柄は、僅かに尖った顎及び大きな黒い瞳(瞳の下方部分に赤色のアクセントを施している。)を持ち、前髪が短く、後髪が背中にかかるほど長く、赤い髪を黄色いヘアバンドで留め、衿と胸当てに白い線が入り、黄色いリボンを結び、水色の制服を着た女子高校生として描かれている。
 本件ビデオに登場する女子高校生の図柄は、本件藤崎の図柄を対比すると、その容貌、髪型、制服等において、その特徴は共通しているので、本件藤崎の図柄と実質的に同一のものであり、本件藤崎の図柄を複製ないし翻案したものと認められる。
 したがって、被告が本件ビデオを制作した行為は、本件ゲームソフトにおける本件藤崎の図柄に係る原告の著作権を侵害する。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=13668
ときめきメモリアル 1994コナミ
どぎまぎイマジネーション
権利者は誰だ?~アニメ”制”作の著作権法~ 2017前渋正治

ということで、デザイン的な特徴が指摘された上で著作権の侵害を認めています。

正直、
・僅かに尖った顎
・大きな黒い瞳
・前髪が短い
・後ろ髪が背中にかかるほど長い
・赤い髪を黄色いヘアバンドで留めている
・衿と胸当てに白い線が入っている
・黄色いリボンを結んでいる
・水色の制服を着た女子高校生
という特徴で10人の人に個別にキャラを描いてもらったら10通りの違ったキャラが出来上がると思うので、この特徴をすべて備えていたら著作権の侵害になるということではなくて、こういった特徴を備えた上で「本件藤崎の図柄と実質的に同一のもの」だから著作権の侵害であるということだとは思います。

こういった具体的な判断を行う上でも、著作権の大元となるデザインの画稿を特定する事は重要であるという事が今回の主題である違法アップロード事件の判決の肝なわけです。

なお、どぎまぎイマジネーション事件では今回の事件のように「著作物としての対象を特定しろ」と言われなかったのは、ゲームという形で一つの作品として閉じているものが対象だったため、「そのキャラクターデザインの権利の源泉」は少なくともそのゲームの中にあることに疑いがないのが要因だったのかなと思ったりもします。
ただ厳密に考えると、そのキャラクターデザインの大元の画稿はゲーム内には無いと思いますが…

それにしても、どぎまぎイマジネーション事件は高裁判決まで行ってほしかった。。。
我々は他人の争いを自らの糧とする業の深い生き物です。

7.最後に

というわけで、今回の同人誌違法アップロード事件にて、キャラクターの著作権侵害について目新しいことが示されたなんてことはありません。
キャラクターの著作権侵害について引くことができる線があるとすれば、

完全なコピー、トレース → アウト
~~~~~~~~~~~~~~~~~
(霧の中)
~~~~~~~~~~~~~~~~~
特定のキャラを描いたらしいとわかるけど、下手過ぎ、アレンジが効き過ぎ等の理由で原キャラの特徴が見出だせず別物といっても過言ではない → セーフ
特定のキャラを描いたつもりらしいけど言われてもまだわからない → 当然セーフ

せいぜいこのレベルです。
世に存在する大半の二次創作同人がグレーゾーンの中にあるのは未だ変わりません。

私は同人文化が大好きです。エロパロ以外でも。
ファンによる創作物をやり取りする上で金銭が介在する事が絶対に許されないとも思いません。

でも、

コミケを始めとした即売会イベントの巨大化、インターネット経由の売買の常態化などにより、やり過ぎてる人がいると思います。
二次創作物の販売だけで飯を食ってる人、それだけで飯を食ってるとは言わずとも相応の利益を得ている人、その人の創作物が現行の著作権法や判例に照らしてセーフだったとしても、原作に対するリスペクトを持った同人活動とは言えない、醜い行為だと思います。

そういった醜い行為を糾弾する法的な根拠は著作権法以外にも目を向ければ色々と思い浮かびますが、ここでは割愛します。
本訴訟の主題である、

「同人誌はそもそもパクリなんだから他人に対して権利行使なんておこがましい真似すんじゃねぇ」

こういった事を言われることがないような節度をもった同人活動を心がけるべきなんじゃないか、と思う次第。

少なくとも本件のような訴訟が起こる事は、その判断内容がどういったものであろうと同人文化にとってマイナスにしかならないと思うわけです。

原著作物の権利者に対してなんらインセンティブを発生させることなく、ガイドラインが公開されてセーフラインが示されているわけでもない作品の二次創作同人を儲けの道具にしている者共に不幸あれ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です