展示会に出展した試作品が不正競争防止法2条1項3号の「商品形態」として守られなかった地裁判決が高裁でひっくり返ったハナシ

(2022/10)地裁段階で記事を書いた裁判が高裁でひっくり返っていたのを忘れていたので更新しました。

↓まず元の記事

判例全文(東京地裁 平成27年(ワ)2077)

この件について興味があって知りたいという人がいたので書いてみます。
地裁なんで、ひっくり返る可能性もアリなんですが。
(判決言い渡し日は2016/1/14 控訴されたかどうかがすぐわかるといいんですけどね~)

事案を簡単にまとめますと。
原告さん
①平成23年11月1日 TOKYO DESIGNERS WEEK 2011にコレを出品

※判決文より

②平成24年6月6日 インテリアライフスタイル東京2012にコレを出品

※判決文より

③平成27年1月5日頃 ウェブサイト等でコレの販売を開始

※判決文より

被告さん
平成25年秋ごろ(つまり②と③の間)に製品の輸入販売を開始
判決文には資料が無いのですが、多分コレじゃないかと思います。

で、原告さんが「パクられた!」となって訴えを起こした事案です。

訴えの根拠は不正競争防止法と著作権法です。
著作権法については今回は割愛しますが、簡単に言うと、こういうシンプルなプロダクトデザインは「著作権は無理スジ」です。

不正競争防止法の訴えの根拠なのですが、不正競争防止法にはこんな条文があります。

第二条  この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
(略)
3号 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為

工業製品のデザインは主に意匠登録によって守られるのですが、全ての製品について意匠登録を求めるのは事業に対して酷なので、3年という期限を切って無登録でも守ることにより、公平な競争原理を確保しようという趣旨の条文です。
基本的には、発売された商品について3年間はデッドコピーレベルの模倣から守る趣旨です。

で、時系列を確認するとわかる通り、原告さんが商品の販売を実際に開始したのは被告さんが輸入販売を開始した後なんですね。
だけど、デザインのコンセプト自体は被告さんの輸入販売の開始前に展示会に出展した時点で完成していて、展示物からもそれはわかります。
原告さんが「パクられた!」と憤る気持ちは十分にわかります。

原告「試作品を展示会に出した時点で、商品のコンセプトは完成しているし、不正競争防止法の商品形態として守られる!」
被告「まだ商品として売ってないじゃん。それじゃあ商品形態とは言えないでしょ?」
ということで争いになりました。
なので、裁判においては、①②の展示物のみが保護されるか否かの判断の対象となっています。

で、結果から言うと原告さんの負けです。
今回の事案に関しては、展示会に出展された試作品は、不正競争防止法2条1項3号で形態が保護される「商品」ではないと判断されました。

理由として列挙されているのは
・展示会への出展の際、原告の試作品は銅線で外部電源に接続する構成となっている
・平成24年7月、被告側の輸入業者が原告さんに②の製品化について問い合わせを行った際、「製品化の具体的な日程が決まっていない」との回答だった
・実際に製品化された③は本体がUSBによって電源に接続される構成となっている

これらの理由から、①②の試作品は、一般の家庭等において簡単に使用することができない開発途中の試作品であり、市場における流通の対象となる物とは認められないから不正競争防止法2条1項3号の「商品」ではない。

という判断です。

まぁ、原告さんの気持ちはわかりながらも、法律に明確に規定されていない部分を「気持ち」で守ることの危険性を考えると仕方のない判断かなぁという気がします。
少なくとも、地裁レベルで原告さんが勝てる事案ではないんでしょうね。
「実質的に違法性あり!」
という踏み込んだ判断を勝ち取るには知財高裁での判断を仰ぐしかないでしょう。

ですが、今回の裁判で学ぶべきところもあります。
それは、

すぐにでも受注を受けられる状態ではないのに、特許や意匠での保護も準備せずに開発中の製品を衆目にさらしてはいけませんよ。

という事ではないでしょうか。

①②の出展の段階で既に受注可能な状況であれば、今回のような事は起こらなかったかもしれませんし、受注可能な状況であれば仮に納品までに数か月を要するような状況であったとしても「商品」として認められたかもしれません。
特に、被告側の輸入業者は原告さんに対して製品化についての問い合わせを行っているようですので、仮に原告さんが受注を受けられる状態であれば原告さんから仕入れていたのかもしれません。

今回の製品で大事な部分は、
「水を張ったコップにスティック状の本体を挿して加湿器として機能させる」
という商品のコンセプトでしょうから、それが知られてしまうことはとてもハイリスクな事だという認識が甘かったということかと。
っていうか、まだ受注可能な状態じゃないのに、なんて展示会なんかに出展したのかという疑問もあるんですが。
ともかく、商品のコンセプトを公開するときにはコンセプトをパクられるリスクを考えましょうという教訓です。

知財の仕事をしていると、割とこういった問題は耳にするところです。

まだ市場にはない新しいモノでなんとなく売れそうなんだけど、アイデア自体は言われてみれば簡単な事で特許を取るには厳しい

そういったアイデアをどう保護するか?
弁理士によって考え方は違うと思いますし、事案によっても答えが違うのですが、それを考えるのが弁理士の仕事の面白いところだったりします。

↓ここから、更新分

で、地裁時点で書いた記事を読む限り、

高裁でならひっくり返るかもなぁ~

と思っていた様子が伺えますが、実際にひっくり返しました。

判例全文(知財高裁 平成28(ネ)10018)

簡単にいえば、ひっくり返ったのは

まだ受注可能な「商品」ではないから不競法2条1項3号の保護対象ではない

という部分です。

・・・不正競争防止法2条1項3号において,「他人の商品」とは,取引の対象となり得る物品でなければならないが,現に当該物品が販売されていることを要するとする規定はなく,そのほか,同法には,「他人の商品」の保護期間の始期を定める明示的な規定は見当たらない。したがって,同法は,取引の対象となり得る物品が現に販売されていることを「他人の商品」であることの要件として求めているとはいえない。
そこで,商品開発者が商品化に当たって資金又は労力を投下した成果を保護するとの上記の形態模倣の禁止の趣旨にかんがみて,「他人の商品」を解釈すると,それは,資金又は労力を投下して取引の対象となし得ること,すなわち,「商品化」を完了した物品であると解するのが相当であり,当該物品が販売されているまでの必要はないものと解される。このように解さないと,開発,商品化は完了したものの,販売される前に他者に当該物品の形態を模倣され先行して販売された場合,開発,商品化を行った者の物品が未だ「他人の商品」でなかったことを理由として,模倣者は,開発,商品化のための資金又は労力を投下することなく,模倣品を自由に販売することができることになってしまう。このような事態は,開発,商品化を行った者の競争上の地位を危うくさせるものであって,これに対して何らの保護も付与しないことは,上記不正競争防止法の趣旨に大きくもとるものである。

ということで、現に販売されていなくても商品として販売が予定されていてかつ商品として完成していれば保護期間が開始する、と判断されています。

で、上の写真を見てわかる通り、実際に販売された商品は電源の取り方が異なっているので、「商品として完成していないじゃないか!」と反論されていますが、

上記のような控訴人加湿器1の被覆されていない銅線を,被覆されたコード線などに置き換えて超音波振動子に電源を供給するようにすること自体,事業者にとってみれば極めて容易なことと考えられるところ,控訴人加湿器1は,外部のUSBケーブルの先に銅線を接続して,その銅線をキャップ部の中に引きこんでいたものであるから(甲24),商品化のために置換えが必要となるのは,この銅線から超音波振動子までの間だけである。そして,実際に市販に供された控訴人加湿器3の電源供給態様をみると,USBケーブル自体が,キャップ部の小孔からキャップ部内側に導かれ,中子に設けられた切り欠きと嵌合するケーブル保護部の中を通って,超音波振動子と接続されているという簡易な構造で置換えがされていることが認められるから(乙イ4,弁論の全趣旨),控訴人加湿器1についても,このように容易に電源供給態様を置き換えられることは明らかである。そうすると,控訴人加湿器1が,被覆されていない銅線によって電源を供給されていることは,控訴人加湿器1が販売可能な段階に至っていると認めることを妨げるものではない。

という大前提の認定があった上で、

そのままの形態で販売することが想定されておらず,電源供給部分の具体的な形状についての改変は必要であるとしても,商品化は完了しているといえ,未完成であるわけではない。その電源供給の具体的手段について将来的な変更の余地はあったとしても,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2自体は,実際の形態どおりに外部電源を引きこむものとして確定している。

として反論は否定されています。

展示会に出せば必ず2条1項3号適用の条件を満たすわけではないので注意

さて、この控訴審で

やった!展示会に出しとけば必ず不競法で守られるんだ!

と思ったら大間違いです。
判決文から読み取ることのできる要件は、

・開発,商品化を完了し,販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになったものであること

ですので、試作段階で展示会に出展したのち、実際に販売された商品のデザインが試作から大きく変わってしまっていた場合等は、本判決では射程外です。
また、販売されることなく企画が立ち消えてしまった場合も怪しいです。

もっとも、試作段階では銅線だったものが最終製品ではコーティングされたコードに変更されている程度の、試作→最終製品においてあり得る程度の変化であれば本判決では許容されています。今後さらに細部に判例が蓄積されていくとしたら、試作→最終製品の変化がどの程度許容されるのか、という点でしょうか。

尚、本判決に関しては、展示会後に被告(被控訴人)が原告(控訴人)に対して商品の販売日程を問い合わせるメールをしているのに対して、原告から以下のような返信をしています。

「 『Stick Humidifier』の製品化につきましては,具体的な日程は決まっておりません。製品化のお話はいくつかのメーカーさんから頂いてはおりますが,我々の考えと合致するパートナーさんが見つかっておらず,開発がやや順延しているのが現状です。購入や買い付けに関する問い合わせを多数頂いている故,1日も早く開発を行いたいところです。」

この返信メールに基づき、被告としては

まだ販売を可能とする段階に至っていないじゃないか!

と主張しており、この主張にはある程度合理性があると感じますが、

上記記載の「製品化」は,量産のことを意味していることは明らかであり,「開発」はそれに応じた設計変更をいうものと解され,上記記載が,控訴人加湿器2や控訴人加湿器1が未完成で販売可能な状態ではないことをいう趣旨とは解されない。いったん商品化が完了した商品について,販売相手に応じて更なる改良の余地があったとか,その意図を有していたからといって,遡って,当該商品が商品化未了となるものではない。上記メールの内容は,控訴人加湿器1が商品化されていないことを裏付けるものではない。

として主張は退けられています。

全体を読む限りでは、ここが本判決の分水嶺だったのではないかと感じます。
かなり雑に意訳すれば、「売ってくれ」に対して「まだ売れない」と返しているわけですから、「商品化」、「開発」は完了していたとしても、「販売を可能とする段階」には至っていないという指摘はあながち的はずれだとも思えません。
こういった、原告的にはヒヤリとする部分も含めて、展示会等に試作品を展示する際の教訓としていけば宜しいかと思います。

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