「ご当地婚姻届」商標登録知らず 遊佐町、匿名指摘でおわび文(2017年05月24日 11:31/山形新聞)
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こんなニュースがありました。
「なんて酷い茶番だ!」
と思ったので一つ。
記事によると、事の経緯は、
・遊佐町がオリジナルの婚姻届を「ご当地婚姻届」として配布
・リクルートの商標権侵害であることを指摘する匿名の文書が遊佐町に届く
・遊佐町が「遊佐町婚姻届」に変更しお詫び分を掲載する
・遊佐町がリクルートに問い合わせたところ、リクルートが遊佐町に許可申請を提案
・遊佐町が許可申請を行い、商標使用許可書を受け取る。(無償の模様)
ということのよう。
この話、遊佐町の真摯な姿勢と、リクルートの寛大な措置の美談だと感じた方、
あなた、騙されてますよ?
ということで、まずは対象の商標登録を見てみます。
【登録番号】第5754357号
【権利者】株式会社リクルートホールディングス
【商標】ご当地婚姻届
【指定商品/役務】
9類
電気通信機械器具,カーナビゲーション装置,デジタルフォトフレーム,コンピュータソフトウェア,コンピュータゲームソフトウェア,ダウンロード可能な電子計算機用プログラム,ダウンロード可能な携帯電話機用ゲームプログラム,ダウンロード可能な電子計算機用ゲームプログラム,携帯電話機用コンピュータプログラム,電子応用機械器具及びその部品,家庭用テレビゲーム機用プログラム,携帯用液晶画面ゲーム機用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,ダウンロード可能な家庭用テレビゲームおもちゃ用ゲームプログラム,レコード,インターネットを利用して受信し及び保存することができる音楽ファイル,ダウンロード可能な音楽,インターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,ダウンロード可能な画像及び映像,電子出版物,ダウンロード可能な電子出版物,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント
16類
紙製のぼり,紙製旗,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,紙類,文房具類,印刷物,書画,写真,写真立て
45類
ファッション情報の提供,結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,結婚または交際を希望する者への異性の紹介に関する情報の提供,交際または交友希望者に関する情報の提供,インターネット上でのウェブサイトを通じた一般利用者向けの友達探し及び紹介のための情報の提供,婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供に関する情報の提供,個人の身元又は行動に関する調査,個人に関する情報の提供,インターネットの電子掲示板を用いたプロフィール・日記等の個人に関する情報の提供,運勢判断・心理判断・性格判断・運命相談・相性診断・適性診断・易占・卜占その他の占い,運勢判断・心理判断・性格判断・運命相談・相性診断・適性診断・易占・卜占その他の占いに関する情報の提供,身の上相談,地図情報の提供,インターネットによる地図情報の提供,通信端末を用いた物・動物の位置情報の提供,移動体電話を用いて全地球測位システム(GPS)を利用することにより測位される人の現在位置情報の提供
こんな感じ。
45類で結婚相談所系のものが含まれてますが今回は無関係で、16類の「印刷物」ってのがあるので、そこでまぁ「形式的には商標権侵害」ってコトになるかな。
でも大丈夫!
「ご当地婚姻届」という商標登録があろうと、遊佐町が「ご当地婚姻届」と題した婚姻届を配布することを禁止する事などできません!
以前書いた記事でも触れた内容と同じで、「説明的な記述には商標権の効果は及ばない」という商標法上の条文が理由。
遊佐町がやってることは、遊佐町独自の婚姻届、つまり「ご当地の婚姻届」の配布ですね。
それを「ご当地婚姻届」として配布することのどこが悪いのか!?商標登録?そもそも意志伝達手段であるはずの「言語」をそんな形で独占させていいわけないだろうがボケェ!
という趣旨ですな。
同趣旨の裁判例については以前書いた記事の中で紹介したので割愛しますが、商標「ドーナツ」、指定商標「クッション」という商標権があっても、ドーナツ型のクッションに「ドーナツクッション」って付けて売ってもセーフって言う判例が一番わかりやすいかな。
遊佐町が弱腰になってリクルートにされるがままになってしまったのは残念ですが、まぁ「被害者」ってコトでもあります。
ただし、大企業リクルートのこの対応は許せません。
お前何様だ?リクルート様とでも言われたいか?
知的財産や商標法の趣旨を理解していれば、遊佐町に使用許可の申請をさせるなんて横暴な真似はできないはず。
遊佐町から問い合わせがあった時点で、「あぁ、別にこちらにそんな権限無いですから、気にせずご自由に」となるのがスジ。
その上で、「リクルートのウェブ上でもご当地婚姻届を紹介するサービスがあるので、そのためには一定の契約を」ならわかります。
が、記事から伝わってくる内容は、リクルートが遊佐町に「許可申請」を提案、これです。
しかも、
「ご当地婚姻届」の名称が使用(無料)できるようになり
な~んて、(無料)を強調して善人ズラ。
これでは、商標法の趣旨、「言葉を丸々独占できるわけではなく、説明的な記述には商標権は及ばない」という事が捻じ曲げられて、「ご当地婚姻届」がリクルートによって独占されていることの広報活動です。
絶望した!リクルートの善人ズラして物事を支配しようとする陰湿な企業姿勢に絶望した!
さておき、
遊佐町からしてみれば、何の確約もないままにリクルートの「ご当地婚姻届」の登録商標を横目に「ご当地婚姻届」の配布を続ける事には恐怖心もあるでしょうから、リクルートとの間で何らかの約束事が欲しかった事は理解できます。
では、商標法の趣旨を捻じ曲げず、遊佐町の不安を解消するにはどうすれば良かったか?
世の中の商標登録に関する契約において、私が最も嫌いだと思う事にも直結するのですが、「使用許諾契約」ではなく「不作為請求契約」を結んで欲しかったと思います。
「使用許諾」というのは、その名の通り、「商標の使用を許可します」という契約。
なので、対象となっている商標権が有効で、「この契約が無ければ商標の使用は許しません」という意味合いが言外には含まれていますね。
完全に主導権は商標権者にあります。
対して、「不作為請求契約」というのは、「~しません」ということを約束する契約で、つまり「商標権を行使しません」ということを約束させるもの。
、、、何が違うの?
と思うかもしれませんが、大いに違います。
「使用許諾契約」の場合、やはり趣旨は「許可する」事なので、許諾を受ける側としては商標権が有効であり、これが無くては商標権の侵害として訴えられてしまうというこを暗に認めてしまうような形になります。
それに、契約書によっては【許諾を受けるものの行為が商標権によって禁止されるべき行為であることに異議を唱えない】といった趣旨の条項が入っていたりもします。
今回の場合であれば、商標法26条の趣旨により遊佐町の行為はなんら責められるものではないのに、その行為が商標権によって禁止されるものであることを遊佐町側が積極的に認めたという解釈になってしまう可能性が大です。
まさに、商標法の趣旨が捻じ曲げられています。
これに対して、「不作為請求契約」であれば、「商標を使用させてもらう」というような、今回であれば遊佐町がリクルートに許しを請うような形にはならずに、リクルートが遊佐町に対して「商標権侵害で差し止め請求したり損害賠償請求したりしません」という約束をする形になります。
なので、商標の有効性、遊佐町の行為が商標権によって禁止されるものかどうかはさておき、「めんどくせぇからお前ら文句言ってくんなよ?」ということを遊佐町側からリクルート側に約束させる、という形にできます。
この「使用許諾形契約」と「不作為請求契約」の違い、自分はとても大きいと思っているのですが、世の中の商標に関する実務ではこの違いが意識されずに安易に「使用許諾契約」となっているような気がします。
その結果、「商標登録は絶対!商標登録されたら、その言葉は商標権者のもの!」みたいな、間違った認識が蔓延しているのではないかと。
言語とは意志伝達手段です。
「言葉を独占する」なんてそんな横暴な話ありません。
商標法と言うのは、以前書いた記事でも触れたとおり、商売の看板を勝手に使われないように守るのが趣旨であって、言葉を独占させるような横暴な真似ができる法律ではないのです。
ってか、
リクルートマーケティングパートナーズが調べたところ、リクルートグループの公式文書ではないことが判明
とか書いてあっけど、どうせリクルートが匿名で送ったんだろ?