いきなり条文
第五十条 継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(中略)の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
俗にいう「不使用取消審判」というものです。
ご存知の通り、商用登録されたら、登録商標を指定商品や役務における”商売上の看板”として使用する権利は商標権者によって独占されます。
が、商標というのは使ってなければ人々に認知されず、「顧客吸引力」というものも生じません。
そのような状態で3年間も放置された商標登録は、もはや登録を維持する必要はないし、その商標を使いたい第三者による使用を不要に妨げることにもなってしまう。
「だから取り消す」という趣旨の条文です。
で、再度条文に注目してみますと、
「商標権者」、「専用使用権者」又は「通常使用権者」のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(中略)の使用をしていないときは
という事で、「商標権者」だけでなく、「専用使用権者」又は「通常使用権者」による使用も特定されています。
つまり、商標権者が全く使用していなくても、「専用使用権者」又は「通常使用権者」が使用していれば、不使用取消審判によって取り消されてしまう事はありません。
で、商標ブローカー問題です。
他のエントリでも言及しましたが、商標ブローカーの手口とは、商品やサービスの説明書きとも取れるような言葉を商標登録し、その言葉を使う者に対して因縁をつけ、訴訟で必要になる費用よりも安い額を巻き上げるというものです。
そういった行為のみで商品の販売やサービスの提供を行うことなく登録から3年が経過した登録商標について考えてみるというのが今回の趣旨です。
商標ブローカーから因縁を付けられて数万円を支払ってしまった者というのは、商標法50条の「通常使用権者」に該当するのか?
これはノーのはずです。
少なくとも自分としては強くそう思う。
そう思って審決例や判例を探してみたのですが、今のところ見つかりません。
というわけでここからは判例や審決例に基づいた事実ではなく趣旨論です。
商標の機能とは、「出所表示機能」つまり商品やサービスの提供主、出所を示す機能ですね。この他に「品質保証機能」なんて事も言われますが、これは商標権者次第で法的な根拠なんて元々ありません。
(※商標権の自由譲渡が認められた時点で「出所表示機能」についてもあやふやになってしまったので、無条件に他社に譲渡されてしまった商標権は「出所表示機能」も無いに等しいですが。「コンバース」とか。)
ともあれ、商標権を使用するという事は「出所表示機能」を使用するという事です。
「商標権とはコトバを独占する権利」という世の中の間違った認識によれば、「商標登録されたコトバを(指定商品・役務に)使うこと」が商標を使用するという事というイメージになってしまうかもしれませんが大きな間違い。
商標の「出所表示機能」を使う事が商標を使用する事であり、「商標権の侵害」となる行為です。
そのために、商標法2条3項各号にて「使用」の定義が規定される他、商標法26条にて「商標権の侵害」から除外される行為が規定されています。
規定内容の詳細は割愛しますが、とにかく「出所表示機能」としての使用が「商標の使用」であることは間違いありません。
ここで、「商標ブローカーに金を払った」という事実を考えてみます。
そもそも、「出所」と呼べるものがあるのか?
この記事における「商標ブローカー」について定義づけをしておきますと、次の1点のみです。
・自身では商品展開、サービス展開をしておらず、その予定もない(名目的に「~準備中だ」と言っている場合も含む)
つまり、商品展開、サービス展開を行っていないのに、「出所」も何もないでしょう。
「商標権者自身が出所だ」という意見もあろうかとは思います。
が、第三者がその商標を使う場合において使いたい「出所表示機能」が示す「出所」は、少なくともその商標権者ではないはずです。
つまり、その商標権が守る「出所表示機能」を使っているわけではない。
結論、「商標ブローカーに金を払った」という事実は、商標法50条1項の「通常使用権者」による使用には該当しない。
という事で問題ないはずです。
色々と判例や審決例を検索してみたものの、ドンピシャなものは見つかりませんでした。
ですが、このような問題は商標ブローカー問題が言われている昨今では生じているはずです。
裁判にもならず、審判も起こさず、商標ブローカーに言われるがままお金を払わされた方もきっといるのでしょう。
私が過去に対応した商標ブローカー被害における商標登録、当時は3年経過前でしたが、今は登録から3年が経過しています。
ですが、裁判において「こんだけの相手から金取ってんだ!」と恥ずかしげもなく暴露してくるくらいですから、不使用を根拠に反論すれば同じ様に「こんだけの相手から金取ってんだ!通常使用権者による使用がある!」と平然と言ってくる事でしょう。
そういった間違った実務が正されていくように、不幸にも商標ブローカーのターゲットになってしまった事業主が(ちゃんんとした知識のある)専門家に相談することを願うばかりです。