スピードラーニング販促DVD事件

「教材」に関する著作権裁判はチョイチョイ起こりますね。

本件は、かの有名な英会話教材、スピードラーニングに関する事件です。
なんですが、教材そのものではなく、教材本編の販促用の映像が対象という点が本件の特徴です。

地裁 平成29(ワ)16958
高裁 平成31(ネ)10028

事件の経緯
・原告(スピードラーニング側)は少なくとも平成20年9月頃から,原告商品の購入を検討している顧客に対し,原告DVDを配布した。原告DVDは,原告商品の受講者の体験談,原告商品の開発者からのメッセージなどが収録されたものである。
・被告は,被告DVDを制作し,平成26年,被告商品の購入を検討している顧客等に対し,被告DVDを配布した。被告DVDは,被告商品の受講者の体験談,被告商品の開発者からのメッセージなどが収録されたものである。
・原告が提訴。

原告、被告、それぞれのDVDの内容の対比はこちら

地裁で判断された争点
・映画の著作物としての複製権,翻案権侵害の有無 → 翻案権の侵害
・編集著作物としての複製権,翻案権侵害の有無 → 非侵害
・言語の著作物としての複製権,翻案権及び譲渡権侵害の有無 → 非侵害
・同一性保持権侵害の有無 → 侵害
・損害の有無及び額 → 36万5千円
・原告の請求の権利濫用該当性 (省略)

まずは地裁から。

争点1.映画の著作物としての複製権,翻案権侵害の有無

結論として、原告、被告それぞれのDVDの内容が項目ア~トの20の項目に分けられて詳しく対比され、そのうちイ、ウ、オ、ケ、テ、トについて、原告DVDの表現上の本質的特徴が被告DVDから直接感得されるとして、翻案権の侵害が認められました。
 他方、全体的構成については同種の目的のものについて一般的なものであり創作性があるとは言えず、原告DVD全体についての表現上の本質的な特徴を被告DVDから感得することができるとまではいえないとされました。

それぞれの項目について見てみます。

イントロダクション(項目アないしオ)

(項目ア)最初に社名が表示される点

→アイデアが共通するのみであり表現(社名)は異なる。

(項目イ)紺色の背景の中央に白い扉が現れ,白い扉が拡大されるに従いその扉が手前に開き,その奥に宇宙が広がる点

(項目イ,ウ) 扉の先の宇宙の中心に白い光が現れ,それが次第に大きくなり,その後,海外の光景の写真が表示され,その写真が拡大していくとともに,「外国人の友達が欲しい」という英会話を学ぶ動機を示すフレーズが画面の下部に赤色で表示され,そのような写真の表示,拡大とフレーズの表示が,写真及びフレーズを変えて5回繰り返される点

→項目イ及びウにおける原告DVDと被告DVDの共通点は,白い扉を抜け,その先に英会話を学ぶ動機となるフレーズと共に写真が現れるというもので密接に関係するものといえるところ,英会話の宣伝,紹介用のDVDにおいて,教材を利用することで新しい状況となることについて,紺色の背景とする白い扉やその奥に広がる宇宙で表現するとともに,教材により達成できる状況について,扉の奥に,その状況を表しているともいえる写真を英会話を学習する動機を示すフレーズとともに複数回示すことで表現しているものといえ,その表現は,全体として,個性があり,創作性があるといえる。

(項目エ) 外国人と話している様子と共に,「あなたはどんな自分になりたいですか。なりたい未来のあなたを想像してください」などの音声が流れる点

→アイデアが共通するのみであり表現(社名)は異なる。

(項目オ) 白い雲の奥に太陽が白く光る青空の光景となり,その後,別の画面となった後,暗い雲の一部から太陽の光が差す光景となり,「新しい言葉を習得すると新しい自分を発見したり新しい世界が広がります。人間にはもともと言葉を話せる力が備わっています」という音声が流れ,さらに,その後,「さあここから一緒に始めましょう,(商品名)の世界へようこそ」という音声が流れ,画像中央の商品のDVDが回転するとともに,その周囲を人物の写真が左回りで周り,「Welcome to(商品名),(商品名)の世界へようこそ」という文字テキスが表示される点

→項目オにおける原告DVDと被告DVDの共通点は,教材を学ぶことで状況が変わることを,二度にわたる太陽の光を含む空の情景で示し,また,自社の商品を用いることで交流の範囲が広がることなどを人物が写った多数の写真を自社商品の周りを回転させることなどで表現しているものといえ,その表現は,全体として,個性があり,創作性があるといえる。

受講者インタビュー(その1)(項目カ)

「(商品名)を始めた人の中にはすでに新しいステージへと人生を開いていった人たちがたくさんいらっしゃいます」という音声が流れ,その後,海外で活躍する女性を紹介し,その女性へのインタビューの様子となる点,「英語を話す原点になったのが(商品名)だったのです」という音声が流れるとともに,同趣旨が赤色の文字テキストで表示される点などが共通する。
 他方,原告DVDと被告DVDの当該部分において,登場人物やインタビューの内容,表現は異なっている。

→受講者インタビュー(その1)の部分の原告DVDと被告DVDの共通点は,いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分に関するものであるといえる。

受講者インタビュー(その2)(項目キ)

 原告DVDと被告DVDは,当該部分において,地名が表示された後,受講者の男性の肩書き,氏名が文字テキストで表示されると共に,その人物は,英語が苦手であったが,それを変えたのが原告又は被告の商品であったという内容の音声が流れ,その後,その人物へのインタビューの様子となる点などが共通する。
 他方,原告DVDと被告DVDの当該部分において,登場人物やインタビューの内容,表現は異なっている。

→受講者インタビュー(その2)の部分の原告DVDと被告DVDの共通点は,いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分に関するものであるといえる。

その他受講者インタビュー(項目ク)

 原告DVDと被告DVDは,当該部分において,受講者への複数のインタビューの様子である点,「人生が変わりました」との文字テキストが表示される点で共通している。
 他方,原告DVDと被告DVDの当該部分において,登場人物やインタビューの内容,表現は異なっている。

→その他受講者インタビューの部分の原告DVDと被告DVDの共通点は,いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分に関するものであるといえる。

商品紹介(項目ケ)

 原告DVDと被告DVDは,当該部分において,まず,画面上部が光り,雲が浮かんでいる空の様子となった後,画面の上方から階段が伸びてきて,階段を下から見上げる構図となり,その後,空を背景に,最下段の階段の側面に英語学習のステップのフレーズが表示され,そのフレーズの読み上げが終わると一段上の階段の側面が拡大されると同時に,その階段の側面に次の英語学習のステップのフレーズが右からスライドして表示されるとともに,そのフレーズがナレーションされ,それを7回繰り返して,7つ目の英語学習のステップが表示されると,側面にフレーズが記載された階段が最下段まで表示されるという点で共通している。
 また(中略),その内容,表現はほぼ共通している。

→項目ケの部分の原告DVDと被告DVDの上記 の共通点は,空に浮かんだ階段を下から見上げる構図とすることによって,階段を上っていくイメージを抱かせ,階段と英語学習のステップが結び付くものであり,原告DVDと被告DVDでほぼ共通するフレーズの内容に照らしても,一定の段階を踏んで英語学習を進めることができるなどのイメージを与えるものである。そのようなステップが7段階あり,その内容がほぼ同一であることをも考慮すると,この共通点は,作成者の個性が現れており,全体として創作的な表現であると認められる。
 そして,上記共通する内容に項目ケの内容等を考慮すれば,項目ケの原告DVDの表現上の本質的な特徴を被告DVDから直接感得することができると認められる。

商品特徴(項目コ,サ)

(項目コ) 外国人と会話している様子となり,「なぜ,(商品名)を手にすると外国語を話せるようになって人生が変わるのか」,「そこには(商品名又は会社名)独自の画期的なシステムがある」という音声が流れる点,

(項目サ) 英語を話せるようになるための商品独自の画期的なシステムがあるという音声が流れるとともに,画面中央付近に青色,緑色,オレンジ色の三つの球にも見える円が現れ,それらの三つの円がまず水平方向に周り,その後,それぞれの円が移動して,青色の円が上部,緑色の円が左下部,オレンジ色の円が右下部で停止して,正三角形の頂点を形成した後,それらの三つの円がそれぞれ線で結ばれる点

 原告DVDと被告DVDで,外国人との会話の登場人物やその内容は異なる。また,青色の円に記載された文字は「スピードラーニングメソッド」(原告DVD),「2段階スピード音声」(被告DVD)であり,緑色の円に記載された文字は「サポートシステム」(原告DVD),「流して聞くだけ」(被告DVD)であり,オレンジ色の円に記載された文字は「仲間」(原告DVD),「サポートシステム」(被告DVD)であって,それぞれ異なる。また,その背景も,原告DVDは,全体が青の色調で,下方が格子模様の床のようになっていて最上方から青色が薄くなるのに対し,被告DVDは,画面の中央部分が濃いオレンジ色でその周りにほぼ円形に黄色が広がっているものである。

→商品特徴(項目コ,サ)の部分の原告DVDと被告DVDの共通点は,いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分に関するものであるといえる。

商品特徴(項目シ)

 原告DVDと被告DVDは,当該部分において,項目サで登場した円の一つである青色の円が拡大する点,その円の項目に関する説明として赤ちゃんが言葉を習得するプロセスについて説明の音声と文字テキストが流れる点,赤ちゃんや赤ちゃんと母親の様子となる点,プロセスの内容として赤ちゃんは言葉のシャワーを自然に浴びることで聞きためた言葉をある日話し出し,人間にはもともと言葉を習得する力が備わっていて,「聞く」,「話す」のプロセスを踏めば必ず自然に英語が話せるようになることなどが説明される点などが共通する。
 他方,原告DVDと被告DVDの当該部分において,青色の円に書かれているキーワードが,原告DVDでは「スピードラーニングメソッド」であるのに対し,被告DVDでは「2段階スピード音声」であり,円の背景の色や全体的な構成,赤ちゃんと母親の様子などは異なる。

→商品特徴(項目シ)の部分の原告DVDと被告DVDの共通点は,いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分に関するものといえる。

開発者等インタビュー(項目スないしタ)

(項目ス) 開発者へのインタビューの様子となり,そのインタビューで,あきらめないことが大事であると述べられる点

(項目セ) 英語を 学習し始める動機を尋ねる音声が流れ,その後,試験のための勉強ではつま らなくなること,英語の勉強がつまらないことはもったいないこと,本来の目的は外国人の友達が欲しいということ,相手のことを知りたいということ,自分のことを伝えたいということであったはずであること,各商品では外国語を習得する本来の目的を大切にしていることについて,音声が流れるとともに,同様の文字テキストが表示される点

(項目ソ) 商品の製作メンバーへのインタビューの様子となる点

(項目タ) まずは100日間聞き続けてみましょうとの内容の音声が流れる点

原告DVDと被告DVDの当該部分において,登場する開発者やその話の表現,人物の背景等は大きく異なっている。

→開発者等インタビュー(項目スないしタ)の部分の原告DVDと被告DVDの共通点は,いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分に関するものであるといえる。

商品特徴(項目チ,ツ)

(項目チ)当該部分において,商品の「サポートシステム」があることを説明した後,多くの暗い雲で覆われた空の光景を背景に,受講生が感じる「効果が感じられない」,「このまま続けていいのか」という不安を示す音声が流れるとともに,同内容の文字テキストが表示されること,そのような不安を解消するため,サポートシステムの具体的な内容として「サポートメール」などがあると紹介する点

(項目ツ) 従業員へのインタビューの様子となる点

 他方,原告DVDと被告DVDのサポートシステムの具体的な内容,具体的な空の光景,インタビューの構成や内容などは異なっている。

→商品特徴(項目チ,ツ)の部分の原告DVDと被告DVDの共通点は,いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分に関するものであるといえる。

エンディング(項目テ,ト)

(項目テ) 当該部分において,日本列島の一部を上から見下ろした後に,暗い日本列島に光る部分が現れて,それが増えていき,日本列島全体がおおよそ光り,その後,人物が映った多くの小さい長方形の写真が宇宙から見た地球の周囲を回る点,商品をきっかけにできた仲間達の輪又は商品の輪の広がりについて,日本列島全体がおおよそ光る部分で,それが日本全国に広がる旨の音声が流れ,その直後の多くの小さい長方形の写真が宇宙から見た地球の周囲を回る場面で,それが世界中へ広がり始めている旨の音声が流れる点

(項目ト) 日の出の情景の後,赤っぽい太陽が大きく映され,その後,左上方に太陽の光が見える青空に変わり,「あなたの心があなたの未来を創ります。」(原告DVD),「あなたの心であなたの未来が180度変わります。」(被告DVD)という音声が流れるとともに,同趣旨の文字を画面に表示する点

→項目テの上記共通点は,各DVDにおいて宣伝している英会話教材が日本全国で広く支持を得ていることやその英会話教材を使用することによって,日本中,世界中の人間とつながることができることにつき,音声に加え,日本列島における光や地球の周りの写真を用いて伝えることを意図していると考えられるものであり,具体的な表現において作成者の個性が現れており,全体として創作的な表現であると認められる。また,項目トの上記共通点も,英会話の上達について,日の出から青空への変化を通じて伝えることを意図したものであると考えられ,具体的な表現において作成者の個性が現れており,全体として創作的な表現であると認められる。
 そして,上記共通する内容に項目テ及び項目トの内容を考慮すれば,項目テ及び項目トの原告DVDの表現上の本質的な特徴を被告DVDから直接感得することができる。

小括

 原告DVDと被告DVDでは,画面自体は異なり,原告DVDの表現に一定の修正,増減,変更等が加えられて別の表現となっていることなどから,被告DVDは,少なくとも,上記各項目において,原告DVDを翻案したものと認められる。

争点2.編集著作物としての複製権,翻案権侵害の有無
争点3.言語の著作物としての複製権,翻案権及び譲渡権侵害の有無

全体的後世については争点1の通り創作性が認められないため、編集著作物としては非侵害とされました。
また、共通するスクリプトは,事実を述べるものか,英会話教材の宣伝,紹介用の動画において,ありふれたものということができ,その順序にも表現上の創作性があるとは認められないため非侵害とされました。

争点4.同一性保持権侵害の有無

争点1において翻案権の侵害が認められたことを持ち出し、原告著作物を改変したものであるとして同一性保持権の侵害に当たると判断されました。

争点5. 損害の有無及び額

翻案権侵害による損害額

受講検討中の需要者に配布されるという原告DVD、被告DVDの性質や、上述した共通する創作的な表現の内容や量その他の諸般の事情に照らせば,原告が受けるべき金員の額は,被告DVD1枚当たり1000円であると認められ、頒布数215枚を乗じて21万5千円とされました。

同一性保持権侵害による損害額

10万円と認定されましたが、詳細な計算式は提示されませんでした。

弁護士費用損害額

5万円と認定されました が、詳細な計算式は提示されませんでした。

というわけで合計で36万5千円と認定されました。

被告はこれを不服として控訴しましたが、控訴審では判決文の細部に修正が加えられたものの大きな変更点は無く控訴棄却となりました。

雑感

販促用DVDの著作物性

「コンテンツではない」というと語弊があるかもしれませんが、今回の訴訟対象物である販促DVDは、教材本編の内容や有効性などをユーザーに伝える事を目的としたものであり、 「見て楽しむ」という一般的な「コンテンツ」とは性質が異なることはご理解頂けるかと思います。

そういったものについても、「販促DVD」という映像の目的に照らして、「作り手の個性」が認定され、「著作物性」が認定されている点については本件の特筆すべき点なのではないかと思います。

その創作性の認定過程については、上述したイ、ウ、オ、ケ、テ、トについての判断をご参照頂ければ。

対象物は商品ではなく販促用DVD

本件の大きなポイントの1つは、対象の著作物が金銭を対価として提供される本編ではなく、その販促用の映像だという事ですね。
これは損害額の算定が難しくなるやつです。

金銭を対価として提供されるコンテンツであれば、そのコンテンツを提供することによって得られる利益とか、色々と参考にできる計算式はあるんですが、販促物となると損害額の計算は難しいです。

本件では、この販促物をきっかけとして販売される教材本編の価格(初回セット8800円、2回目以降4100円)や、原告が教材の開発に際して他社に支払っているライセンス料(850円)、そして販促用DVDがユーザーによる本篇の購入に際して果たす役割の重要性などから1本あたり1000円と計算され、この額は控訴審でも支持されました。

被告側には「販促物だからある程度パクっても平気だろう」「損害は小さいだろう」という腹積もりはあったんでしょうか。
確かめようは無いですが、仮にその腹積もりがあったとしたら、36万5千円という認定額はそれを肯定している気がします。
まぁ、裁判になって控訴審まで行ってますから訴訟費用の方がかさんでいるとは思いますが。
結果的にスピードラーニング側としてもあまりメリットの無い訴訟だったのではないでしょうか。

残念ながら、販促物の場合は仮に著作物だったとしても訴訟まで提起して損害賠償を請求するというのは、現状は合理的な戦術とは言えないようです。

ただ、上述した通り販促用DVDであっても、その販促という目的に従い、伝えるべきことが伝わるように作り手が知恵を絞っているわけです。なので、多少の損害賠償義務が発生してもパクったもん勝ちというのは健全な状態とは言えません。

知的財産権侵害の懲罰的賠償については長らく議論されていますが、そこにつながる法改正が産業財産権四法において行われました

ざっくり言うと、侵害による損害額の算定におけるライセンス料率は、事前の交渉によって決まる料率よりも高くて然り、というもの。
これは著作権法には無関係ですが、実質的に料率算定のアベレージが変わってきたりするんでしょうか。

自分は懲罰賠償、三倍賠償の導入には慎重であるべきだと考えていますが(そもそも民法が変わらない限り懲罰賠償を正面から立法することは難しいでしょう)、パクったもん勝ちの状況は解消される必要があります。

その問題提起と言う観点からも、本件は参考になる判例と言えます。

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