屋外の場所に恒常的に設置されている著作物の複製(46条第4号)についての判断例

 屋外に恒常的に設置された美術品の複製に関する相談案件があったので判例を探してみたところ思いの外見当たらず、割と判例的には定まっていない部分なのかなと思いまして、唯一見つけた事例を検討してみたい次第。

著作権法46条第4号について

いきなり引用しますと、

第四十六条 美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
<中略>
四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合

 過去の2件の記事(1)(2)でも引用した条文ですが、建築の著作物や屋外に恒常的に設置されている著作物は基本的に自由に利用可能であるという条文です。
 しかし、「何でもかんでも自由」としてしまうと権利者にとって不利益が大き過ぎるということで、その利用範囲に制限がかけられていて、1~4号までが定められています。
 そのうちの4号が今回の対象で、「専ら美術の著作物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する」ことが禁止されています。

 この条項、一見単純で「複製して売るな」「売るために複製するな」と言っているだけなんですが、実際に検討する場面となると色々と悩ましい部分があります。
 例えば、「屋外に恒常的に設置」される著作物と言えば彫刻や銅像なんかの立体物が思い浮かぶと思うんですが、そんな立体物を写真に撮る事は果たして「複製」に該当するのか?とか。

関連する判例

 で、そういった細かい判断についての参考に是非とも判例が欲しいところですが、探したところ46条4号に関する判断が含まれてウェブで公開されているのは1件のみ。

平成13年(ワ)第56号 損害賠償請求事件
 あるアーティストがバスに絵画を描き、そのバスを撮影して子ども用の「働く車」的な本に掲載して出版した企業を訴えた事件。
 この他、夜景写真の盗用に関して「夜景は屋外に恒常的に設置されているものとは言えない」という判断があるだけでした。
 というわけで、バスに描かれた絵画の事件を見てみます。

事案の概要

・原告は実績のあるアーティスト
・平成6年、横浜を周遊するバスに原告が絵画を描いた
・平成10年、被告が「はたらくクルマ」的な子供用の本の表紙と本文に原告が絵画を描いたバスの写真を掲載した
・原告が著作権・著作者人格権の侵害で被告を訴え、被告は46条柱書に基づいて「屋外の場所に恒常的に設置されているもの」として反論を行い、原告は同4号に基づいて被告の行為が「専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し」たものであると再反論した。

46条柱書の該当性について

本件は「バス」ですので動きます。なので、「屋外の場所」「恒常的に設置」についてそれぞれ争点となりました。

「屋外の場所」については、

「一般公衆に開放されている屋外の場所」又は「一般公衆の見やすい屋外の場所」とは,不特定多数の者が見ようとすれば自由に見ることができる広く開放された場所を指すと解するのが相当である。原告作品が車体に描かれた本件バスは,市営バスとして,一般公衆に開放されている屋外の場所である公道を運行するのであるから,原告作品もまた,「一般公衆に開放されている屋外の場所」又は「一般公衆の見やすい屋外の場所」にあるというべきである。

(下線は独自)

として認められました。

「恒常的に設置」については、

 「恒常的に設置する」とは,社会通念上,ある程度の長期にわたり継続して,不特定多数の者の観覧に供する状態に置くことを指すと解するのが相当である。原告作品が車体に描かれた本件バスは,特定のイベントのために,ごく短期間のみ運行されるのではなく,他の一般の市営バスと全く同様に,継続的に運行されているのであるから,原告が,公道を定期的に運行することが予定された市営バスの車体に原告作品を描いたことは,正に,美術の著作物を「恒常的に設置した」というべきである。

(下線は独自)

として認められました。

 これで、まずは「バスに描かれた絵画」が46条柱書にあるところの、「屋外の場所に恒常的に設置されている」美術の著作物である点は認められました。この段階では、この絵画は同条の趣旨に基づき自由に利用することが可能ですので、原告の訴えは認められません。
 対して、4号の例外規定に該当すれば、その自由な利用が阻害されることとなり、原告の訴えが認められます。

46条4号の該当性について

 いきなり判決文を引用しておきますと、

被告書籍には,原告作品を車体に描いた本件バスの写真が,表紙の中央に大きく,また,本文14頁の左上に小さく,いずれも,原告作品の特徴が感得されるような態様で掲載されているが,他方,被告書籍は,幼児向けに,写真を用いて,町を走る各種自動車を解説する目的で作られた書籍であり,合計24種類の自動車について,その外観及び役割などが説明されていること,各種自動車の写真を幼児が見ることを通じて,観察力を養い,勉強の基礎になる好奇心を高めるとの幼児教育的観点から監修されていると解されること,表紙及び本文14頁の掲載方法は,右の目的に照らして,格別不自然な態様とはいえないので,本件書籍を見る者は,本文で紹介されている各種自動車の一例として,本件バスが掲載されているとの印象を受けると考えられること等の事情を総合すると,原告作品が描かれた本件バスの写真を被告書籍に掲載し,これを販売することは,「専ら」美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し,又はその複製物を販売する行為には,該当しないというべきである。

(下線は独自)

 という事で認められず、被告による利用は46条4号における例外規定には抵触しないものであり、46条柱書の趣旨により自由な利用が認められる範囲内であると判断されました。

「売るための複製」がすべて禁止されるわけではない

 この判断からわかることとしては、4号の条文のうち「専ら」の部分が重視されるという事です。
 例えば、このバスの写真単体で販売していたとしたら違った判断になったのかもしれませんが、本事例のような「はたらくクルマ」的な本に多くのクルマの1つとして掲載することに関しては、「専ら」には該当しないという部分が特に強調されています。
 従って、屋外に恒常的に設置された美術の著作物を撮影した写真が含まれるものを販売するような場合であっても直ちに46条4号によって利用が制限されるわけではなく、「専ら」であるのか否かを詳細に検討すべきという事です。

立体物→撮影物が複製か否かについては参考にならず。ただし、

 最初見つけたとき、「バス」の「写真」という事で立体物→撮影物が複製か否かについての判断の参考になるかと思ったんですが、読む限り、あくまでも著作物として認定されているのはバスに描かれている絵画であって、立体物としてのバス全体ではなさそうです。本件においてはバスはキャンバス替わりでしか無いようです。

 ただ、判決文を読んで思うところとしては、46条の適用で重視される点は、「権利者に対して著しい経済的不利益を与えるか否か」という点です。
 この点、公道を走っていて誰もが自由に見たり写真を撮ったりする事が可能なバスの写真が一部に掲載された本を販売したとしても、権利者の収益構造に変化が生じるとは考えにくく、著しい不利益が生じるとは思えないということでしょう。
 特に、判決文の添付資料からも分かる通り、本件の本では表紙にデカデカと対象のバスが掲載されています。それでも「専ら」に該当しないという事で、かなり直接的な「複製」でないと「専ら」に該当して46条4号により利用が制限されることはないと言えるのではないでしょうか。
 彫刻や銅像等の立体物であれば、それは立体物として複製しなければ該当しないのか、撮影した写真そのものを商品とする場合も該当するのか、、、
 立体物を撮影した写真そのものを商品として販売したとしても、立体物としての著作物の収益構造に変化を与えて著作者に著しい不利益が生じるとは思えない、という考え方もできます。
 是非とも判例が欲しいところです。

人格権、氏名表示権について

 なお、本件においては著作者人格権のうち氏名表示権に基づく主張もなされていますが、

被告書籍中に,原告作品の著作者氏名の表示はされていない。しかし,前記のとおり,被告書籍における著作物の利用の目的及び態様に照らし,著作者氏名を表示しないことにつき,その利益を害するおそれがないと認められる

として退けられています。
 ここでも、「被告書籍における著作物の利用の目的及び態様に照らし,著作者氏名を表示しないことにつき,その利益を害するおそれがないと認められる」ことが根拠とされており、判断が杓子定規なものではないことがわかります。

 最初に引用した通り、46条柱書には「いずれの方法によるかを問わず」と規定されているので、46条柱書が適用され、4号に該当しないのであれば氏名表示の義務も免除される事になります。なので、46条の結論に従えはこちらは杓子定規な判断で構わないはずなのですが、ここでも「利益を害するおそれ」が論じられている辺り、この論点が法の趣旨として重いことが伺えます。

その他

 そもそも、この話は、
1st 著作権により他人による複製等を禁止して独占できる
2nd 【例外】として、屋外に恒常的に設置された美術品は自由に利用できる
3rd 【そのまた例外】として、専ら美術品の複製物を販売する場合は除外される
 という形で、「例外のそのまた例外」という構造になっており、適用される場面は非常に限定的であるべきと考えられます。
 そういう面からも、4号における「専ら」が厳密に判断された事には大きな意味があるのでしょう。

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