2022年 主要著作権関連判決一覧

※弁理士向けにしゃべる際の資料として作ったので、全体的に、特に考察に関してはその観点での文章になってます。

<目次>
1.令和4(ワ)8410 発信者情報開示請求事件(Youtubr動画、ツイート)
2.令和4(ワ)14375 発信者情報開示請求事件(Youtubr動画、ツイート)
3.令和2(ワ)12348 損害賠償請求事件(新聞記事)
4.令和2(ワ)3931 損害賠償請求事件(新聞記事)
5.令和3(ワ)24148 損害賠償請求事件(動画の画面キャプチャ)
6.令和4(ワ)12062 損害賠償請求事件(ファスト映画)
7.令和4(ネ)10019 発信者情報開示請求控訴事件(イラスト)
8.令和3(ワ)21405 著作権侵害差止等請求事件(写真)
9.令和3(ネ)10017 共同著作権に基づく利得分配請求等控訴事件(ボイスドラマの編集)
10.令和1(ワ)26366 著作権侵害差止等請求事件(地図)
11.平成31(ワ)8969 著作権侵害差止等請求事件(ゲームキャラ)
12.令和3(ワ)2859 著作権侵害差止等請求事件(写真)
13.令和2(ワ)32121 著作権侵害差止等請求事件(写真)
14.令和3(ワ)10987 著作権侵害損害賠償請求事件(ルポ、ジャーナリズム)
15.SCANPAN関係(写真)
16.総括

1.令和4(ワ)8410 発信者情報開示請求事件

◆概要:道の駅に関する情報を発信するYoutuber原告が、①原告の動画のキャプションを抜き出してまとめた画像、②原告のツイートをスクショした画像、それぞれのツイートについて発信者情報開示を求めた。①は創作性なし、②は創作性有りでかつ引用ではないと判断された。

◆本件動画(原告投稿)
コンテンツの一つとして、全国の道の駅における車中泊に関する情報を発信している
多分これ https://www.youtube.com/watch?v=NQBFeqC6GN4

◆本件ツイート①(被告投稿)
「FF外から失礼します。正式見解とはこの事を言ってるみたいですが、そういうことも含めてです。~仮眠とっていただくことについては・・・何処が正式な回答なのでしょうか。通達って?」と記載した上、本件動画から本件各キャプション部分を切り抜き、一枚の静止画にまとめて作成した別紙投稿画像目録記載1の画像(本件画像①)を添付したツイートを投稿した
※見つからず。おそらく削除済み。

◆本件キャプション(原告作成)
⑴ 中国地方の道の駅104ヵ所 車中泊禁止、車中泊ご遠慮 完全撤回です
⑵ 国土交通省から公式見解と声明がありますので
⑶ 宿泊目的での利用はご遠慮くださいに変えるってことですかね
⑷ 宿泊目的での利用はご遠慮くださいっていうQ&Aあるじゃないですか
⑸ これはつまり休憩や仮眠の車中泊であれば問題ないってことでいいんですかね?
⑹ そこに住み着くようなことはご遠慮いただいているってことですよね?
⑺ そういうことも含めてです
⑻ 僕が言っている休憩のために仮眠のためにする車中泊
⑼ そう思っている人もいるってことじゃないですか
⑽ 問題ないよってことでいいんですよね?
⑾ 休憩していただく、仮眠をとっていただくことについては問題ないと
⑿ という理解を我々のほうもしております
⒀ これは国からの正式な回答となりますので
⒁ 104の道の駅に通達されてます

◆本件ツイート②(被告投稿)
「修正したみたいですね。この情報で道の駅で車中泊は出来るなんて思う人がいるは驚く。コツコツではなく国交省に、道の駅へ通達する様に抗議すれば早いのに。車中泊は命にかかわる事だと聞いてますので。」と記載した上、本件原投稿をスクリーンショットして作成した別紙投稿画像目録記載2の画像(本件画像②)を添付したツイートを投稿した
※見つからず。おそらく削除済み。

◆本件原投稿(原告ツイート)
 アカウント名を「C」とする者の投稿をリツイートした上、本文に別紙著作物目録記載2の文章を挿入して投稿した
多分これ https://twitter.com/ninnin_ninta/status/1478740717149495305?s=20&t=laFQOPVwsbcf5ibgBB4osA

◆別紙著作物目録記載2の文章(原告ツイートの内容)
「定義が無い言葉を議論した所で答えはないですよね。
【道の駅では】
・夜から朝まで寝ても良い(その為にも作られた)
・車中泊禁止は不適切
・130ヵ所の看板が撤去された
この情報で道の駅で車中泊が禁止なんだと思う人がいるは驚く
私は今まで通りコツコツと時間をかけて発見次第交渉していくのみ」

◆本件各キャプションの著作物性について → キャプションはすべて著作物ではない
 本件キャプション⑶ないし⑿は、いずれも原告と国土交通省の担当者の会話のやりとりを素材としたものであり、本件キャプション⑴、⑵、⒀及び⒁は、原告が動画の趣旨を簡潔にまとめたものであるところ、いずれもごく短いもので、ありふれた表現であるといわざるを得ないから、創作性を有するとはいい難く、著作物性は認められない。

◆本件原投稿の著作物性及び著作権の帰属について → 原投稿(いちツイート)は原告の著作物
 本件原投稿は、原告が、ドライバーの安全を守る活動を通して得られた情報と原告の思いを140文字という文字数制限の中で簡潔にまとめたものであって、幅のある表現の中から選択したものであるといえ、かつ、ありふれた表現であるとはいえないから、原告が自己の「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)として、原告が著作権を有する言語の著作物に該当する。

◆本件原投稿の著作権の侵害について → スクショツイートは著作権侵害
 前記前提事実⑶イのとおり、本件投稿者は、本件原投稿をスクリーンショットして作成した本件画像②を添付したツイートを投稿したものであって、これにより、ツイッターのサーバー上に本件画像②を複製し、不特定多数人に自動公衆送信し得る状況を作出したといえるから、原告の本件原投稿に係る複製権及び公衆送信権を侵害したと認められる。

◆引用の成否について
 仮に、本件ツイート②の目的が、本件原投稿の内容を批評する点にあると認められるとしても、本件ツイート②は、その本文よりも添付された本件画像②内に現れた本件原投稿の文章の分量が多く、ツイートの本文が主で本件原投稿の文章が従の関係にあるとはいえない。また、本件原投稿は、言語の著作物であるところ、そこに文字で記載された原告の主張内容を批評するために、本件原投稿をスクリーンショットすることによって作成した本件画像②をそのまま本件ツイート②に添付する必要性があったとまではいい難い。そうすると、本件ツイート②における本件画像②の添付は、少なくとも、本件原投稿の批評という目的上正当な範囲で行われたものとは認められない。
 よって、本件ツイート②における本件画像②の添付は、著作権法32条1項の要件を満たさず、本件ツイート②の違法性は阻却されない。

◆考察
(ツイートに創作性があることを前提として)いちツイートのスクショ拡散が著作権侵害であると認定された。
これは現状のツイッタランドで横行している行為であり、これが確定ならツイッタランドは著作権侵害だらけということに。。。
他方、ツイッターには公式のリツイート機能があるが、その機能を使うことは著作権侵害にはならないはずである。
※公式なサービスとして提供されている機能であり、ツイッターを(鍵をかけずに)利用するユーザーはリツイートされることに対して黙示的同意があるとみなされるはず。
スクショ拡散と公式リツイート、(ツイ消しされないことを前提とすれば)実質的には大差の無い行為であるのに法的な判断が分かれてもいいのか?
特に、本件原投稿はツイ消しされていないので、いつでもリツイートできる状態である。
にも関わらず、スクショツイートは著作権侵害となることに法的な合理性はあるのか?
また、本件原稿等(原告ツイート)に創作性があるという判断についても疑問がある。本件キャプションとの間に差があるとは思えない。
両者の間に創作性の判断ラインが引かれているということであり、境界事例ということになる。

2.令和4(ワ)14375 発信者情報開示請求事件

◆概要:道の駅に関する情報を発信するYoutuber原告が、原告のツイートやプロフ欄をスクショした画像のツイートについて発信者情報開示を求めた。創作性はあるが引用に該当するとして退けられた。

◆原告ツイート
文には、「私の謎/休憩・仮眠・宿泊目的について国交省は 7,8 時間寝てもそれは休憩、夜から朝まで寝ても仮眠と見解。/活動反対派は、その行為をしたら宿泊目的で車中泊はダメ!日本語や常識でわかる。国交省の Q&A に記載されている!/えっと、だからその行為や Q&A の見解を国交省は休憩仮眠と言っているのだが」(「/」は改行部分を示す。以下同じ。)と記載されている。
多分これ https://twitter.com/ninnin_ninta/status/1479975897998716932?s=20&t=y11KV7gA0osAwLuZMuRhEg

◆本件ツイート
 本文に「国交省担当者が 7、8 時間寝ても良いと言ったのはあくまで「仮眠」ならばという前提で話をしてたでしょ?/貴方の支持者の D さんが国交省に確認した結果、宿泊と受け取れる車中泊は一泊でもご遠慮と回答を貰ってます/宿泊目的の車中泊はご遠慮で結果は出てますので間違った情報は流さないように」との記載があると共に、原告ツイートの本文全文、原告のプロフィール画像、原告のアカウント名の一部が省略された「B…」の記載等が表示されたスクリーンショット(以下「本件添付画像」という。)が添付されている。
多分これ https://twitter.com/p51RAdxJY2Ipbul/status/1501398430601515008?s=20&t=y11KV7gA0osAwLuZMuRhEg

◆本件規定
 「ユーザーは、本サービスまたは本サービス上のコンテンツの複製、修正、これに基づいた二次的著作物の作成、配信、販売、移転、公の展示、公の実演、送信、または他の形での使用を望む場合には、Twitter サービス、本規約または https://(以下省略)に定める条件により認められる場合を除いて、当社が提供するインターフェースおよび手順を使用しなければなりません。」との規定(以下「本件規定」という。)がある。

◆著作物製の有無
 原告ツイートは、車中泊につき原告が得たとする国土交通省の見解及び原告の活動に批判的な者の原告に対する意見を示した上で、この批判的意見に対する原告の見解を示したものである。これらの内容が 1 ツイート当たり 140 文字という文字数制限内に収まるように、原告は、独特の言い回し等を選択して表現したものといえる。このことに鑑みると、原告ツイートは、原告の思想又は感情を創作的に表現したものといってよく、言語の著作物(著作権法 10 条 1 号)に該当する。

◆引用としての適法性
 本件添付画像部分は、本件ツイートの形式上、本文部分と客観的に明瞭に区別して認識し得る態様で利用されている。また、本件ツイートの内容から、本件投稿者は、国土交通省の見解に関する原告ツイートにおける要約が誤りないし不正確であることを指摘することなどを意図して本件ツイートをしたものと理解されるところ、本件添付画像は、指摘対象である原告ツイートの内容を正確に摘示することを目的として添付されたものと見られる。
 これらの事情を踏まえると、本件ツイートにおける本件添付画像の添付という形での原告ツイートの引用は、本件投稿者が本件ツイートによって自らの思想又は感情を表現するにあたって必要かつ合理的な範囲内で行われたものといえる。また、本件添付画像の添付という方法についても、ツイッター上では、他のツイートを引用しつつ自身のツイートを投稿する方法として、引用リツイート機能がツイッター社により提供されているものの、他のツイートのスクリーンショットを自己のツイートに画像として添付して投稿することで他のツイートを引用することも多くの利用者によって行われていること、にもかかわらず、このような利用態様がツイッター社により削除その他の方法で具体的に規制されていることをうかがわせる事情はないこと(弁論の全趣旨)に鑑みると、なお公正な慣行に合致する範囲内にあるといえる。

◆スクショ拡散が規約違反、ブロックしているからリツイートも不可能だという主張に対して
 本件規定との関係については、そもそも、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が本件規定その他の規約違反に該当するか否かは必ずしも明確でない。また、そのような利用態様が規約違反としてツイッター社により削除等規制されているという実態もうかがわれない。こうした事情に鑑みると、スクリーンショットの添付という引用の方法につき、運営者が提供する引用リツイート機能によらないことをもって直ちに公正な慣行に合致しないとするのは相当でない。
 ツイッター上で提供されているブロック機能は、ブロック対象のアカウントがツイッターにログインした状態でのみ、ブロックした者のツイートを閲覧できなくするなどの効果をもたらすものに過ぎず、例えばブロック対象者がツイッターにログインせずに、又はブロックされたのとは異なるアカウントでコンテンツにアクセスした場合、ブロックした者の公開ツイートを閲覧することはなお可能である。このため、原告がツイッター上で本件投稿者のアカウントをブロックしていたことを踏まえても、本件ツイートによる原告ツイートの引用をもって、公正な慣行に合致しないとまでは必ずしもいえない。

◆考察
1件目とは逆に引用が認められた。
アウトとなった(引用が認定されなかった)投稿の本文は、

「修正したみたいですね。この情報で道の駅で車中泊は出来るなんて思う人がいるは驚く。コツコツではなく国交省に、道の駅へ通達する様に抗議すれば早いのに。車中泊は命にかかわる事だと聞いてますので。」(96文字)

であるのに対して、引用したツイートの内容は

定義が無い言葉を議論した所で答えはないですよね。 【道の駅では】 ・夜から朝まで寝ても良い(その為にも作られた) ・車中泊禁止は不適切 ・130ヵ所の看板が撤去された 私が訴えている事は単純ですよ。 「ルールを守ろう」 今まで通りコツコツと時間をかけて不適切な看板があれば交渉していくのみ。(136文字、本文より40文字多い)

他方、セーフとなった(引用が認定された)投稿の本文は、

国交省担当者が7、8時間寝ても良いと言ったのはあくまで「仮眠」ならばという前提で話をしてたでしょ?

貴方の支持者のイルカさんが国交省に確認した結果、宿泊と受け取れる車中泊は一泊でもご遠慮と回答を貰ってます

宿泊目的の車中泊はご遠慮で結果は出てますので間違った情報は流さないように(137文字)

であるのに対して、引用したツイートの内容は

私の謎

休憩・仮眠・宿泊目的について国交省は7,8時間寝てもそれは休憩、夜から朝まで寝ても仮眠と見解。
活動反対派は、その行為をしたら宿泊目的で車中泊はダメ!日本語や常識でわかる。国交省のQ&Aに記載されている!

えっと、だからその行為やQ&Aの見解を国交省は休憩仮眠と言っているのだが(140文字、本文より3文字多い)

で、文字数の差は異なるが、引用した文章の方が文字数が多いという事実は同様。

アウトとなった投稿においても、批評的な意図は否定されておらず、両判断が矛盾しないという前提において検討すれば、文字数に差がありすぎてはいけないという程度の差しかない。

また、リツイート機能によらないスクショ拡散についても1件目とは真逆の判断と言える。

尚、両事件の判事は異なる。。。

3.令和2(ワ)12348 損害賠償請求事件

◆概要:自社に関する記事を画像として保存し、自社のイントラネットにおいて社員が閲覧できるようにした被告鉄道会社(首都圏新都市鉄道株式会社)に対して記事の作成元である原告新聞社(株式会社日本経済新聞社)が損害賠償請求を求めた。事実の伝達の範囲を超え、原告の思想や感情が現れているとして認められた。

◆本件各記事の概要
 本件各記事は、TX の開業直後である平成 17 年 8 月 27 日から平成 31 年 4月 16 日までの間の新聞記事であるところ(このうち、別紙一覧表の「甲 30の番号」欄の 1 番~516 番に対応する「新聞記事タイトル」欄記載のタイトルがそれぞれ付された 517 件の記事(なお、同 506 番の記事には、「TX 開業から 12 年、車両老朽化対策急ぐ、車体更新場を稼働、乗客増の対応も課題に(北関東フォーカス)」及び「TX 開業から 12 年、車両老朽化対策急ぐ―社長「新施設で長期運用支える」(北関東フォーカス)」の 2 件の記事が含まれる。)を併せて「平成 30 年 3 月以前の記事」といい、同別紙の「番号」欄の2004 番~2315 番に対応する「新聞記事タイトル」欄記載のタイトルが付された 312 件の記事を併せて「平成 30 年 4 月以降の記事」という。)、これらは、いずれも原告従業員である記者が作成して本件新聞に掲載された記事である(甲 6、24、30、乙 5)。

◆被告の行為
◇平成 17 年から平成 24 年 6 月まで
 新聞紙から記事を切り抜き、これを A4 用紙に貼り付け、その A4 用紙に、「新聞社名」、「新聞発行日付」等を記載する。

◇平成 24 年 7 月以降
 表紙に、「日付」、「新聞掲載記事」(タイトル)、「発行部署」等の「枠」を付した上で、「新聞社名」、「新聞発行日付」等を記載する(以下、この「枠」の付された記事を「枠付き記事」という。)。
 この「枠」は、被告が被告イントラネットに掲載する際に周知しやすくすることを目的として付したものである。被告が保管する本件新聞に係る記事のうち、「枠」を付す運用が行われた平成 24 年度から平成 29年度までの間のものは 114 件であるが、そのうち 107 件が枠付き記事であり、その余は表紙の存否が不明である(乙 7)。

◇平成 30 年 4 月以降の記事の使用等
 被告は、本件各記事のうち平成 30 年 4 月以降の記事 312 件を、それぞれ、別紙一覧表記載の「被告イントラネット掲載日」欄記載の日に被告イントラネット上の掲示板にアップロードし、被告従業員等が閲覧できる状態にした(甲 6、9、24)。

◆被告イントラネットの概要
 被告イントラネットは、被告の事実上の本店、駅舎事務所その他の事務所をネットワークで接続するネットワークシステムである。
 被告イントラネットの掲示板にアクセスするには被告が割り当てたアカウントにログインする必要があることから、割り当てられたアカウント数が掲示板にアクセス可能な数となる。被告の役職員(被告従業員等)の人数は、TX が開業した平成 17 年 8 月当時で 500 名程度、平成 31 年 4 月当時で 700 名程度であったところ、割り当てられたアカウントの総数は、平成 17 年 8 月当時で合計 249 アカウント、平成 30 年 4 月当時で合計 574 アカウント、平成 31 年 4 月当時で合計 728 アカウントであった(甲 5、6)。

◆裁判所による記事使用の認定
 被告は、平成 17 年 8 月 27 日~平成 31 年 4 月 16 日の間に、別紙一覧表のとおり、平成 30 年 3 月以前の記事及び同年 4 月以降の記事の合計 829 件の本件各記事の画像データを作成し、記録媒体に保存した上、これらを被告イントラネットにアップロードし、被告従業員等が閲覧できる状態に置いたことが認められる(以下では、「本件各記事」とはこの 829 件を指すこととする。)。

◆記事の著作物性
 本件各記事は、いずれも、担当記者が、その取材結果に基づき、記事内容を分かりやすく要約したタイトルを付し、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係を端的に記述すると共に、関連する事項として盛り込むべき事項の選択、記事の展開の仕方、文章表現の方法等についても、各記者の表現上の工夫を凝らして作成したものであることがうかがわれる。したがって、本件各記事は、いずれも「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」すなわち著作物(法 2 条 1 項 1 号)と認められるのであって、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」(法 10 条 2 項)には当たらない。

◆故意過失の認定(事実の伝達にすぎないと思っていた)
 著作物に係る創作性につき前記のとおり解すると、事実の伝達等を内容とする新聞記事であっても著作物といえる場合が広く存在し得るものと考えられる。
 遅くとも本件の請求対象期間の始期頃において既に原告が本件料金表 1 に基づき使用料を収受する運用を行っていたことも、これを前提とするものと理解される。そうすると、被告又は被告担当者においても、少なくとも、新聞社がその発行する新聞記事の著作権を有しており、その使用にあたっては当該新聞社の許諾を得る必要がある(又はそのような場合が少なからずある)といった一般的な知識を有していなかったとは考え難い。また、被告が本件各記事の著作権やその使用の許否につき、法的な観点から調査検討したことをうかがわせる具体的な事情は見当たらない

※考察は次の事例と合わせて

4.令和2(ワ)3931 損害賠償請求事件

◆概要:自社に関する記事を画像として保存し、自社のイントラネットにおいて社員が閲覧できるようにした被告鉄道会社(首都圏新都市鉄道株式会社)に対して記事の作成元である原告新聞社(株式会社中日新聞社)が損害賠償請求を求めた。事実の伝達の範囲を超え、原告の思想や感情が現れているとして認められた。

◆被告の行為
 被告は、平成17年9月頃から平成31年4月16日までの間、原告の許諾を受けることなく、原告が発行する新聞に掲載された記事のうちの一部の記事を切り抜く(クリッピング)などした上で、それをスキャンして記事の画像データを作成し、これを社内イントラネット(以下「本件イントラネット」という。)の掲示板のための記録媒体に記録して、本件イントラネットに掲載した。
 被告には4つの駅務管理所と1つの乗務管理所が設置されており、本件イントラネットはこれらの事務所やその内部をネットワークで接続するシステムである。被告には、平成17年8月に533名の従業員・役員が在籍し、その後、基本的に毎年人員が増加し、令和元年には728人の従業員・役員が在籍していた。被告は、平成17年には、4つの駅務管理所に1つずつのアカウントを設定し、乗務管理所には7つのアカウントを設定し、平成27年までに、合計39台が、令和元年までには57台がイントラネットにアクセス可能なパソコンとして設置されていた(なお、平成30年から従業員1人ずつにアカウントを付与する方式とした。)。出向者、育児休暇中の者などを除くほとんどの被告社員・役員は、上記のアカウントとパソコンを利用してイントラネットにアクセスして、掲載されていた新聞記事を閲覧することができた(以下、被告が、本件イントラネットの掲示板のための記録媒体に記録して本件イントラネットに掲載し、被告社員、役員が閲覧できるようになった原告が発行する新聞の記事を「本件イントラネット掲載記事」ということがある。)(甲9、10、乙3、4、弁論の全趣旨)
 被告は、平成30年4月1日から平成31年3月31日までの間に本件イントラネットに原告が発行した新聞の複数の記事を掲載し、その記事の中には、別紙平成30年度掲載記事目録記載の記事133本(以下、同目録の番号に従って、「記事1」などといい、これらの記事を総称して「平成30年度掲載記事」という。)がある。
 平成30年3月以前の本件イントラネット掲載記事の数やその内容について、これを直接裏付ける証拠の提出はない。

◆記事の著作物性について
 平成30年度掲載記事は、事故に関する記事や、新しい機器やシステムの導入、物品販売、施策の紹介、イベントや企画の紹介、事業等に関する計画、駅の名称、列車接近メロディー、制服の変更等の出来事に関する記事である。そのうち、事故に関する記事については、相当量の情報について、読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されるなどされており、表現上の工夫がされている。また、それ以外の記事については、いずれも、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせたり、関係者のインタビューや供述等を、適宜、取捨選択したり要約するなどの表現上の工夫をして記事を作成している。したがって、平成30年度掲載記事は、いずれも創作的な表現であり、著作物であると認められる。

 被告がこれらの記事を切り抜くなどした上で、その画像データを作成し、本件イントラネットによる送信用の記録媒体に記録して本件イントラネットに掲載したことは、本件イントラネットが接続されてこれを閲覧できた者等に照らせば、これらの記事に対して有する原告の複製権及び公衆送信権を侵害したと認められる。

◆(2件まとめて)考察
 自社に関する新聞記事を従業員に回覧することは広く行われていると思われるが、画像として保存して共有する場合には、単なる事実の伝達なのか、記者の思想が表現された記事なのか、それらの記事が有料で提供されているものか、に注意する必要がある。
 記者の思想、批評、感想等が入っていなかったとしても、記事の順番などに創作性が認められている点も注意が必要。
 現実的には、新聞社が提供している別契約にて、画像での社内共有の許諾を受けることになる模様。

5.令和3(ワ)24148 損害賠償請求事件

◆概要:Youtub動画をキャプチャした静止画を並べて紹介するまとめサイト(チラ裏)が使用した動画のYoutuber(令和の虎チャンネル)から訴えられた。引用、時事報道、権利濫用で争ったがいずれも認められず侵害認定された。また、発信者情報開示にかかった費用の一部が損害として認定された。

◆原告の背景
 原告は、学習塾等の経営、インターネットによる情報サービス業等を業とする株式会社であり、動画投稿サイト「YouTube」に「令和の虎 CHANNEL」と題するチャンネル(以下「原告チャンネル」という。)を開設して動画を配信している。
 本件各動画は、いずれも、「志願者」と呼ばれる一般企業家が「虎」と呼ばれる 5 人の投資家に対して事業計画のプレゼンテーションを行い、質疑応答等を経て、最終的に上記投資家らが出資の可否を決定することを基本構成とする約 45 分前後の動画であり、原告チャンネルで配信されている(甲 2)

◆被告の行為
 被告は、本件各記事のそれぞれにおいて、対応する本件各動画からキャプチャした静止画(以下、「本件静止画」と総称する。)30 枚~60 枚程度を時系列に沿って貼り付け、これを別紙投稿記事目録記載の「投稿日時(タイムスタンプ)」欄記載の日時から令和 2 年 5 月 11 日までの間、本件ブログ上に投稿した。

◆引用について
 本件各記事は、いずれも、キャプチャした静止画を使用して本件各動画の内容を紹介しつつそれを批評する面を有するものではある。しかし、本件各記事においてそれぞれ使用されている静止画の数は約30 枚~60 枚程度という多数に上り、量的に本件各記事のそれぞれにおいて最も多くの割合を占める。また、本件各記事は、いずれも、静止画と要約等とが相まって、45 分程度という本件各動画それぞれの内容全体の概略を記事の閲覧者が把握し得る構成となっているのに対し、本件各記事の最後に記載された投稿者の感想は概括的なものにとどまる
 以上の事情を総合的に考慮すると、本件各記事における本件各動画の利用は、引用の目的との関係で社会通念上必要とみられる範囲を超えるものであり、正当な範囲内で行われたものとはいえない。

◆時事報道の抗弁について
 本件各動画は、その内容に鑑みると、一般企業家が投資家に対して事業計画のプレゼンテーションを行い、質疑応答等を経て、最終的に投資家が出資の可否を決定するプロセス等をエンタテインメントとして視聴に供する企画として制作されたものというべきであって、それ自体、「時事の事件」すなわち現時又は近時に生起した出来事を内容とするものではない。本件各記事は、前記認定のとおり、このような本件各動画の内容全体の概略を把握し得るものであると共に、これを視聴した被告の概括的な感想をブログで披歴したものに過ぎず、その投稿をもって「報道」ということもできない

◆権利濫用の抗弁について
 被告は、原告が「切り抜き動画」制作者による本件各動画の拡散を積極的に利用して原告チャンネルの登録者数の増加を図り、実際にその恩恵を享受しているにも関わらず、被告に対して本件各動画の著作権を行使することは権利の濫用に当たる旨を主張する。
 原告が利用する「切り抜き動画」とは、原告が、特定のウェブサイトで提供されるサービスを通じて、原告チャンネル上の動画をより個性的に編集して自己のチャンネルに投稿することを希望するクリエイターに対し、その収益を原告に分配すること等を条件に、当該動画の利用を許諾し、その許諾のもとに、クリエイターにおいて編集が行われた動画であると認められる。他方、弁論の全趣旨によれば、被告は、本件各動画の利用につき、原告の許諾を何ら受けていないことが認められる。
 そうすると、原告が「切り抜き動画」の恩恵を受けているからといって、被告に対する本件各動画に係る原告の著作権行使をもって権利の濫用に当たるなどと評価することはできない

◆発信者情報開示手続費用、弁護士費用の認定
 原告は、弁護士費用を含め発信者情報開示手続に係る費用として 167 万 4405 円を要したが、発信者情報開示手続の性質・内容等を考慮すると、このうち 20 万円をもって被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

◆考察
 原則として複製権侵害であることに疑いの余地はない。
 が、もし画像の枚数等を基準に「許されるライン」があるのであれば知りたい。
 放送の告知等で一場面のキャプチャが使用されることはあるが、それらの全てについて法的に許諾が必要だとするならば、むしろ権利がコンテンツ流通の枷になっているとも言える。

6.令和4(ワ)12062 損害賠償請求事件

◆概要:ファスト映画訴訟

◆被告の行為
 被告ら及び C は、共謀して、本件各映画作品をそれぞれ編集して、約 2 時間の作品全体の内容を把握し得るように 10~15 分程度の動画(以下「本件各動画」という。)を作成し、もって原告らが本件各映画作品につきそれぞれ有する著作権(翻案権)を侵害した上、本件各動画を別紙侵害行為一覧の「投稿日」欄記載の日に同別紙「タイトル」欄記載のタイトル及び「URL」欄記載の URL により YouTubeに投稿し、もって原告らが本件各映画作品につきそれぞれ有する著作権(公衆送信権)を侵害した。

◆被告は争わず

◆損害額の認定
 YouTube における本件各映画作品の各レンタル価格(HD 画質のもの)は、1 作品当たり 400~500 円程度であり、400 円を下らないこと、うち 30%が YouTubeに対するプラットフォーム手数料に充当されること、本件各動画は、それぞれ、約2 時間の本件各映画作品を 10~15 分程度に編集したものであるものの、本件各映画作品全体の内容を把握し得るように編集されたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。これらの事情を総合的に考慮すると、被告らが本件侵害行為によって得た広告収益が 700 万円程度であること(当事者間に争いがない)を併せ考慮しても、「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(法 114 条 3項)は、原告らの主張のとおり、本件各動画の再生数 1 回当たり 200 円とするのが相当である。

◆考察
 上記と同様、許されるラインがあるのであれば知りたい。
 意味合い的には「ネタバレ禁止」的なものにも通じる。
 そのファスト動画やまとめを見た者が「その映画を見たい。そのコンテンツを見たい」と思えるものであれば、権利者にとっても有意義なものであり、その可否が権利者の胸先三寸で決まるというのは法として妥当性を欠くように思う。
 著作権法の目的は権利者の利益や感情を守ることではなく、文化の発展である。

7.令和4(ネ)10019 発信者情報開示請求控訴事件
 (原審:令和2(ワ)24492)

◆概要:原告イラストレーターのイラストがトレスであることを指摘するため、被告が原告のイラスト画像を含むツイートを行い、原告が著作権侵害を理由に提訴した。一審では原告の主張が全面的に認められたが、二審では引用に該当し、同一性保持権侵害にも当たらないとして逆転した。

この件

◆本件ツイート1-1
これどうだろうww
ゆるーくトレス? 普通にオリジナルで描いてもここまで比
率が同じになるかな

◆本件ツイート1-2
この鏡餅も画像検索ですぐ出てきた。
トレス常習犯ですわ。
Bさん

アーカイブ https://archive.md/0U8Ss

◆一審での判断
・トレスではない(被告が出した証拠によれば、自力で描いている)
・トレスという事実を摘示しているのみで第三者の権利侵害の可能性を指摘していないから、単に社会的評価を低下させるものでしかない。
・トレスではないと思われるから違法性阻却事由もない。
として却下。
→トレスを指摘した者(本件の被告、控訴人)の全面的な負け

◆トレスの定義
 「トレース」(本件投稿者1は「トレス」と表現している。)は、本件投稿者1が、トレース元とされる乙1の2イラストと、トレースして作成されたとする本件被控訴人イラスト1を重ね合わせて表示することでトレースの有無を検証しようとしていることに照らすと、イラスト作成用のアプリケーションを利用するなどして、元となるイラストや写真を表示し、その輪郭をなぞるなどの直接的に写し取る方法によりイラストを作成することを指すと認めるのが相当であり、本件ツイート1-2においても同じである。

◆社会的評価の低下について
 トレース行為は「複製」に該当するものではあるが、それ自体が直ちに著作権法違反を意味するものではなく、イラストの作成過程において他者の作品のトレース行為がされたことを指摘することが、必ずしもトレースをした者の社会的評価を低下させるとまでいうことはできないものの、本件においては、被控訴人が、自身の作成したイラストを販売するプロのイラストレーターとして活動していたことを踏まえると、本件ツイート1-1の内容は、イラストレーターである被控訴人が、他人のイラストをトレースして作成したものを自らの作品として公表するという著作権法上問題となり得る行為をしていたことを意味し、作品の購入者をして、そのようなイラストレーターから作品を購入することを躊躇させるに足る事実であるから、本件投稿者1が本件ツイート1-1を投稿して上記事実を摘示することにより、被控訴人のイラストレーターとしての社会的評価が低下したものと認められる。

◆公益性について
 本件ツイート1-1は、被控訴人が、他人の著作物をトレースして作成したイラストを自己の作品として公表していることを指摘するものであって、著作権法上の問題がある可能性をうかがわせる内容であり、この指摘は、被控訴人がプロのイラストレーターであることに照らすと、被控訴人作成のイラストを購入しようとする需要者にとって重要な情報であるから、本件ツイート1-1を投稿する行為は、公共の利害に関する事実に係るもので、その目的が専ら公益を図ることにあるということができる。

◆真実性について
 本件被控訴人イラスト1のベースになったと被控訴人が主張する甲29・1 頁のイラストと乙1の2イラストを比較すると(乙54)、その構図が類似しており、横顔の輪郭部分は額から頚部に至るまでほぼ一致し、首の角度や耳の位置もほぼ一致していることが認められる。そうすると、その関係は、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストとにおいても同様と認められるところ、これらの全てが偶然一致したものとは考え難い
 ・・・再現動画において、被控訴人が、本件被控訴人イラスト1の作成過程を再現しようとしたものと推察されるにもかかわらず、上記のとおりの差異が生じたということになり、再現動画を考慮しても、被控訴人が作成した本件被控訴人イラスト1の女性の横顔の輪郭部分や首の角度及び耳の位置が、偶然、乙1の2イラストと一致することは困難であると認めるのが相当である。
(※自力でかけることを証明するための再現動画を証拠として提出したが、ぴったり一致はしなかった。提出した証拠が自分に不利になってしまった。)

◆引用について
 本件ツイート1-1をみると、前記(2)のとおり、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像2枚とともに、「これどうだろう ww」「ゆるーくトレス? 普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」との文言が投稿されており、これは、被控訴人作成の本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストをトレースして作成されたものである旨を主張するものであって、本件被控訴人イラスト1を検証し、批評しようとするものであると認められるから、本件投稿者1が本件被控訴人イラスト1を用いた目的は、批評にあるといえる
 ・・・本件ツイート1-1の一般の読者にとって、本件ツイート1-1における被控訴人のイラストの利用態様は、記事の内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができるものであるということができる。
 そして、上記利用態様からすると、本件ツイート1-1において、被控訴人が作成したイラストが、独立した鑑賞目的等で利用されているというような事情はなく、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを比較検証する目的を超えて利用がされているとはいえない
 ・・・第三者が著作権を有するイラストや写真をトレースすることにより、イラスト等を作成した可能性がある旨の事実を主張する場合に、記事中に、①問題となるイラスト等とトレース元と考えられるイラスト等を、比較するためにそのまま又は比較に必要な部分において示すことや、②2枚のイラストを重ね合わせて示すことは広く行われていることであり、また、前記(イ)のとおり、このように示すことは、本件ツイート1-1の一般の読者にとって記事の内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができる手法であるということができる。

◆同一性保持権侵害について
 著作物がイラストであって重ね合わせて用いることで、引用の目的である批評のために便宜でありかつ客観性が担保できることに加え、その利用の目的及び態様に照らすと、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たるといえる
(※リツイートでトリミング表示されるから同一性保持権侵害という判例に対するカウンター?)
 ツイッターのタイムライン上の表示は、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様により決定されるものであって、投稿者が自由に設定できるものではなく、投稿者自身も投稿時点では、どのような表示がされるか認識し得ないこと、投稿後も、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様が変更されると、タイムライン上の表示が変更されること、ツイートに添付された画像データ自体は当該ツイートを閲覧したユーザーの端末にダウンロードされており、タイムライン上の画像をクリックすると、画像の全体が表示されることが認められることに照らすと、投稿者が改変主体に当たるかという点を措くとしても、タイムライン上の表示が画像の一部のみとなることは、ツイッターを利用するに当たり「やむを得ないと認められる改変」に当たるというべきである。

※ツイート1-2についても同様の判断

◆考察
 リツイートによるクリップが同一性保持権侵害とされた知財高裁判決(平成28(ネ)10101)が否定された形になった。尚、同事件については、上告の際に同一性保持権について上告理由から排除されており、最終的に氏名表示権のみが認められている。上告棄却でもなく、最高裁で審理されたわけでもなく、リツイートによるクロップが同一性保持権侵害になるか否かは宙に浮いていた状態だが、本件が確定すれば一応決着ということになるだろうか。
 本件の判断は、トレス(?)の指摘において、その指摘のために画像を転載することが著作権侵害になるか、その違法性が阻却されるか、というものであり、その観点において引用や同一性保持権(重ね合わせ)についての最終的な判断に対する異論はない。
 が、そもそものトレスの指摘に関する現状には疑問があり、はっきり言って言い過ぎだと感じる。
 特に、商標目的ではなく個人的にSNSに投稿して公開するためのイラスト、練習用に既存のモチーフを模写したイラストに対して「トレス」を指摘することにどんな公益性があるのだろうか。投稿に対して「いいね」やリツイートが集まっていることに対する妬み嫉みが原因であり、公益を目的としたものではないことは明らかであり、仮に指摘する側が正義感に基づいて行動していたとしても、それは社会にとって害悪な「余計なお世話」である。
 所謂トレスによって複製されるのは、一次的には、ポーズ、構図、アングル、画角と言った部分であるが、いずれも単独で創作性を発揮するのは容易ではない要素である。
 少なくとも、ポーズ、構図、アングル、画角の類似を持ってトレスを指摘するのであれば、「表現の自由」の敵と言わざるをえない。
 本件原告は著作権侵害などという旗弁ではなく、あの行為を「トレスだ!」として批判されたことに対する名誉毀損で争うべきだったのではないか。
 実際、高裁判事は原告の社会的評価が低下したことを認定しており、黙示的に「名誉毀損でやれ」と示唆しているように感じる。

8.令和3(ワ)21405 著作権侵害差止等請求事件

◆概要:「Flickr」にアップロードされCCライセンスで提供されていた写真を、自身が運営するウェブサイトでCCライセンス違反(氏名表示違反)で利用した被告に対して、写真の著作者であり著作権者である原告が提訴した。被告は外注先の行為で故意過失が無い等と争ったが、損害賠償請求が認められた。

◆本件写真
 本件写真は、黄色、茶色、橙色等の花が全体的に描かれた薄黄緑色の浴衣の上に無地の深い青紫色の帯を重ねて撮影したものであり、被写体の選択、レンズ・カメラの選択、アングル、シャッターチャンス、シャッタースピード・絞りの選択、ライティング、構図・トリミング等により、原告の「思想又は感情を創作的に表現」(著作権法2条1項1号)しており、写真の著作物に該当する。原告は、本件写真の著作者であり、著作権者である(甲6)。なお、我が国及びBは、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約に加盟しているため、本件写真は、同条約3条(2)及び著作権法6条3号の規定により、我が国の著作権法による保護を受ける。

◆原告の背景
 原告は、「Flickr」(以下「本件写真共有サイト」という。)にて本件写真を投稿し、公開するとともに、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(作品を公開する著作者が条件付きで作品の再使用を許可するに当たって容易にその意思を表示できるようにクリエイティブ・コモンズが策定した条件付使用許諾の類型。以下「CCライセンス」という。)を付与し、著作者の表示等を条件に本件写真の複製等による使用を許諾している

◆被告の行為
 本件画像は、被告が管理運営するウェブサイト「C」(https://以下省略、以下「本件被告サイト」という。)において、平成29年11月4日から令5 和3年1月7日までの間、掲載されたが、本件被告サイトにおいて、本件写真の著作者が原告である旨の表示はされなかった(甲3)。
 被告は、令和3年1月8日、原告から、本件画像を直ちに削除すること等を求める内容の同月7日付「警告書」を受領し、同日頃、本件画像を削除した。

◆侵害について
 被告は、前記前提事実⑶の原告が付与した使用許諾条件に違反して本件写真を複製及び送信可能化し、かつ、原告の実名又は変名を著作者として表示することなく本件写真を公衆に提供又は提示したといえ、原告の本件写真に係る複製権及び自動公衆送信権並びに氏名表示権を侵害したといえる。

◆外注先の責任について
 ウェブサイトの制作の依頼を受けた業者が、依頼者に何らの確認をとることなく、完成したウェブサイトに係るデータや素材等をサーバー内に蔵置して納品することは通常考え難いというべきであり、本件全証拠によっても被告の主張するような経緯(※一切確認していない)を認めることはできない。仮に被告の主張する経緯が認められるとしても、被告は、本件被告サイトが開設されて以降、同サイトを管理運営していたこと、前記(1)のとおり、同サイトは被告が運営する着物及び浴衣買取ウェブサイトへの送客のために作成されたものであって、本件写真を使用することによる最終的な利益帰属主体は被告であることからすると、被告自らが本件画像をアップロードしたと同視できる。したがって、被告の上記主張は採用することができない。

◆考察
 我々からすれば教科書通りの判断であるが、ネットで拾った画像がなんでもかんでもフリー素材であると考えている層は未だに一定数存在するし、使用条件をちゃんと理解していないことも多い。(いらすと屋はその最たる例か)
 また、いくら契約で外注先に権利に関する義務を課したとしても、自らの名で公表するコンテンツに関しての社会的な責任は消えるものではない。
 アウトソーシングにおいてはゴミのような依頼料で仕事のクオリティから社会的な責任まで何もかも要求する、いわゆる「乞客(こきゃく)」は一定割合で存在するが、そのような乞客が、明らかに公平性を欠いた外注契約を盾にして故意過失無しと認定されるとしたら、それは法的な欠陥としか言いようがないだろう。

9.令和3(ネ)10017 共同著作権に基づく利得分配請求等控訴事件
(原審:平成30(ワ)37847)

◆概要:ボイスドラマの制作にて声優のキャスティングや収録、編集を依頼に基づいて行った原告が、制作の発案者である被告に対して、自身は共同著作権者であることの確認及び利益の配分を求めて争った。一審ではすべての請求が退けられ、二審では作業の対価の不足分についての請求が認められたが共同著作権は認められなかった。

◆一審
 原告は,「C」という名前で,別紙作品目録記載の各ボイスドラマ(以下「本件各作品」という。)の音声編集,効果音の収録等を担当した。
 被告A(以下「被告A」という。)は,本件各作品のシナリオを創作した者である。被告B(以下「被告B」という。)は,被告Aの夫である。
 原告は,本件各作品の制作を企図した被告Aから,制作への協力を依頼され,台詞を読み上げる声優の候補者を数人紹介し,被告Aが制作したシナリオや指示に沿う形で,効果音の収録や編集の作業を担当したにとどまっているものであり,これらの原告の関与の性質・内容に照らせば,ボイスドラマであるという本件各作品の性質に照らしてもなお,原告が,本件各作品の制作に際し,創作行為を行ったものとみることは困難というほかない。
◇被告の反論に対して
①声優を選択した点,
 →声優の候補者を紹介したにとどまるもの
②セリフや表現方法につきアドバイスをした点,
 →具体的内容は判然としないが,いずれにしてもアドバイスをしたにとどまるもの
③効果音を選択・収録した点,
④全体の長さを一定時間内におさめるよう編集した点
 →具体的な作業を担当したとしても,上記のとおり,被告Aが制作したシナリオや指示に沿う形で作業を行い,被告Aのチェックを受けていたもの
◇未払いの対価について
 被告Aから原告に対し現に支払われた額が,本件当時において双方が認識していた対価の相場から乖離したものではなかったことが推認される。そうである以上,上記相当額は,現に,被告Aから原告に支払われた額を超えるものではない

◆概要:被控訴人Y1に対する報酬請求は18万9680円及びこれに対する平成31年1月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

◆著作者生に関する追加の判断
 控訴人は自ら考え、自らの判断に基づいて効果音の収録、編集の作業等を行ったのであるから、控訴人は創作と評価されるに足りる程度の精神的活動をしたと主張する。
 ・・・被控訴人Y1は、控訴人に対して、シナリオ等における付記により、又は口頭により、効果音を収録するよう具体的に指示していたものであるし、編集の作業についても、控訴人は、被控訴人Y1の指示に従ってこれを行ったものであるところ、本件各作品の完成の最終的な判断については、被控訴人Y1においてこれを行っていたのであるから、仮に、控訴人が従事した個々の作業の中で、控訴人の判断に基づいて収録すべき効果音を選定したり、修正すべき音声を修正したりすることなどがあったとしても、これらの行為をもって、創作と評価されるに足りる程度の精神的活動であると認めることはできない。

◆報酬額について
 ちゃんとした契約なく、なんなら口約束すらなく依頼者が一方的に支払う金額が作品が重なるにつれて目減りしていった事が妥当では無いとされた。最初の作品の分数と報酬額に基づいて後続の作品について妥当な報酬額が認定された。
 本件制作契約に基づく本件各作品(本件作品1ないし4、6、7、9ないし11)の制作に係る報酬合計額(元本)は、30万5000円となる。

◆考察
 創作(的)行為が積み重なって一つの作品が完成する場合(アニメ等に顕著)の創作的行為であるか否かの判断について参考になる判例。
 映画の著作物においては「映画製作者」や「著作者」が特別に条文で定められているが、その趣旨は「多くのクリエイターが参加する上で、権利の交通整理がされなければ創作物の利用に支障がある」ということであり、有名な宇宙戦艦ヤマト裁判でも同様の争点が議論されている。本件、特に二審における判断は、ヤマト裁判における判旨とも合致し、判例の蓄積として有意義なものである。

10.令和1(ワ)26366 著作権侵害差止等請求事件

◆概要
 広告物のポスティング業務や住宅購入相談業務を行う被告有限会社が、ゼンリン地図を元に自己の業務に必要な情報を加えて業務用の地図原図を作成し、その地図原図を複写して従業員やフランチャイジーに配布していた行為について、ご存知ゼンリンが差止&損害賠償を求めて認められた。被告は様々な論点(著作物性、複製該当性、故意過失の有無、默示許諾、商習慣、30条の4、零細的利用等)で反論したが、すべて否定されている。

◆被告の行為
 被告らは、各家庭に広告物を配布するポスティング業務を行うために、ゼンリン住宅地図を含む住宅地図を購入し、これを適宜縮小して複写し、配布員がポスティングを行う領域である配布エリアごとに、複写した複数枚を切り貼りした上、集合住宅名、ポストの数、配布数、交差点名、道路の状況、配布禁止宅等のポスティング業務に必要な情報を書き込むなどした地図(以下「ポスティング用地図」という。)の原図を作成した。被告らは、ポスティング用地図の原図を複写して配布員に渡し、当該配布員は、この原図を複写したものを使用して、ポスティングを行った。
 被告らは、配布可能部数、空き家・廃屋の別、新築物件、新たに設置された道、家屋の入り口やポストの位置等の情報を更に得たときは、随時、ポスティング用地図の原図にこれらの情報を書き加えた上、この原図を複写して配布員に渡していた

◆地図の著作物性について
 本件改訂により発行された原告各地図は、都市計画図等を基にしつつ、原告がそれまでに作成していた住宅地図における情報を記載し、調査員が現地を訪れて家形枠の形状等を調査して得た情報を書き加えるなどし、住宅地図として完成させたものであり、目的の地図を容易に検索することができる工夫がされ、イラストを用いることにより、施設がわかりやすく表示されたり、道路等の名称や建物の居住者名、住居表示等が記載されたり、建物等を真上から見たときの形を表す枠線である家形枠が記載されたりするなど、長年にわたり、住宅地図を作成販売してきた原告において、住宅地図に必要と考える情報を取捨選択し、より見やすいと考える方法により表示したものということができる。したがって、本件改訂により発行された原告各地図は、作成者の思想又は感情が創作的に表現されたもの(著作権法2条1項)と評価することができるから、地図の著作物(著作権法10条1項6号)であると認めるのが相当である。

◇被告の主張に対して
① 地図に著作物性が認められる場合は一般的に狭く、住宅地図は他の地図と比較して著作物性が認められる場合が更に制限される
 →原告各地図は、その作成方法、内容等に照らして、作成者の個性が発現したものであって、その思想又は感情を創作的に表現したものと評価できるから、地図の著作物であると認められる
② 原告各地図は、江戸時代の古地図や既存の地図、都市計画図に依拠して作成されたものであり、創作性が発揮される余地は乏しい、
 →原告各地図は、本件改訂によって、都市計画図等をデータ化したものに、居住者名や建物名、地形情報、調査員が現地を訪れて調査した家形枠の形状等を書き加えるなどして作成されたものであり、その結果、前記(2)イの特徴を備えるに至ったものであって、このような原告各地図の作成方法、特徴等に照らせば、原告各地図は、都市計画図等に新たな創作的表現が付加されたもの
③ 原告各地図は機械的に作成され、正確・精密であるとされることからすると、創作性が発揮される部分は更に限定され、国土地理院は、2500分の1の縮尺の都市計画基本図について、著作物性が認められる可能性は低いとの見解を示している、
 →被告らの指摘する国土地理院の見解(乙63)は、都市計画基本図について述べたものであり、住宅地図作成会社が作成する住宅地図一般について述べたものではない
  ・・・原告各地図は、都市計画図等を基図としてデータ化した上、これに種々の情報を書き加えるなどすることで、住宅地図として完成させたものであるから、国土地理院の上記見解は原告各地図に当てはまるものではない
  ・・・原告各地図は、地図の4辺に目盛りが振られ、当該地図の上、右上、右、右下、下、左下、左及び左上の各位置にある地図の番号が記載されており、目的とする地図を検索しやすいものとなっている上、信号機やバス停等がイラストを用いてわかりやすく表示されたり、建物等の居住者名や店舗名等を記載することにより住居表示についてもわかりやすくする工夫がされているなどの特徴を有するのに対し、証拠(乙70ないし73)によれば、都市計画基本図にはこのような特徴が全くないことが認められ、原告各地図と都市計画基本図とでは、そもそも性質が異なる
④ 過去に作成された住宅地図には家形枠が記載されたものがあり、家形枠を用いた表現自体ありふれている、
 →住宅地図において家形枠を記載することがよくあるとしても、原告各地図における家形枠の具体的な表現がありふれていることを認めるに足りる証拠はない
⑤ 原告は地図作成業務のうち少なくとも6割を海外の会社に対して発注しており、原告各地図には独自性がない
 →原告が原告各地図の作成業務を海外の会社に発注していることのみをもって、原告各地図の独自性を否定し、ひいては、その著作物性を否定することはできない

◆著作者について
 これらの①ないし③の事情を総合すれば、上記受託者及び従業員による調査及びその結果の原告各地図への記載は、原告の指揮監督の下、原告における職務の遂行として行ったものと認める
 ・・・原告各地図の表紙又はパッケージには原告の会社名が記載され、その末尾又はパッケージに「「ゼンリン住宅地図」(「本商品」)は当社の著作物であり、著作権法により保護されています。」と記載されていることが認められる。このような記載に照らせば、原告は、自己の著作の名義の下に、原告各地図を公表したと認める

◆複製権侵害に対する被告主張の否定
① 被告各地図を作成した後、原告各地図を複写したものをその都度廃棄している、
 →原告各地図を複写したものを廃棄したところで、原告各地図を複製した事実に変わりはないし、原告各地図を複写したものを切り貼りして作成した被告各地図の原図を更に複写すれば、原告各地図を複製したことになり得る
② 被告各地図においては、付票及びエリア枠線が必須であり、原告各地図と比較して1枚の地図が表現する範囲が異なっていることからすると、原告各地図の個性は埋没している、
 →被告各地図は、原告各地図を適宜縮小して複写し、これをつなぎ合わせたものである以上、両者の創作的表現が同一であることは明らかであって、被告各地図において、付票が貼付され、配布エリアを構成する部分が太線で囲まれており、原告各地図と比較して1枚の地図で表現する範囲が異なっているとしても、それらの点のみをもって、原告各地図の個性が埋没していると評価することはできない
③ 原告各地図と被告各地図との一致点は、都市計画基本図における表現と共通し、原告各地図において新たに表現された家形枠はほとんどないから、ありふれたものである、
 →原告各地図は都市計画基本図に新たな創作的表現が付加されたものであって、直ちに、原告各地図と被告各地図との一致点が都市計画基本図における表現と共通するものであるとは認められず、原告各地図の記載がありふれていることを認めるに足りる証拠はない
④ 被告地図12ないし17及び20は、被告フランチャイジーが原告地図12ないし17及び20を購入して被告会社に送付し、被告会社は被告フランチャイジーの手足としてこれを複製したにすぎない
 →被告会社が少なくとも原告地図12ないし17の全部又は一部を購入したものと認められ、他方、被告フランチャイジーが原告地図12ないし17及び20を購入して被告会社に送付したことを認めるに足りる証拠はない
 ・・・被告会社は、ポスティング業務を行うフランチャイジーを募集し、フランチャイジーに対してポスティング用地図を有償で提供することを提案していると認められることからすると、被告会社が被告フランチャイジーの手足として原告地図12ないし17及び20を複製したと評価することはできず、他にそのような評価を基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない

◆故意または過失について
 「ゼンリン住宅地図」には、末尾に、「「ゼンリン住宅地図」(「本商品」)は当社の著作物であり、著作権法により保護されています。」、「法律で特に定める場合を除き、当社の許諾なく本商品又は本商品に含まれるデータの全部若しくは一部を複製、転記、抽出、その他の利用をした場合、著作権法違反や不法行為となり、刑事上や民事上の責任を追及されることがあります。」などと記載されていること、「電子住宅地図デジタウン」のパッケージにも、遅くとも平成19年5月以降、上記と同趣旨の記載がされていることが認められる。上記認定事実によれば、被告会社には、前記3(2)の各行為により原告各地図に係る原告の複製権を侵害したことについて、故意があったと認めるのが相当である

◆30条の4柱書の抗弁
 被告会社は、原告各地図に記載された建物の位置、道路等の情報を利用するために、原告各地図を複写の方法により複製したものであるから、被告会社による複製行為は、原告各地図に表現された思想又は感情を自ら享受し、又は配布員に享受させることを目的としたものであることは明らかである

◆考察
 地図の著作物性については、弁理士なら一度は相談を受けたことがあるのではないか。事実の伝達に過ぎないものは著作物ではないという原則の上で、「著作権トラップの嘘の道には気をつけて下さい」「イラスト等を用いて表現された地図はやめて下さい」程度のアドバイスで終わらせた覚えはないだろうか。
 判決文において著作物性を肯定する文脈で用いられている「道路等の名称や建物の居住者名、住居表示等が記載されたり、建物等を真上から見たときの形を表す枠線である家形枠が記載されたり」という部分については、その言葉だけでは事実の伝達に過ぎないと感じる。このような要素を原告ならではノウハウで「表現」したことにより「長年にわたり、住宅地図を作成販売してきた原告において、住宅地図に必要と考える情報を取捨選択し、より見やすいと考える方法により表示したもの」と認められたものと信じたいが、実物を見ないことにはなんとも。ただし、上記文の前に「イラストを用いることにより」とされているので、やはり最終的な「表現」には事実の伝達を超えた創作性があったのではないか。
 逆に、上記要素を(イラストなどを用いずに)単なる情報として「わかりやすく」地図上に配置したのみで創作性が認められたのであれば結論には疑問が残る。
 また、被告の抗弁のうち30条の4柱書については、最終的に否定されてはいるものの一考の余地はあると考える。イラストなどを用いて「表現」したことが創作性の根拠であれば、その思想または感情を享受する行為というのは「鑑賞」が主となるのではないか。被告のように地域巡回のための地図として用いるの行為の主要な目的は「地形や道の把握」即ち「事実の伝達」なのではないか。
 もっとも、今現在においてはGoogle Maps上に情報を構築し、そのマップを共有すればいいだけの話であり、紙としての地図複製の相談は今後減っていくだろう。

11.平成31(ワ)8969 著作権侵害差止等請求事件

◆概要
 香港のゲーム会社が上海のゲーム会社に似た雰囲気のゲームをリリースし、上海のゲーム会社が訴えたが、類似点はすべてアイデアに過ぎないとして否定された。
 また、ゲーム内のキャラの雰囲気が似ていることそのものに加えて、被告ゲームのフェイスブックページに表示された点も公衆送信権の侵害として争点に加えられた。その中には原告ゲームのキャラの画像へのリンクが含まれ、それにより原告ゲームのキャラを含む画像(下記原告画像1,被告画像1)が被告ゲームのフェイスブックページに表示された点も争点に加えられたが、リンクを貼る行為がプロトコルによって画像表示に変換される結果となるのはリンクを貼った者の責任ではないとされた。

◆被告の行為
別紙被告画像目録記載1の画像(被告画像1~7)は、遅くとも平成30年8月13日から、フェイスブックの被告が管理する被告ゲームのアカウントに係るウェブページ(以下「本件ウェブページ」という。)に表示されていた。
 また、被告画像2ないし7は、プレイヤーが被告ゲームをプレイする際に表示されるゲーム内画面である。

◆原告画像1と被告画像1 →認定

原告画像1
被告画像1

①丸い眼鏡を掛けた茶色い体のふくろうのキャラクターが、左側の羽を広げ、右足を前に出して走っているようなポーズをとっている点、②上記ふくろうのキャラクターが、右側の羽で、先端に時計が付いた杖を握っており、上記時計は小屋のようなデザインであり、屋根は青色で壁は茶色である点、③上記ふくろうのキャラクターは、黄色い花と白いボアが付いた茶色の帽子をかぶり、青色と茶色のボーダー柄のマフラーのようなものを首に巻いている点において同一であると認められる。そして、上記①ないし③については、いずれも表現において創作性があるということができる。

◇侵害の成否について
 本件リンク設定行為は、本件動画の表紙画面である被告画像1をリンク先のサーバーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示させるものにすぎず、被告は、本件リンク設定行為を通じて、被告画像1のデータを本件ウェブページのサーバーに入力する行為を行っていないものと認められる。そうすると、前記(2)アのとおり原告画像1を複製したものと認められる被告画像1を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力、蓄積し、これを公衆送信し得る状態を作出したのは、本件動画の投稿者であって、被告による本件リンク設定行為は、原告画像1について、有形的に再製するものとも、公衆送信するものともいえないというべきである。

◇原告の主張について
①本件ウェブページに被告画像1を貼り付ける行為も、本件リンク設定行為も、本件ウェブページの閲覧者にとっては、何らの操作を介することなく被告画像1を閲覧できる点で異なるところはない
 →単に、本件ウェブページに被告画像1を貼り付ける等の侵害行為がされた場合と同一の結果が生起したことをもって、本件リンク設定行為について、複製権及び公衆送信権の侵害主体性を直ちに肯定することはできない

②本件リンク設定行為は、被告画像1を閲覧者の端末上に自動表示させるために不可欠な行為であり、かつ、原告画像1の複製の実現における枢要な行為といえる
 →仮に枢要な行為に該当することが侵害主体性を基礎付け得ると解したとしても、本件リンク設定行為の前の時点で既に本件動画の投稿者による原告画像1の複製行為が完了していたことに照らすと、本件リンク設定行為が原告画像1の複製について枢要な行為であるとは認め難い

③本件リンク設定行為をすることにより、被告ゲームを宣伝し、被告ゲームの販売による多大な利益を得たことを指摘し、規範的にみて、被告が複製及び公衆送信の主体と認められる
 →本件全証拠によっても、本件リンク設定行為により被告がどの程度の利益を得ていたのかは明らかではないから、その点をもって、被告が原告画像1の複製及び公衆送信の主体であることを根拠付けることはできない。

④仮に被告が著作権侵害の主体であると認められない場合であっても、少なくとも、被告が本件リンク設定行為により上記著作権侵害を幇助したものと認められる
 →被告による本件リンク設定行為は、被告画像1をリンク先のサーバーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示させるものにすぎず、本件動画の投稿者による被告画像1を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力・蓄積して公衆送信し得る状態にする行為と直接関係するものではない。そうすると、本件リンク設定行為が本件動画の投稿者による複製及び公衆送信行為自体を容易にしたとはいい難いから、被告による本件リンク設定行為が、被告画像1に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)侵害を幇助するものと認めることはできない。

◆原告画像2と被告画像2

原告画像2
被告画像2

画面の中央に、猿をモチーフにした赤い顔のキャラクターを配置した点、同キャラクターは、向かってやや右肩下がり方向に傾きつつ、画面の上下方向に延びた、キャラクターの体長よりも長い棒を右手で握り、右足を左足よりも上にして上記の長い棒に掛けるような態勢で立っている点、上記キャラクターが、首周りに数珠を巻き、腰にベルトを巻いている点において、共通すると認められる。
 しかし、猿をモチーフにしたキャラクターを描くこと自体は、アイデアにすぎない。また、猿のキャラクターとして、赤い顔を描いたり、細長い棒を手に持った様子を描いたりすることは、他の作品(乙28)にもみられるように、ありふれた表現であって、創作性が認められない。
 さらに、原告画像2と被告画像2に描かれた数珠やベルトは、形状や色において表現に具体的な相違が見られるから、数珠やベルトを身に着けているというアイデアが共通するにとどまる
 ・・・中央の円形の部分、獲得アイテム数表示欄、キャラクター選択欄、ステータスバー及び円形のアイコンは、それぞれ、原告画像2と被告画像2とで描き方が異なっているため、具体的な表現として共通するとは認められず、原告画像2と被告画像2の画面構成については、上記のような要素が配置されているという点が共通しているにすぎず、その具体的な位置や並んだ方向等が異なる。

◆原告画像3と被告画像3


原告画像3
被告画像3

原告画像3に描かれたロングコートは、被告画像3と異なり、タックがなく、腰に黒い帯状のベルトが存在するほか、原告画像3のキャラクターと被告画像3のキャラクターでは、手の広げ方や立つ向きなどが異なるなど、具体的表現に複数の相違点がある。そうすると、画面の中央に、裾が広がった白色のロングコートを着たキャラクターが背中を向けて立っているという上記の共通点は、いずれもアイデアが共通するにすぎないというべきである。仮に上記の点が表現に関する共通点であるとしても、裾が広がっ5 た白色のロングコートを着たキャラクターの表現はありふれたものであって創作性が認められない。また、原告画像3のタンクには赤い液体が入っており、その上下の部分が銀色の円柱状の金属様のもので覆われているのに対し、被告画像3のタンクには緑色の液体が入っており、その上下の部分が金色で先端が球状に丸まった金属様のもので覆われているなど、タンクの具体的表現には顕著な相違があるから、背中に2本のタンクを背負っているという共通点もまた、アイデアが共通するにすぎない。
 ・・・上記③の共通点(上記キャラクターが手に大きな器具を持っている点)は極めて抽象的なものであって、創作的表現に関する共通点と認める余地はない。さらに、上記④(暗い廃墟のような背景を有している点)についてみると、仮に暗い廃墟のような背景が描かれているという点で原告画像3と被告画像3が共通するとしても、描かれている情景や配色等の点で、その具体的表現は全く異なり、アイデアが共通するにすぎない。

◆原稿画像4と被告画像4


 

原告画像4
被告画像4

画面の中央に、上半身がほとんど裸の大柄の男のキャラクターを配置した点、同キャラクターは、右手に長方形の大きな刃を持つ武器を、左手にフック状の武器を持っている点において、共通すると認められる。
 しかし、原告画像4のキャラクターは、肌の色がピンク色で、筋肉質でたくましい上半身にエプロン状の衣装を身に着け、頭にはコック帽子を被っており、その体勢は、右足を切り株に乗せ、右手に持った武器を膝の前に置き、やや右側に寄った方向を向いているのに対し、被告画像4のキャラクターは、肌の色が灰色で、大きな手術痕を有する肥満体の上半身に丸い装飾を付した防具を身に付け、頭には何も被っておらず、その体勢は、右手の武器を振りかぶるように持ち、真正面を向いているというものであって、両者の具体的な表現には顕著な相違がみられる。そうすると、上記の共通点は、いずれもアイデアが共通するにとどまるというほかはない。
 ・・・上記③(中央の円形の部分の上に上記キャラクター、右上に3種類の獲得アイテム数表示欄、右側に縦長のキャラクター選択欄(大きくキャラクターの絵が表示され、下に白色文字で名前が表示されている。)、左側に4本の横向きステータスバー及び4つのオレンジ色の円形のアイコンが配置されるとの画面構成を有している点)については、原告画像4と被告画像4とで描き方が異なっているため、具体的な表現として共通するとは認められず、画面構成に関するアイデアが共通するにすぎないことは、前記イ(イ)で説示したところと同様である。

◆原告画像5と被告画像5

原告画像5
被告画像5

原告画像5に描かれている女性は、髪が水色でオールバックのように刺々しく固められており、足全体が隠れる水色のロングドレスを身に着けているのに対し、被告画像5のキャラクターは、髪が銀色でストレートであり、上半身にはジャケットのような衣装を、下半身にはストッキングのような衣装を身に着けている点で相違する。また、原告5 画像5のキャラクターが座る椅子は、紫色又は淡い紺色で、五重の階段状の台座になっており、背面には右手に剣をもった騎士のようなデザインが描かれ、その後ろ及び左右から氷柱のような刺々しい装飾が多数施されているのに対し、被告画像5のキャラクターが座る椅子は、台座は灰色で台形状の形になっており、左右及び中央の3カ所から蝋燭台のような形状の装飾が施され、椅子の背面は、水色で、アーチ状の細長い柱のようなものが設置されている点において相違する。したがって、画面の中央に、上半身に水色の衣装を着た女性が、片手を椅子に突き、足を組んで、正面を向いて椅子に座っている様子が描かれている点、上記椅子の背もたれは女性の上半身よりも高く、水色である点において共通するとしても、その具体的表現には複数の相違点が存在するのであって、いずれもアイデアが共通するにすぎない。
 ・・・上記②(上記キャラクターが座っている椅子は、水色で硬そうであり、氷を連想させるデザインであって、背もたれが女性の上半身よりも高い点)については、いずれも触感やデザインを抽象化した点が共通であると指摘するものであって、具体的表現の共通性を主張するものとはいえない。

◆原告画像6と被告画像6

原告画像6
被告画像6

画面の中央に、帽子を被り、短いスカートを着て、正面を向いた女性のキャラクターが配置されている点において共通すると認められるが、他方で、衣装の形状や色彩、顔つきなどの具体的な表現に顕著な相違が認められるから、上記の共通点はアイデアに関するものにすぎないというべきである。
 ・・・原告画像65 のキャラクターが持つ大きな鎌は、柄及び刃が黒色で、刃の縁と柄の先端に金色の装飾が施され、かつ、刃の先はフック状になって、柄が右斜め上方向を向いているのに対し、被告画像6のキャラクターが持つ武器は、柄及び刃が灰色で、刃の先端は長く、赤色であり、柄の根元部分は金色の装飾が施され、柄が地面と並行になって地面に刺さっている点において相違しており、そもそも具体的な表現が共通しているとは認められない。

◆原告画像7と被告画像6

原告画像7
被告画像6

原告画像7のキャラクターが身に着けている帽子の縁は白く、赤いマントはほぼ体に沿う広がりのない形状であり、短いスカートは、裾が白いほかは全体として赤く、複数のひだが配された形状のものであるのに対し、被告画像6のキャラクターが身に着けている帽子の縁は黄色で刺のような部位が8か所に配置され、赤いマントは下部で左右に広がる略三角形の形状であり、短いスカートは白色で赤い部分やひだがないものである点において、具体的表現に複数の相違点が存在する。そうすると、原告画像7と被告画像6の上記共通点は、アイデアについて共通するものにすぎないというべきである。仮に表現について共通するものとみるとしても、上記のような容姿の女性のキャラクターを描くことは、他の作品(乙51)にもみられるように、ありふれた表現にすぎず、創作性が認められない。
 ・・・鎌の大きさや長さについて原告画像7と被告画像6との間に共通点があるとしても、それらは大きいとか長いといった抽象的な点であって、両者の鎌の具体的な描写は異なっているから、アイデアが共通するにすぎないというべきである。

◆原告画像8と被告画像7

原稿画像8

被告画像7

原告画像8では、4つの赤い円形のアイコンが横一列に並んで配置されているのに対し、被告画像7では縦一列に並んで配置されているから、4つの赤い円形のアイコンが並んで配置されているという共通点は、具体的な表現において異なっており、アイデアが共通するにすぎない。同様に、アイコンの内部に全体として赤及び黒によって模様が描かれているという共通点や、鎌のような刃物を前に抱え、左を向き、一方の足を伸ばし、他方の足を曲げた格好の人影の模様が黒く描かれている共通点についても、具体的な表現に関する共通点ではないから、アイデアが共通するにすぎない。
 ・・・上記③(原告画像8の一番左のアイコンと被告画像7の一番下のアイコンの中には、鎌を持った人影が、鎌を身体の前方に抱え左側を向き、片足を伸ばし、もう片足を曲げており、鎌を持った者の態勢と背景から左上に向かって飛んでいるように見える点)の共通点についてみると、原告画像8の人影は専ら黒く描かれているのに対し、被告画像7の人影は、上半身及び鎌に当たる部分が白く縁どられていること、原告画像8の人影は頭巾のようなものを被り、体は服又は体型で太く描かれているのに対し、被告画像7の人影は頭巾のようなものを被っておらず、細い体型が描かれていること、原告画像8の背景部分は赤く渦のような形状が描かれているのに対し、被告画像7の背景部分は、人影を囲むように、人影の周囲及び足から先がやや明るくなっていて、人影が前方に向けてスピードを出して移動しているかのような印象を与えるように描かれているなど、具体的な表現には多くの相違点が存在する。

◆考察
 ファイヤーエムブレム事件のキャラクターデザインに関する部分とほぼ同じ内容。
 具体的なデザインとして表れていない、テーマ、雰囲気、設定等はアイデアに過ぎないという判断。
 そのような雰囲気上の類似点が全体にわたって幾つもある場合に憤る気持ちはわかるが、「違法ではないレベルの模倣を幾つも積み重ねて全体として類似に至っている」という論理での主張は過去の判例において尽く否定されている。

12.令和3(ワ)2859 著作権侵害差止等請求事件

◆概要
 被告が運営する自動車・カー用品情報のブログサービスを提供するウェブサイト「みんカラ」に、ユーザーが投稿した記事に原告の著作物である写真が用いられており、サービス運営者に対して賠償を求めたが、公衆送信権の侵害はユーザーの行為であってサービス運営者の行為としては認められず、氏名表示権侵害の責任も負わないと判断された。

◆原告著作物
 原告は、平成22年6月9日に別紙原告写真目録記載の写真(以下「原告写真」という。)を撮影し、インターネット上のFlickrという名称の写真投稿サイトにおいて、自己の氏名を付して公開した。
 原告写真は、夜間に1台の車両の全体を側方から撮影した写真であり、車両の前照灯が点灯しているほか、前輪のブレーキローターが赤くなっている様子が写っている。
 原告写真は、レンズ・カメラの選択、アングル、シャッターチャンス、シャッタースピード・絞りの選択、ライティング、構図・トリミング等によって原告の思想・感情を創作的に表現した著作物である。

原告写真

◆氏名不詳者の行為
 氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)は、平成24年12月11日、本件ウェブサイトのブログサービスを利用して、「ブレーキパッドの選び方その⑤~パッドテストの参加~」というタイトルの投稿(以下「本件投稿」という。)をした。
 本件投稿には、文章のほか、原告写真の複製物である写真が含まれており、同写真は、被告が管理するサーバーに蔵置、記録され、自動公衆送信が可能になった(以下、同サーバーに蔵置、記録されて、送信可能になった写真を「投稿写真」といい、同サーバーからの投稿写真の公衆送信を「本件公衆送信」ということがある。)。
 本件ウェブサイトの利用者が本件投稿を閲覧すると、投稿写真を見ることができ、その際、原告の氏名は表示されなかった。

→原告代理人が被告に対して写真の削除を求め、被告は削除した。

◆本件投稿の削除に関する経緯
 本件原告訴訟代理人弁護士は、令和2年5月27日付けで、被告に対し、原告の代理人であるとして、投稿写真の削除を求め、被告は、同年6月3日、同代理人に対して、原告の本人確認資料及び同代理人の代理権を証する委任状の提出を求めることなどを記載した書面を送付した。原告は、それへの特段の応答はせず、本訴を提起した。被告は、令和3年1月12日に訴状副本の送達を受けて、本件投稿者に問い合わせをし、本件投稿者は、令和3年1月22日に本件投稿の投稿写真を削除した。被告は、本件ウェブサイトにつき、コンテンツデリバリーネットワークサービスを利用していたところ、同年2月8日、本件投稿者の上記対応を受け、同サービスのキャッシュサーバ―に記録されていた投稿写真のデータも削除した。

◆被告が複製、公衆送信の主体であるか否かについて
 本件投稿は、本件投稿者が、被告の指示等もなく、自由にその内容を決定して投稿したものであり、本件投稿をしたことにより、本件投稿を契機とする被告の特別な行為を経ることもなく本件投稿による複製、公衆送信がされた。上記複製、公衆送信への被告の関与の内容や程度の小ささを考慮すると、本件投稿者は、本件投稿の複製、公衆送信をした者であり、被告はその複製、公衆送信の主体ではないと認められる。
 ・・・本件ウェブサイトでは、被告が投稿の内容を検証、変更等する仕組みがあることを認めるに足りず、投稿者がデータをサーバーに記録し、公衆送信するための操作さえ完了すれば、自動的に閲覧ができた。被告が投稿の内容を検証等していれば直ちに被告が複製、公衆送信の主体と認められることになるかは措くとして、少なくとも本件ウェブサイトではそれらの検証等はされていない。このような実際の仕組みを考慮すると、規約上は被告が投稿内容を吟味する権限があるとしても、複製、公衆送信への被告の関与の程度は小さく、その権限をもって、本件について、複製、公衆送信について被告が投稿内容を支配、管理等していると評価することは相当ではなく、規約上の権限は、前記の判断を左右しない。なお、投稿の消去を投稿者が自由にこれを行うことができることからすれば、被告が投稿を削除する権限を有し、かつその投稿が削除されないことをもって、被告の主体的な送信行為があると評価することも相当ではない
 ・・・本件ウェブサイトにおいて、ブログサービスでされた投稿は、投稿者の名前(ユーザー名)と共にブログサービスにおいてされた投稿として表示されるのであり、被告が投稿の内容を検討した上で本件ウェブサイトにおける配置等をすることもない。本件ウェブサイト上の投稿の表示に対する被告の関与も限定的といえ、原告指摘の事情をもって、被告が複製、公衆送信をした事情となるとは認められない。また、前記の事情に照らし、被告が本件ウェブサイトの運営により利益を得ていることは、その判断を左右するものではない。
 ・・・被告が会員の投稿の著作権等知的財産権を取得すること、これを前提に被告が投稿内容を別途、二次利用することが予定されていることを指摘し、被告が複製、公衆送信の主体であると主張する。・・・投稿は、本件ウェブサイトにおいて投稿者の名前(ユーザー名)と共に投稿者がブログサービスにおいてした投稿としてそのまま表示される。これらの複製、公衆送信行為への被告の関与の実態からすると、投稿された内容についての権利の帰属によって、投稿に関する複製、公衆送信の主体が決定されるとは認められない。被告に権利が帰属するとされたことにより被告が投稿内容を何らかの形で利用した記事等を作成した場合に、当該記事等の複製、公衆送信について被告が主体となることがあるとしても、本件投稿について、上記規約は前記判断を左右するものではないとするのが相当と解される。
 ・・・投稿写真を公衆に提示したのは、本件投稿者であり、被告ではないと認められる。したがって、投稿写真が公衆に提示されるに当たり著作者の氏名が表示されていないことについて、被告は氏名表示権侵害の責任を負わない。

◆考察
 印象としてはDMCAに準じた判断。本件については判断時点において投稿が削除されていたことが多少なりとも結論に影響しているものと推測されるが、その経緯は上記の通り。正当な権限の提示は当然に要求するべきものであり、それにまったく対応することなく訴訟提起した原告の対応にも疑問は残るが、原告側の立場から見れば、被告の対応は必ずしもスムーズなものではなかった。
 にも関わらずサービス運営者の責任は回避されており、原告の立場に立てば不満の残る結果となっている。
 AmazonやYouTub等では正当権限を有しない者による虚偽の申し立てによる公開停止が横行しているようだが正当権限の確認を厳密にすれば権利者には負担となり、バランスが難しい。
 つきつめていくと、著作者であること、著作権者であることを完全に証明することは難しく、権利者、特に創作者としては、創作の時点から自己の著作物であることを証明する手段を検討しておくべきなのかもしれない。

13.令和2(ワ)32121 著作権侵害差止等請求事件

◆概要
 下請けのパッケージデザイン会社である朋社の写真の流用により、朋社の客同士(写真の権利者側と流用写真を利用したデザインの納品を受けた側)がトラブル。
 被告は流用写真が利用されたパッケージを廃棄し、似たような写真を別途撮影して新たにパッケージを制作した。原告は写真の著作物に基づく損害賠償を請求したが、共通点には創作性が無いとして退けられた。

◆被告の行為
 食品会社である被告は、「えびチーズはるまき」のパッケージのラベルシールデザインを下請け業者である朋社に依頼して納品を受けたが、そのデザインに使用された写真は、朋社が被告とは別の原告から依頼を受けてパッケージデザインを行う際に原告から受領した写真のデータを流用したものであった(ラベルシール1,2)。
 原告の警告を受けて被告は似たような写真を独自に撮影し、新たなラベルシール3を制作した。

◆原告写真

◆被告ラベルシール

ラベルシール1(流用)
ラベルシール2(流用)
ラベルシール3(独自)

◆ラベルシール3に関する著作権侵害の成否について
◇共通点a
 ・・・角度や向きを変えながら料理を順に重ねて盛る「重ね盛り」という方法が存在することが認められるところ、原告写真と被告写真3の被写体であるスティック春巻はいずれも細長い形状を有するから、スティック春巻を盛り付ける場合に、上記の「重ね盛り」の方法によってスティック春巻を数本ずつ交差させて配置することは、スティック春巻の撮影する場合に一般的に行われるものであるということができる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8)によれば、共通点aと同様に、棒状の春巻を配置して撮影された写真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現は、ありふれたものといわざるを得ない。
◇共通点b
 ・・・春巻の具を撮影するためには春巻をカットしなければならないし、その際、具を強調するために、断面積が大きくなるよう、斜めにカットすることは、スティック春巻を撮影する際に一般的に採用され得る手法ということができる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8)によれば、共通点bと同様に春巻を斜めにカットした断面を配置して撮影された写真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現は、ありふれたものといわざるを得ない。
◇共通点c
 ・・・白い器は料理の色を引き立てる効果があり、選択肢として基本的な色であること、料理の写真を撮影する際には盛り付ける料理にぴったり合う大きさの皿を選択することが重要であることが認められる。そうすると、白色で模様がなく、黄土色のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用することは、スティック春巻の写真を撮影する上で一般的に行われ得るということができる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、8)によれば、共通点cと同様に、白色で模様がなく、被写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用して撮影された写真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。
◇共通点d
 ・・・料理写真の構図として、料理を正面から撮影するのではなく、左右に回転させて左右向きに配置して、斜めの方向から撮影する手法が存在することが認められる。そうすると、皿に並べた春巻を、角度をつけて撮影することは、一般的に行われ得るということができる。加えて、証拠(甲25、26、乙7、8)によれば、共通点dと同様に、皿に並べた春巻を、角度をつけて撮影した写真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。
◇共通点e
 ・・・料理写真の撮影方法として、料理の斜め後ろから料理に光を当て、料理上部を明るく照らすとともに手前側を暗くして立体感を生じさせる斜め逆光という手法が存在すること、斜め逆光は料理写真で最もよく使われるライティングであることが認められる。
 したがって、被写体に影を付け、立体感を醸成するという撮影方法は、春巻を含む料理の写真を撮影する上で一般的に用いられ得る手法であるということができる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8)によれば、共通点eと同様に、斜め逆光の手法を用いて撮影された春巻の写真が多数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。
◇共通点f
 揚げ物である春巻に、野菜が付け合わせとして盛り付けられることは、一般的に行われることであるといえるから、春巻の写真を撮影する際に野菜が皿の隅のスペースに置かれることもまた、一般的に行われることということができる。現に、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8)によれば、上記の共通点と同様に配置された春巻の写真が複数存在することが認められる。そうすると、上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。
◇小括
 原告写真と被告写真3は、ありふれた表現が共通するにすぎず、原告写真と被告写真3との間で創作的表現が共通するとは認められないから、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たるとは認められない。

◆その他
 ラベルシール1,2に関しては原告の警告に対して速やかに廃棄処分を実行しており、差止の必要性は認められない。

◆考察
 下請けの写真の流用に関してはお察し。
 この判決を前提としてスイカ写真事件をやり直したらどうなるだろうか。

14.令和3(ワ)10987 著作権侵害損害賠償請求事件

◆概要
 「奨学金『取り立て』ビジネスの残酷―『借金漬け』にして暴利貪る」、「若者の借金奴隷化をたくらむ『日本学生支援機構』―延滞金を膨らませて骨までしゃぶる“奨学金”商法」の著者であるジャーナリストが、中京大学の教授の雑誌記事が著作権の侵害に当たるとして損害賠償請求を行ったが、共通部分には著作権の保護は及ばないとして退けられ、民法上の不法行為についても「著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益」がないとして退けられた。

◆別紙1の対比表
◇「1-1あ」,「1-5あ」,「1-6あ」,「1-7あ」,「1-10あ」について
 ・・・①奨学金の原資を確保するのであれば,元本の回収が何より重要であること,②日本学生支援機構は2004年以降,回収金をまず延滞金と利息に充当するという方針をとっていること,③日本学生支援機構の2010年度の利息収入は232億円,延滞金収入は37億円に達し,これらの金は経常収益に計上され,原資とは無関係のところにあること,といった点が共通している。
 しかし,上記共通点のうち,①は,原告雑誌記事が発行,公表される以前から既に問題になっていた奨学金の金融事業化についての一般的な考察(乙5ないし7)であって,思想又はアイデアに属するものというべきである。②と③は,奨学金の回収方法や日本学生支援機構の収支に関する事実であり,③の後段の,回収された金と奨学金の原資との関係についての評価は,これもまた①と同様に奨学金の金融事業化についての一般的考察として思想又はアイデアに属するものというべきであって,原告記述と被告記述とは,表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また,①ないし③の記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は独創的なものとはいえないし,文章の分量も短く簡潔で,表現も特徴のないありふれたものといわざるを得ず,表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。
◇「1-1い」,「1-2い」,「1-3い」,「1-5い」,「1-6い」,「1-7い」,「1-10い」について
 ・・・①回収された金の行き先のひとつが銀行であり,債権管理回収業者(サ-ビサー)であり,2010年度期末で民間銀行からの貸付残高が1兆円,年間の利払いが23億円であること,②サービサーについては,同年度で約5万5000件を日立キャピタル債権回収など2社に委託し,16億7000万円を回収し,そのうち1億0400万円が手数料として払われていること,といった点が共通している。
 しかし,上記共通点は,いずれも奨学金の回収方法や日本学生支援機構の収支に関する事実であり,原告記述と被告記述とは,表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また,①,②の記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は独創的なものとはいえないし,文章の分量も短く簡潔で,表現も特徴のないありふれたものといわざるを得ず,表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。
◇「1-2あ」,「1-3あ」,「1-4」について
 ・・・①日本学生支援機構の2010年度の利息収入は232億円,延滞金収入は37億円に達すること,②これらの金は経常収益に計上され,原資とは無関係のところにあること,③この金の行き先のひとつが銀行であり,債権管理回収業者(サ-ビサー)であること,といった点が共通している。
 しかし,上記共通点は,いずれも奨学金の回収方法や日本学生支援機構の収支に関する事実であり,②の利息等と奨学金の原資との関係は,上記アの③と同様に,思想又はアイデアに属するものというべきであって,原告記述と被告記述とは,表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また,①ないし③の記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は独創的なものとはいえないし,文章の分量も短く簡潔で,表現も特徴のないありふれたものといわざるを得ず,表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。
◇「1-8」,「1-9」について
 ・・・①2010年度の利息収入は232億円,延滞金収入は37億円に達し,これらの金は経常収益に計上さ15 れ,原資とは無関係のところにあること,②この金の行き先のひとつが銀行であり,債権管理回収業者(サ-ビサー)であり,2010年度期末で民間銀行からの貸付残高が1兆円,年間の利払いが23億円であること,③サービサーについては,同年度で約5万5000件を日立キャピタル債権回収など2社に委託し,16億7000万円を回収,そのうち1億0400万円が手数料として払われていること,といった点が共通している。
 しかし,上記共通点は,いずれも奨学金の回収方法や日本学生支援機構の収支に関する事実であり,①の利息等と奨学金の原資との関係は,上記アの③と同様に思想又はアイデアに属するものというべきであって,原告記述と被告記述とは,表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また,①ないし③の記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は独創的なものとはいえないし,文章の分量も短く簡潔で,表現も特徴のないありふれたものといわざるを得ず,表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。
◇「1-11」について
 ・・・①奨学金の原資を確保するのであれば,元本の回収が何より重要であるが,②日本学生支援機構は2004年以降,回収金をまず延滞金と利息に充当するという方針をとっていること,③日本学生支援機構の2010年度の利息収入は232億円,延滞金収入は37億円に達し,これらの金は経常収益に計上され,原資とは無関係のところにあること,④この金の行き先のひとつが銀行であり,債権管理回収業者(サ-ビサー)であり,2010年度期末で民間銀行からの貸付残高は1兆円,年間の利払いは23億円であること,⑤サービサーについては,同年度で約5万5000件を日立キャピタル債権回収など2社に委託し,16億7000万円を回収,そのうち1億0400万円が手数として払われていること,といった点が共通している。
 しかし,上記共通点のうち,①は,既に問題になっていた奨学金の金融事業化についての一般的な考察の一部であって,思想又はアイデアに属するものというべきであり,②ないし⑤は,いずれも奨学金の回収方法や日本学生支援機構の収支に関する事実であって,原告記述と被告記述とは,表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また,①ないし⑤の記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は独創的なものとはいい難く,表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。

◆別紙2の対比表
◇「2-1」について
 ・・・①申立てがあると,裁判所は債務者に督促通知を送ること,②通知を受けた側は2週間以内に異議申し立てをすることができること,③異議を申し立てた場合は訴訟に移行すること,④異議がなければ督促内容が確定して,判決と同様の効力を持つこと,といった点が共通している。
 しかし,上記共通点は,いずれも支払督促の制度内容に関する事実であって,原告記述と被告記述とは,表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また,①ないし④の記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は支払督促手続の流れに沿うものであって,独創的なものとはいい難く,文章もごく簡潔で,制度内容を特徴のないありふれた表現で説明したものであり,表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。
◇「2-2あ」について
 ・・・①日本学生支援機構の会計資料によれば,2010年度の利息収入は232億円であること,②同年度の20 延滞金収入は37億円であること,③延滞金収入が増加傾向にあること,といった点が共通している。
 しかし,上記共通点は,いずれも日本学生支援機構の収支に関する事実であって,原告記述と被告記述とは,表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また,①ないし③の記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は独創的なものとはいい難く,文章も簡潔で表現も特徴のないありふれたものであり,表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。
◇「2-2い」について
 ・・・①利息,延滞金で年間数億円の収入があり,日本学生支援機構の説明によれば,これらのお金の行き先は「経常収益」,つまり「儲け」とされていること,②延滞金の回収をしても,奨学金の「原資」にはならないこと,といった点が共通している。
 しかし,上記共通点のうち,①は,日本学生支援機構の収支に関する事実であり,②は,前記のとおり,既に問題になっていた奨学金の金融事業化についての一般的な考察であり思想又はアイデアに属するものというべきであって,原告記述と被告記述とは,表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また,①,②の記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は独創的なものとはいい難く,文章も簡潔で表現も特徴のないありふれたものであり,表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。
◇「2-2う」について
 ・・・①延滞金に固執すれば原資の回収は遅れるが,これは,回収金をまず延滞金と利息に充当するという方針を実行しているからであること,②もし,本当に原資を回収したいのであれば,元本から回収すべきであること,といった点が共通している。
 しかし,①は,日本学生支援機構の奨学金の回収方法に関する事実であり,また,①,②のいずれも,既に問題になっていた奨学金の金融事業化についての一般的な考察の域を出るものではなく,思想又はアイデアに属するものというべきであって,原告記述と被告記述とは,表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また,①,②の記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は独創的なものとはいい難く,文章も簡潔で表現も特徴のないありふれたものであり,表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。
◇「2-2え」について
 この箇所の原告記述と被告記述とでは,それをしないのは,「利益」こそが回収強化の狙いであるという記載部分が共通しているが,共通している部分の文章自体が極めて短く,ここに筆者の何らかの個性を見出すことは困難であり,原告記述と被告記述とは,表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。
◇「2-2お」について
 ・・・数億円の延滞金と利息収入があり,利息の大半は財政融資資金という政府から借りた金の利払いに充てられること,もうひとつの金の行き先が,銀行と債権管理回収業者(サービサー)であること,といった点が共通している。
 しかし,上記共通点は,いずれも,日本学生支援機構の収支に関する事実であり,原告記述と被告記述とは,表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また,①,②の記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は独創的なものとはいい難く,文章も簡潔で表現も特徴のないありふれたものであり,表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。
◇「2-2か」について
 ・・・その共通点自体が直ちに見出し難いものであるが,この点を措くとしても,両者の内容的な共通点は,日本学生支援機構が,銀行からの借入金に対し多額の利払いを行い,またサービサーにもお金が行っているという点であり,日本学生支援機構の収支に関する事実,すなわち表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。
◇「2-2き」について
 その共通点自体が直ちに見出し難いものであるが,この点を措くとしても,両者の内容的な共通点は,2012年度の債権回収業務を担当した日立キャピタル債権回収株式会社が21億9545万3081円を回収し,1億7826万円を手数料として受け取ったという点であり,債権回収会社の実績に関する事実,すなわち表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。

◆民法上の不法行為について
 ・・・被告による被告各記述について,これに対応するとされる原告各記述の性質,内容や,原告雑誌記事,原告ルポにおける位置付け等に照らし,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情があることを具体的に認めるに足りる客観的な証拠は見当たらない。したがって,原告の上記主張には理由がなく,被告各記述について著作権侵害が成立しない場合の別途の不法行為の成立を認めることはできない。

◆考察
 こういった事案において「依拠性」に関する議論が薄いことにはいつも違和感がある。
 絵画、小説、映画等をはじめとした純粋な創作物の場合に比べて、報道や主張に関する著作に関して類似の内容が個別に発表される可能性は高いと思われる。著作権侵害において依拠性が条件である以上、報道や主張に関する著作での侵害判断に関しては、依拠性に関する主張立証がより重要になるはずである。
 しかし、本件においても依拠性ではなく類似点の創作性に関する議論が主となっており、裁判所の判断において依拠性が取り上げられることはなかった。
 原告の主張立証も「似てるんだから」という以外に客観的な主張立証は行わていない。
 逆に言えば、原告がもっと依拠性に重点をおいて主張立証を行えば、こういった報道や主張に関する著作においても原告に有利な判断が下される可能性があるのではないか。
 ただ、依拠性の主張立証がそもそも夢物語だという現実はある。

15.SCANPAN関係

令和4(ワ)3313 YAHOO!JAPANショッピング内
令和3(ワ)15525 被告は、「オーエスシー」
令和3(ワ)21224 被告は、「B」 
令和3(ワ)21533 YAHOO!JAPANショッピング内 画像削除
令和3(ワ)21922 株式会社BOOTROOM
令和3(ワ)28410 個人 
令和3(ワ)28416 個人 閉鎖
令和4(ネ)10085

◆概要
 デンマークの「SCANPAN」という調理器具メーカーの日本正規代理店が撮影・作成した商品写真について、同フライパンを並行輸入により日本国内でウェブ販売する業者が無断で使用した。正規代理店が使用料の支払いを求めて提訴し、1サイトあたり5万円を基準とした支払いが命じられた。

画像目録1
画像目録2a
画像目録2b

◆対象の画像の内容
 別紙画像目録1記載①ないし⑦の各画像は、「SCANPAN」ブランドのノンスティックフライパン(以下「原告商品」という。)を用いて調理をしている写真や、原告商品に共通する性能、特長などを紹介する写真、画像及び説明文等から構成されている。また、同目録2記載の各画像では、商品ごとに、中央に原告商品の写真が、右下にスポンジの写真が、それぞれ配置されている。

◆著作物性
 本件画像②及び③にスキャンパン本社から提供された写真が用いられていることを考慮しても、本件画像①ないし④には、書体、配色、掲載写真・画像の選択、配置などの点において、原告商品の販売促進のための画像としての相応の工夫がされており、その表現に作成者の個性が現れているといえるから、思想又は感情を創作的に表現したものと認められる。
 ・・・文字の書体、配色や上部の背景の構成、配色を本件画像①ないし④と同一にすることで、これらの画像との間で統一感を与えている。また、原告商品の素材の特長や有害物質を含有しない旨の文言を記載するだけでなく、同旨の画像を併せて配置することで、これらの特長を視覚的にも強く印象付けるものとなっている・・・本件画像⑤には、書体、配色、掲載写真・画像の選択などの点において、原告商品の販売促進のための画像としての相応の工夫がされており、その表現に作成者の個性が現れている
 ・・・本件画像⑥には、書体、配色などの点において、原告商品の販売促進のための画像としての相応の工夫がされており、その表現に作成者の個性が現れている
 ・・・本件画像⑦には、書体、配色、掲載写真の選択などの点において、原告商品の販売促進のための画像としての相応の工夫がされており、その表現に作成者の個性が現れている
 ・・・本件画像⑧は、・・・撮影の構図、ピント、シャッター速度、タイミング、絞り等において工夫がされていることが認められる。・・・そうすると、本件画像⑧は、本件各商品の形状を明確に表現する点において作成者の個性が表れたものであり、作成者の思想又は感情を創作的に表現した著作物であるというべきである。

◇下記は二審での追加
 ・・・本件画像②及び④中のフライパンで調理中の食材を写した写真と本件画像③中のフライパンを製造している職人の写真は、スキャンパン社から提供を受けたものであることを控訴人は自認しており(スキャンパン社がこれら写真に係る著作権を控訴人に譲渡したことを認めるに足りる証拠はない。)本件画像⑦はスポンジを、本件画像⑧は本件商品とスポンジを被写体としてありふれた態様で撮影した写真であり、本件画像中の文章はごくありきたりの広告文又は説明文にすぎないものの、これら素材の選択、配置及び組合せに全く選択の幅がないわけではなく、本件商品の特徴を分かりやすくする工夫も見られないではないし、個性の顕れも一応うかがわれるから、本件画像には創作性があるといえ、本件画像を著作物と認める。

◆故意、過失の認定について
 ・・・被告は、本件各画像を自身で創作していないことを認識していた以上(当事者間に争いがない。)、被告ストアに本件各画像を複製、掲載するに当たり、本件各画像の著作権者が誰であるのか、著作権者がその利用を許諾しているかどうかを調査、確認する注意義務があったというべき
 ・・・原告が楽天市場に開設していたオンラインストア及びアマゾンに出品していた商品の販売ページには、本件各画像と同一又は類似の画像が掲載されていた上、当該ストアないしページの管理者が原告であることを認識し得る記載がされていること、それらの販売ページにおいて、当該画像を自由に複製、転載することを許諾するような文言は見当たらず、かえって、原告が楽天市場に開設していたオンラインストアには、原告により作成されたコンテンツ(画像、映像、デザイン、ロゴ、テキスト等)に関する権利は著作権法により保護されており、許可なく使用できない旨が記載されていたことが認められる。これらの事実関係に照らせば、被告は、自身が販売しようとする商品のブランド名ないし画像そのものを手掛かりとして、インターネット上の情報ないし画像を検索することにより、本件各画像の著作権者が原告であり、かつ、これを利用するには原告から許諾を得なければならないことを、容易に認識できたと認められる。

◆その他
 損害額の認定について、5万円の根拠は不明。エイヤ!

 唯一控訴された件では、ウェブサイトが複数のウェブページの束であるという前提のもとで、ウェブページ数に基づいて損害額を算定するべきであるとの主張がされたが、「・・・ウェブサイトの閲覧上、本件画像は本件商品の数に相当するウェブページで閲覧されるものではあるが、それらは一定の目的をもって一体化された画像の一部が使い回されているとみることも可能なものであり、本件画像ごとに複製又は送信可能化について損害額を算定することは妥当とはいい難い・・・」と判断されている。
 また、「・・・本件画像の利用期間も短期間であって、現に被告ストアで販売された本件商品も認められないということであれば、閲覧に供された回数も限定的なものと考えるのが自然である。さらに、本件画像中の写真の一部はスキャンパン社から提供された写真であって控訴人が著作権を有するものではないし、本件画像は商業的実用用途を目的とする著作物であって、むしろ、本件商品をありのままに表現することを主目的とするものと理解され、その表現される思想又は感情は限定的なものであるといえる。また、被控訴人に過失があることは免れないとしても、それは重大なものではない・・・」とも指摘されている。
 更に、「・・・写真についての利用許諾状況をみてみると、毎日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で商業使用する者に対し、2万2000円から4万4000円の使用料の支払を求めることがあり(甲5)、朝日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で使用する者に対し、使用期間6か月までの場合に2万2000円、使用期間1年までの場合に3万3000円、使用期間3年までの場合に5万5000円の使用料の支払を求めることがあり(甲6)、株式会社アフロは、同社が権利を有する様々な種類の静止画像をインターネット上の広告やホームページなどに使用する者に対し、同一ウェブサイト内においては使用箇所を問わず、使用期間1年までの場合に2万2000円、使用期間3年までの場合に2万8600円、使用期間5年までの場合に3万3000円の使用料の支払を求めることがある(甲7)との事実が認められるものの、使用許諾される写真のサイズ、質等や、媒体の数、掲載場所等の使用許諾の際の利用条件の詳細が不明であり、これら使用料をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることはできず、ましてや、上記使用料を参考として算定した額をウェブページ1ページ当たりの損害として損害額を算定すべきとする根拠ともならない・・・」とされている。

◆考察
 「モノが売れれば公式の利益にもなるわけだし、公式の画像であれば使っても平気だろう」という考えのもとだったのではないか。
 しかし相手が版元ではなく国内正規代理店の場合、そして自身が並行輸入業者である場合には当然ながら話が変わってくるというお話。
 著作権的に参考になる部分としては、商品を説明するために作られた画像に創作性が認められるのか、という点である。
 本件の画像は特段アーティスティックに描写されているわけではなく(と言ったらカメラマンに怒られるかもしれないが)、まさに「商品説明」という趣であるが一応著作物と認定されている点が相談業務において参考になるのではないか。つまり、商品の説明書を無断でコピーして配布したり転載したりするような事が許されないという判断の参考になる。
 他方、裁判所としては表現の幅が狭いことも認めており、その結論は5万円という算定学の論拠として用いられている。裏を返せば、このような商品説明といった実用的なものではなく、鑑賞を目的としたものの複製であれば損害額はこれ以上ということになる。

16.総括

 とにかく「ネット」と「画像」である。
 昨今の相談内容の実感としても、多かれ少なかれ「画像」に関連している。
 画像を用いた情報伝達が効率的であることは疑いようがなく、著作権法が権利者保護を名目として不当にそれを妨げるようなことは避けるべきであり、特に、著作物性、引用(32条)、思想又は感情の享受を目的としない利用(30条の4)辺りはなるべく近い判例に基づいた回答を提供するべきである。
 認められる場合/認められない場合、それぞれの事例として(必ずしも判断が一貫しているとは言えないが)2022年の判例には有効なものが揃っているのではないかと思う。

 著作権に加えて、今後は画像意匠に関しても画像に関する相談において注意すべき事項になるが、そもそも意匠法に関する判例が少ないことに加え、画像意匠制度自体が施行されて間もないこともあり、検討できることと言えば登録例を精査することくらいしか思いつかない。昨年度より、画像意匠に関する知見を求めて意匠委員会に所属し、多くの登録例に触れているところではあるが、どこまでが権利範囲になるのか測りかねるというのが正直な感想である。

 著作権に関する判例に対して思うところの一つが「判断基準のブレ」である。
 例えば、スイカ写真事件とスティック春巻き事件とを比べるとどうだろうか。
 写真の著作物に関する判例の蓄積による判断基準のブレの解消を期待したい。

 また、昨今のなんでもかんでも「パクリだ」「トレスだ」と叩く風潮には非常に危機感を感じる。
 法的に非侵害と判断される内容であれば、やっていることは商標ブローカーと同様、登録されていない分、商標ブローカーよりも更に悪質と言わざるを得ない。
 我々弁理士としては、そのようなケースに立ち会った場合、特にパクリを糾弾する側での依頼があった場合、不当な批判や権利主張に加担することなく、誤った法解釈を諫める立場に立つことで、依頼者の真の利益に貢献するべきなのではないだろうか。

「個性」の合う弁理士がきっと見つかる。 弁理士事務所Shared Partners

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。