「知的財産とは?」のページでも主張していることですが、知財とは「アイデアを守る」だけが目的ではなくて、「アイデアを開放することにより、これから創る人の利益を守る事」もまた目的です。
「??? どゆこと?」
という疑問に答えるための方便として私がよく使うのが、「ロミオとジュリエット」を例にした話。
敵対陣営の王子と姫による悲恋…
これが「ロミオとジュリエット」の大きなテーマなわけですが、仮に著作権を最大限広く主張したとすると、
「敵対陣営の男女が恋をする話は全部ロミオとジュリエットの盗作だ!」って事になっちゃうわけですね。
まぁ、「ロミオとジュリエット」の著作権なんてとっくに切れてるわけですが、仮にそれが生きていたとして。
あり得ないでしょう。
これは極端すぎる例ですが、もっと微妙な問題、微妙な線引きの中で言い過ぎている事が世の中には結構ありまして、
「オリンピックって言葉を使うと怖いおじさんが来るぞ」
という都市伝説もそういう事です。
で、今回は【建築物や屋外展示された作品の知財】についてです。
めんどくさいですが、著作権法の条文を見てみます。
(公開の美術の著作物等の利用)
第四十六条 美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
一 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
二 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合
ホント、法律の条文って読みづらい!
平たく言うと、
・屋外で誰でも見物可能なように設置されている美術品
・建築物
については、勝手に使っていいよ。
ただ、
・彫刻は勝手に複製したり売ったりしないでね
・建築物はかってに同じ建築物を作らないでね
・基本的に複製はいいんだけど、屋外で誰でも見物可能なように設置するのはやめてね
・販売のために美術品を複製したり、当初は販売の目的が無かったとしても複製した後に販売するのはやめてね
ってことです。
じゃあ何が許されるのかって言うと、例えば
・撮影する事
・撮影した写真や映像を売ったり、販促物等に使う事
・建築物や彫刻の模型、ミニチュアを作って売る事
etc
とにかく、上に書いた著作権法46条でNGとされている事以外は、何やってもいいというのが前提です。
じゃあ、言い過ぎてるのは誰だ!?というところで、今回は日本一有名な建築物をピックアップしてみようと思います。
日本一有名な建築物とは!?
やはり東京タワー、スカイツリー辺りじゃなかろうかと。
ということで、まずは東京タワーの利用規約を見てみます。
東京タワーのプロパティ(※)を用いた商品・サービスの企画・製造・販売に関する業務、広告宣伝及び各種媒体における東京タワーのプロパティの使用につきましては、日本電波塔株式会社の承諾が必要となります。
東京タワーのプロパティのご利用につきましては、こちらよりご相談ください。
詳細につきましては後日弊社よりご連絡申し上げます。
使用許諾料は、内容によって決めさせていただきます。
なお、使用承諾には使用許諾料のお支払いの他、東京タワーのプロパティとしてのイメージを維持するため遵守していただく事項等の諸条件がございますが、利用内容によりましては、使用を承諾しかねる場合がございますので、予めご了承ください。※東京タワーのプロパティ
1.名称
(東京タワー・TOKYO TOWER)
日本語・外国語問わず
2.ロゴマーク
3.外観的形象
(東京タワーの形状・色彩・照明等)
写真・デザイン含む
4.キャラクター
【ノッポン】※名称・形象
という事になっています。
ダウト~~~~!!!
「3.外観的形象」で、写真・デザイン含むとなっているのはどうなのでしょう。
少なくとも、著作権法上は無根拠、「言い過ぎ知財」です。
では、他の法域に根拠を探してみるとします。
で、一番に頭に浮かぶのが【商標法】
ざっと検索してみますと、東京タワーの形状が登録された商標がありました。
登録番号:第5302381号
権利者:日本電波塔株式会社
指定商品・役務
6類 金属製の置物
16類 紙製の置物
20類 プラスチック製・木製の置物
28類 おもちゃ
商標
こんな感じ。
「立体商標」と呼ばれる、立体的な形状を商標登録するやつですね。
でまぁ、【指定商品・役務】に記載されている置物だの玩具だのに、この形状を使えば商標法上は商標権の侵害という事になるわけです。
なので、例えば勝手に東京タワーのプラモデルを販売すると、この商標権の侵害になる、というのが原則です。
ここで、ちょっとまて!
と言いたい。
商標法上にこんな規定があります。
(商標権の効力が及ばない範囲)
第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
・・・
二 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標
・・・
あ゛~~読みずらい!
平たく言うと、
説明になってるような言葉は商標権の侵害にはなりません、ってことです。
極点な事を言うと、
仮に、商標「リンゴ」、指定商品「果物」って商標登録があったとしましょう。
そんな商標は絶対に登録されませんが、仮にです。
そうすると、商標権者以外はリンゴを「リンゴ」って言って売れなくなるわけですね。
それじゃ困るから、売り物の説明になっているような商標は使っても商標権の侵害にはなりませんって事になってます。
そういった意味で、「商品の・・・品質、・・・形状、・・・特徴、・・・を普通に用いられる方法で表示する商標」には、商標権は及ばないとされています。
で、東京タワーです。
かの有名な東京タワーの「形状」ですよね?
つまり、商品を「東京タワーの模型」と捉えれば、「東京タワーの模型という商品の形状を普通に用いられる方法で表示する」ものなので、商標権侵害じゃないってことになります。
片や、商品を「模型」と広く捉えれば、「模型という商品の形状」といっても千差万別なので、上記の条文が適用されるか不明です。
つまるところ、東京タワーの形状の独占を許すか、パブリックドメインとして広く利用を認めるか、という議論になるのですが、著作権法上で建築の著作物について割と広い利用が認められているにも関わらず、商標法でそれが覆されるなんてことがあってもいいものか、そこについては大いに疑問があるわけです。
で、この商標登録が、すんなりと登録されているかというと、そんな事はありません。
審査の第一段階では、「有名な東京タワーの形状だからダメ!」という事で拒絶されてます。条文は違いますが、上記の26条とまぁ同じような趣旨(条文は3条1項3号)。
そして、審査の第二段階である審判という手続きで「登録!」となっています。
では、その審判でどのような判断がされて登録されたのか、
・・・
そして、これらの特徴を有する東京タワーの構造、形状は、我が国国民一般の間において広く認識されているものである。
そうとすると、本願商標は、その指定商品に採用し得る一形状を表したものであるとしても、上記の東京タワーの特徴を模した形状であるから、一見して東京タワーを理解、認識するものというべきであり、さらに、これらの特徴が本願の指定商品の持つ機能を効果的に発揮させたり、あるいは指定商品の形状の持つ美感を追求する等の目的で選択されるものとはいいがたく、むしろ当該形状をもって、東京タワーの形状として、同種の商品等と明らかに識別されていると認識することができるに至っているものとみるのが相当である。
そして請求人(出願人)は、東京タワーの所有者、管理者である。
そうとすると、本願商標に接する取引者、需要者は、本願商標の形状をした本願の指定商品をみた場合、これが東京タワーの置物・玩具であって、請求人の業務に係る商品あるいは請求人と何らかの関係のあるものであると理解、認識すると判断するのが相当であり、本願商標は、その特徴的な形状をもって自他商品の識別標識としての機能を果たすものというべきである。・・・
( ´_ゝ`)フーン
って感じですが。
つまり、特許庁の審判官は、東京タワーの形状、その模型の製造販売について日本電波塔株式会社に独占させることを許した、
(※ここから2019/12/31 追記)
わけではありません!
特許庁の審判官が判断したのは、あくまでも「識別力があるか否か」です。
この東京タワーの形状が、商品やサービスの看板として、特定の出所、つまり会社などの事業者を示すものとして機能するか否か、です。
その結果として、東京タワーの形状は、東京タワーを管理する日本電波塔株式会社の商品やサービスの出所として機能するという結論に至ったのであって、東京タワーの形状、その模型の製造販売について日本電波塔株式会社に独占を許すという判断をしたわけではないのです。
ただ、商標権というのは、
第二十五条 商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。
という効力を持ったものですから、結果として「使用をする権利を専有する」ことになるわけです。
(※2019/12/31追記部分ココまで)
じゃあこれでファイナルアンサーかと言うと、そうではありません。
特許庁の判断はあくまでも行政の判断であって司法の判断ではないのです。
つまり、東京タワーの模型を勝手に製造販売した人が訴えられて、商標法26条(や商標的使用態様か否か)を根拠に争って初めて結論が出る。
それまでは、あくまでも特許庁によって「東京タワーの形状には日本電波塔株式会社の業務を示す標識として識別力がある」と判断されただけであって、上記の商標法26条(や商標的使用態様か否か)に基づいて権利行使が認められないか否かの判断が確定したわけではない。
にも関わらず、我が物顔で言い過ぎかもしれない利用規約を提示しているってのはどうなんすかね。
私はダサいと思いますが。
でもまぁ、指定商品が模型関係ばかりなので、写真撮って売ったり使ったり、映像を撮影して素材にしたり、画像・映像関係は基本セーフじゃないかと。
ってか、エッフェル塔の二番煎(ry
長くなったのでスカイツリーに関しては次回!
あぁ、あと、アイキャッチ画像は自分で撮影したものなので悪しからず。
“根拠が無いのに主張されている「言い過ぎ知財」を晒していく” への3件のフィードバック