「表現」と「アイデア」の境目とは? ―金魚電話ボックス事件【地裁】―

「金魚電話ボックス」巡り提訴 金魚の街、奈良・大和郡山の商店街に「著作権侵害」と美術家

電話ボックスを水槽に見立てたアート作品の著作権侵害について、地裁判決が高裁でひっくり返って話題になりました。

高裁判決のウェブ公開を待っているのですが中々公開されないのでとりあえず地裁判決について書きます。

事件の経緯

平成12年12月(頃までに) 原告が作品を制作

原告作品の内容は、
・垂直方向に長い直方体で,側面の4面がガラス張りである,我が国で見られる一般的な公衆電話ボックスを模した形状の造作物内部に水を満たし,その中に金魚を泳がせているもの。
・同造作物の屋根部分は黄緑色様である。
・同造作物内部の一角には,二段の正方形の棚板を設置し,上段に黄緑色様の公衆電話機が据え置かれている。
・上記公衆電話機の受話器は,受話器を掛けるハンガー部分から外されて本体上部に浮いた状態で固定され,同受話器の受話部から気泡を発生させている。
というもの。

被告組合は奈良県大和郡山市の個人および中小企業を組合員とする協同組合。
被告Bは大和郡山市の活性化を目的とする団体Aの代表者。

平成23年10月 京都造形芸術大学の学生らによる団体である「金魚部」は,被告作品を制作し,「テレ金」と名付けて展示を行った。

平成25年10月 大和郡山の地元有志による「金魚の会」が被告作品を「金魚部」から承継し,「金魚電話」と題して展示を行った。

平成26年2月22日頃 被告Bが「金魚の会」から被告作品を承継し,,奈良県大和郡山市内に被告作品を設置した。そして,被告作品の管理主体は,その後,被告組合に移転した。

被告作品の内容は、
・実際に使用されていた公衆電話ボックスの部材を利用した,公衆電話ボックス様の造作物内部に水を満たし,その中に金魚を泳がせているもの。
・同造作物の屋根部分は赤色である。
・同造作物内部の一角には,二段の棚板を設置し,上段に灰色の公衆電話が据え置かれている。
・上記公衆電話機の受話器は受話器を掛けるハンガー部分から外されて本体 上部に浮いた状態で固定され,同受話器の受話部から気泡を発生させている。
というもの。

争点

1.原告作品は著作物性を有するか?
2.被告作品は原告作品の著作権を侵害したか?

争点1 原告作品は著作物性を有するか?

「公衆電話ボックスを水槽にすること」はアイデアであるとして著作物性を否定。

確かに公衆電話ボックスという日常的なものに,その内部で金魚が泳ぐという非日常的な風景を織り込むという原告の発想自体は斬新で独創的なものではあるが,これ自体はアイディアにほかならず,表現それ自体ではないから,著作権法上保護の対象とはならない。

と判断されました。

「金魚の生育環境を維持するために,公衆電話機の受話器部分を利用して気泡を出す仕組み」もアイデアであるとして著作物性を否定

多数の金魚を公衆電話ボックスの大きさ及び形状の造作物内で泳がせるというアイディアを実現するには,水中に空気を注入することが必須となることは明らかであるところ,公衆電話ボックス内に通常存在する物から気泡を発生させようとすれば,もともと穴が開いている受話器から発生させるのが合理的かつ自然な発想である。すなわち,アイディアが決まればそれを実現するための方法の選択肢が限られることとなるから,この点について創作性を認めることはできない。

と判断されました。

公衆電話ボックスの具体的な造形等は「表現」として著作物性を肯定

公衆電話ボックス様の造作物の色・形状,内部に設置された公衆電話機の種類・色・配置等の具体的な表現においては,作者独自の思想又は感情が表現されているということができ,創作性を認めることができるから,著作物に当たるものと認めることができる。

と判断されました。

つまり、「公衆電話ボックスを水槽に見立てること」や「受話器を水槽ポンプにすること」を模倣するのみでは著作権侵害にはならず。公衆電話ボックスの具体的な造形を模倣した場合にのみ著作権侵害が認められるということを示唆する判断です。

争点2 被告作品による原告作品の著作権侵害の有無

原告作品中で著作物性を認めた公衆電話ボックスの造形等は異なると指摘

原告作品は屋根部分が黄緑色様であるのに対し,被告作品は屋根部分が赤色である。また,被告作品は実際に使用されていた公衆電話ボックスの部材を利用しているのに対し,原告作品はこれを使用せず,アルミサッシや鉄枠等を組み合わせて制作されている。

として、公衆電話ボックスの具体的造形などが異なることを指摘しています。
その上で、以下のとおり「受話器が水中に浮かんでいる点」は具体的表現として共通するものの、それだけで原告作品を感得することはできないとしています。

原告作品と被告作品は,①造作物内部に二段の棚板が設置され,その上段に公衆電話機が設置されている点,②同受話器が水中に浮かんでいる点は共通している。しかしながら,①については,我が国の公衆電話ボックスでは,上段に公衆電話機,下段に電話帳等を据え置くため,二段の棚板が設置されているのが一般的であり,二段の棚板を設置してその上段に公衆電話機を設置するという表現は,公衆電話ボックス様の造作物を用いるという原告のアイディアに必然的に生じる表現であるから,この点について創作性が認められるものではない。また,②については,具体的表現内容は共通しているといえるものの,原告作品と被告作品の具体的表現としての共通点は②の点のみであり,この点を除いては相違しているのであって,被告作品から原告作品を直接感得することはできないから,原告作品と被告作品との同一性を認めることはできない。

地裁判断の要旨

「具体的表現の一部」が共通しても著作権侵害は成立しない

上記の通り、地裁判断において原告作品と被告作品とで具体的な態様が共通すると判断されたのは、
①造作物内部に二段の棚板が設置され,その上段に公衆電話機が設置されている点
②同受話器が水中に浮かんでいる点
の2点です。

このうち、①の方は、公衆電話の一般的な態様であり必然的に定まるものであって創作性が認められるものではないから著作権侵害には影響しないものとされました。他方、②の方は具体的表現として共通しているものの、この点が共通しているだけでは被告作品から原告作品を直接感得することはできないとして最終的な判断として非侵害となりました。

なお、具体的な表現としては、「受話器が水中に浮かんでいる点」だけでなく、「その受話器が水槽ポンプになっている点」も共通していると思うんですが、その点については著作物製の判定に際して、「電話ボックスを水槽にする」というアイデアから必然的に定まるものとして創作性を否定しています。

地裁判決において疑問を投げかけるとすれば、
・受話器が水中に浮かんでいる点が共通するだけでは被告作品から原告作品を直接感得することはできない
・受話器が水槽ポンプになっている点は「電話ボックスを水槽にする」というアイデアから必然的に定まるので創作性を発揮しない
という2点かなと感じます。

さぁ、高裁判決はどのような論理でひっくり返ったんでしょうか!?

※既に判決文自体は入手してるんですが、裁判所が公式に公開してくんないとなんとなく書きづらいっていうか、、、

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