“みけねこカフェ”による”みけねこかふぇ”へのリプは不正競争に該当するか?

まずはポストをご覧ください。

てな事がありました。

その後、

こういうことになりました。

まぁ、一件落着といえば一件落着。

なんですが、”みけねこかふぇ”側だけが誤っている状況に違和感がありまして、ちと書いておこうかなと思った次第。

場合によっては、こちらで書いたように、商標権者側の過失による不正競争の認定もあり得るのではないかとすら思うわけです。

別にVtuberみけねこのファンだとか”みけねこかふぇ”を擁護したいとかそういうことは全くないんですが、言いすぎ知財は大嫌いなものですから。

まぁ、ニコニコ全盛期は自分も完全なるニコ厨でして、リスナーというほどではないにしろ、生主みけねこのニコ生もちょいちょい見ていたぐらいには知ってます。

1.商標権の内容と役務の問題
2.商標権の効力が及ばない範囲
3.商標的使用
4.商標法の伝家の宝刀
5.あのリプは不正競争か?

1.商標権の内容と役務の問題

今回対象となる商標権はどうやらこちらです。

【商標】みけねこカフェ
【指定役務】43類 店員が猫のコスチュームを身につけて接客を行う飲食物の提供

なので、この商標権で他社の行為を制限することができるとしたら、「店員が猫のコスチュームを身につけて接客を行う飲食物の提供」というサービス、もしくはそれに類似するサービスに対して、「みけねこカフェ」という商標、もしくはそれに類似する商標を使用する行為に対してです。

「カフェ」と「かふぇ」の違いについては、まぁ類似の範囲ということになるでしょう。
一般的にはカタカナで表記される「カフェ」を平仮名で表記するところに特徴があるので、「カフェ」と「かふぇ」の違いにより非類似だ!という主張もあり得るかとは思います。

問題は、「店員が猫のコスチュームを身につけて接客を行う飲食物の提供」というサービスについてですね。

こちらを見る限り、

「みけねこかふぇ」のスタッフが「猫のコスチュームを身につけて」いる状況では無さそうですが、実際にはどうなんでしょう。
ここでは、猫のコスチュームは身につけていないとして論じます。

すると、「みけねこかふぇ」は少なくとも「店員が猫のコスチュームを身につけて接客を行う飲食物の提供」というサービスに対して「みけねこかふぇ」を使用しているわけではありません。
なので、類似するサービスであるか否かが次に検討されることとなりますが、少なくとも「飲食物の提供」を行っているのは間違いないので、「店員が猫のコスチュームを身につけて接客を行う飲食物の提供」と単なる「飲食物の提供」とが類似するサービスであるか否かが検討されることになります。

ここで疑問に思うのは、「みけねこカフェ」は、なぜより広い「飲食物の提供」という形で商標権を確保していないのか?という点です。

で、商標の出願時の状態を確認しますと、以下の通りでした。

【商標】みけねこカフェ
【指定役務】43類 飲食物の提供

そして、審査の経過を見ると、拒絶理由が通知されていて、対象の条文は(第3条1項各号・第4条1項16号)となっていました。

はっは〜ん…

先に、この4条1項16号というのを見てみましょう

第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
 十六 商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標

というものです。
そしてこの条文は3条1項3号の拒絶理由とセットで通知されることが多く、俗に「識別力なし」と言われる拒絶理由です。上記の通り、第3条1項各号も通知されていますよね。

第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
 三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

自分の経験則から拒絶理由の内容を予想すると、「みけねこカフェ」という商標を、三毛猫をコンセプトとした「飲食物の提供」について使用しても、それはサービスの内容を表示しているに過ぎず3条1項3号違反。そして、三毛猫をコンセプトとしない「飲食物の提供」について使用した場合には品質誤認のおそれがあるので4条1項16号違反、という内容だったのではないかと思います。

つまり、「みけねこカフェ」という商標は、「飲食物の提供」という広い概念での指定役務では識別力が無く、商標登録できないので、「店員が猫のコスチュームを身につけて接客を行う飲食物の提供」という形に補正して登録が認められたということです。
まぁ、「店員が猫のコスチュームを身につけて接客を行う飲食物の提供」だったとしてもその「猫」が三毛猫であれば3条1項3号違反だし、三毛猫じゃなければ4条1項16号違反だという論理立てもできますが、その辺は特許庁による審査の匙加減ですかね。

少なくとも、この審査経過からすれば、「店員が猫のコスチュームを身につけて接客を行う飲食物の提供」という指定役務において重要なのは「店員が猫のコスチュームを身につけて・・・」の部分ということになります。なので、猫のコスチュームを身につけていない単なる「飲食物の提供」が役務として類似と判断される可能性は低いんじゃないかと思います。

なので、「みけねこかふぇ」は「みけねこカフェ」の商標権を侵害していない、という結論は十分にあり得ることかと思います。

<追記↓>
で、このことは商標登録出願を代理した代理人弁理士が出願人に対してしっかり説明しておかなければいけないことです。
登録はあくまでも「店員が猫のコスチュームを身につけて接客を行う飲食物の提供」であって、店員が猫のコスチュームを身につけていない単なる「飲食物の提供」に対しては権利行使できる保証はありません、みたいな感じで。

今回、みけねこカフェ側が安易にあんなリプを送ってしまったということは、代理人からこういった注意を受けていない可能性がありますね。だとしたら完全に代理人の責任。

で、代理人だれやねんと思って見てみたら、なんとあのゆっくり茶番劇商標の代理人と同じでした。
<追記↑>

2.商標権の効力が及ばない範囲

さてお次、「店員が猫のコスチュームを身につけて接客を行う飲食物の提供」と単なる「飲食物の提供」とが商標法的に類似だった場合にはどうか。

当ブログを読んでくださっている方にはお馴染み、商標法26条(商標権の効力が及ばない範囲)でございます。

検討されるのは1号、3号

第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
一 自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
<略>
三 当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標
<略>

まず1号に関しては、「みけねこ」がVtuberみけねこ氏の芸名(?)として著名であるか否かという点が論点ですね。
なお、厳密に言えば「みけねこかふぇ」を使用しているのはみけねこ氏本人ではなく別の運営会社ですが、みけねこ氏公認の元で行われていることですから広い意味で「自己の」で宜しいかと思います。

どうでしょうか。
自分個人としては、「みけねこカフェ」のことは知りませんでしたが、生主、もといVtuberみけねこ氏のことは知っていました。なのでみけねこ氏の知名度は「みけねこカフェ」の知名度を上回っているんじゃないかと思いますが。

続いて3号、”みけねこかふぇ”は、”みけねこ”の”かふぇ”と読むことができますが、実際に運営されているのはVtuber”みけねこ”氏のコラボ”かふぇ”ですから、役務の質を表示しているという主張は可能です。

1号、3号ともに「普通に用いられる方法で表示する」という要件については、例えばこの記事で解説した判例では割とシビアに判断されていましたので、こんな感じのロゴだと「普通に用いられる方法で表示する」という要件は満たされないかもしれません。

3.商標的使用

こちらも当ブログでは常連の論点、こことかここでも書いた商標的使用に該当するか否か、です。

例えば、ドーナツクッション事件(平成22(ネ)10084)では、クッション,座布団,まくら,マットレス等を指定商品とした「ドーナツ」という商標権があるのに対して、ドーナツ型のクッションに「ドーナツクッション」と表記して売られていましたが、以下の通り判断されています。

被告商品の本体の形状を示すイメージ図及び包装箱の説明文等と相俟って,被告商品がその中央部分を取り外すと,中央部分に穴のあいた輪形に似た形状となるクッションであることを説明するために用いられたものであると需要者において認識し,商品の出所を想起するものではないといえることなどに鑑みれば,被告各標章は,被告商品の出所識別表示として使用されているものではないと認められるから,その使用が『登録商標に類似する商標の使用』(商標法37条1号)には該当せず,被告の商品であることを示す『商品等表示』(不競法2条1項1号,2号)にも当たらないというべきである。

このような判断を本件について適用すれば、”みけねこかふぇ”の表記はVtuber”みけねこ”氏のコラボ”かふぇ”であることを示すための表記であり、その使用が『登録商標に類似する商標の使用』(商標法37条1号)には該当せず,被告の商品であることを示す『商品等表示』(不競法2条1項1号,2号)にも当たらないというべきである。

という判断は十分あり得るでしょう。

4.商標法の伝家の宝刀

こちらで解説した、商標法の伝家の宝刀、小僧寿し判決です。

“みけねこかふぇ”に行く人は、上記の通りVtuber”みけねこ”氏のコラボ”かふぇ”だから行くのであって、”みけねこカフェ”と間違えていくような人は皆無かと思います。

“みけねこかふぇ”が”みけねこカフェ”の内装やロゴデザインなどに寄せた形で運営されているのなら話は変わってきますが、そのような事情も見えません。

Vtuberみけねこ氏の知名度はこの判決時の小僧寿しには匹敵しないとは思いますが、少なくとも”みけねこかふぇ”が実施されることによって”みけねこカフェ”に損害が発生しているとは思えないですね。

5.あのリプは不正競争か?

ということで、「みけねこかふぇ」は「みけねこカフェ」の商標権を侵害していない、若しくは権利行使の対象外である、と判断される理由は各種思いつくわけですが、仮にそうだったとして、”みけねこカフェ”による件のリプには問題ないのでしょうか?

というか、わざわざ第三者にも見られるリプという形でやる必要があったんでしょうか。

不正競争防止法
(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
 二十一 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為

こちらで解説した通り、雑な商標権行使には不正競争として認定され、手痛いしっぺ返しがあります。

今回のことで、”みけねこかふぇ”は”みけねこカフェ”の商標権を侵害しているものの、示談により解決した、というイメージが流布されることになってしまいました。実際には商標権侵害ではなかったかもしれないのに、です。

最終的に損害賠償として金を支払うまでには権利行使をされた側に生じた損害を具体的に計算することになるわけですが、今回はコラボカフェが中止になったりといったことはなかったようなので、その点では損害が観念されることは無さそうです。

個人的に、この雑な権利行使による不正競争の損害計算において注目しているのは、実際に金銭として生じた損害ではなく精神的な損害が認められるのか、という点です。

ある日突然、

「お前のその行為は権利侵害だ!」

と言われて怖い思いをして、色々調べたりお金を払って専門家に相談したりして必死に対応して、挙げ句の果てに

「間違いでした」

となっても、警告を受けた側は「あ〜よかった」とはなりません。

精神的な損害も賠償されて然りなのではないでしょうか。

本件が勃発した時、そのような判例が爆誕するのかと期待したのですが、示談で終わってしまって非常に残念です。

今後も、自らの知見を増やすために赤の他人の争いを求めてやみません。

「個性」の合う弁理士がきっと見つかる。
弁理士事務所Shared Partners

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です